蒼氷の朱雀5
もう少しテンプレ展開は続くと思いますが、気ままに読んでいただければ幸いです。
リーン市街のどこからでも見える大きな時計台。
四方向に顔を持ち、町全体に一分の遅れも無く正確な時間を伝えるその時計台の天辺にケヴィンは移動を終えていた。
背後には定時に鳴り響く大きな鐘。
町全体に届くこの鐘の音が、これ程間近で鳴り響けばとても耳障りだろう等と、遠くで必死にケヴィンを探すマリアを眺めながらケヴィンは考えていた。
やっと一息つけると思ったのだが、ケヴィンはポツリと呟く。
「……やれやれ、今日はやたらと人に追いかけられる日らしい」
ケヴィンはうんざりだと言う表情をしながらも、人が潜んでいると思われる方向へと視線を向ける。
「ふぉっふぉっふぉ……よもや追尾がバレているとは思わなんだ」
鐘の影から姿を見せたのは白髪の目立つ老人。
「……あんたはあの闘技場にいた……」
「アルベルト・ワイズマン、お主はケヴィンと言ったな? あの状況下でワシの事を把握しておるとはの」
「あれだけ興味津々に視線を浴びせられてんのに、気づかなかったら間抜けだろ」
「その通り……と言いたいところじゃが、意外と世の中にはその間抜けが多いと思うぞい」
長く伸びた白い髭を撫でながら、世の中の間抜け共を小馬鹿にする様な発言をする老人。
ケヴィンは再び口を開く。
「そんで、わざわざ分かりやすく気配を出しながら着いて来た意図は何だ?」
「分かりやすく……か、つくづく恐ろしい子じゃ。ワシが聞きたいのは一つじゃ。お主……どうやって『その力』を手に入れた?」
ケヴィンにとっては本当に分かりやすかったのだが、ニュアンス的に彼はそう言うつもりは無かったらしい。
そして単刀直入に質問を投げかけてきた事に対し、ケヴィンの非常にシンプルな答えを返す。
「努力した」
ケヴィンは事実のみを口にした。
「ケヴィンとやら、そんな簡単な話では無い事はお主が一番理解しておろう。言い方を変えよう……お主はこの世の者か? 何か特別な力を備えた者か? 才能あふれし者、つまり……『英雄』か?」
「……ちげぇよ」
眉間に皺を寄せながら、低く唸る様に言葉を返すケヴィン。
僅かな殺気が籠っていたのだろう、アルベルト表情が若干歪む。
「そんな奴らと俺を一緒にするな。ただの才能で成り上がった中途半端な英雄と俺を比べるな。俺が通って来た道を……『才能』なんて簡単な言葉で片付けてくれるな」
混血種は決して才能等に恵まれる筈が無い。
最弱種族の名は伊達じゃない。
どれだけ努力しようと、純血には決して敵わない壁と言う物が存在する。
ケヴィンの両親は英雄でも、特別優れた存在でも、ましてや貴族家でも長老家でも無い。
一般の……それも戦闘経験の無い『ただの人』だ。
その二人の間に生まれたケヴィンも当然才能なんて一ミリも無かった。
そんな状況下でもケヴィンはこの強さを手に入れた。
唯一恵まれていたとすれば、それは『環境』だろう。
生まれてすぐの環境を言っている訳ではない。
奴隷解放令後の、つまり竜騎士に救われた後の状況は聊か恵まれていた方だとは思う。
地盤を築けたのは間違いなく彼のお陰であるからだ。
彼に拾われた後、数年は彼の自宅で過ごした。
貴族邸に劣らぬ豪邸にケヴィンは驚きを隠せなかったが、その地下には訓練に最適な環境が整えられていた。
様々な訓練用の機材に魔力吸収魔法陣の刻まれた壁。
そこではどれだけ激しい訓練をしても、『一定の威力』を超える事が無ければ崩壊する事等無い。
どちらにせよ当時のケヴィンでは、どれだけ全力で魔法を放っても普通の壁すら破壊する力等持っていたなかった為、その効力は意味を為さなかったとも言える。
それでも気兼ねなく全力で魔法を行使できる環境は恰好の修練場であるの間違いなかった。
ケヴィンは竜騎士、つまりエリルに自宅の設備を自由に使う事の許可を得た。
3歳にも満たないケヴィンが出来る鍛錬等たかが知れているが、それでもこの時ばかりは混血種と言う種族が重宝した。
混血種は『魔力を扱う』と言う括りに限って確かに最弱種族ではあるが、魔力を一切使わずの肉体だけの能力で言えば、人間となんら変わらない能力を持っている。
それに加えてエルフの知能だ。
本来人間の子は、知能よりも先に体が成長する為に、物心が付く年齢はエルフと比べると3倍程の期間が掛かる。
打って変わってエルフは体よりも知能が先に成長する為、一年も生きない内に思考錯誤が出来る程の知能を得る事が出来た。
それと引き換えに、己の足で地を歩く為に要する期間が人間の三倍程となるのだが。
混血種は身体能力と知能指数に関しては人間、エルフの良い所取りをした様な状況にある。
生後まもない頃から一定以上の知能に恵まれ、人間の肉体を持つ為に早い時期から独り立ちする事が出来る。
三歳近くになるケヴィンならば、同年代の人間よりも遥かに物事を思考出来、エルフよりも自在に体を動かし行動する事が出来る。
幸か不幸かそれらの恩恵によって、ケヴィンは訓練に最も最適な手段を算出し実行する事が出来た。
その為に、ケヴィンはその日から寝る間も惜しんで鍛錬に励む日々が始まり、その全てを効率よく行っていく事で、一般人よりも……いや貴族家や長老家の子息達が受ける英才教育よりも遥かに高いレベルでの鍛錬を積む事が出来ていた。
しかし混血種の壁と言うものは幾重にも立ちはだかる。
普通の種族ですら、上を目指す為には何度も壁にぶち当たる事だろう。
その上で何の才能の無い両親の元で生まれたただの混血種であるケヴィンには、どれだけ少なく見積もっても一般人の倍以上の壁が存在する事となる。
ケヴィンは何度も何度も己の限界を感じた。
自分の才能の無さに涙を流す時だってあった。
しかしその度にケヴィンは、強引に壁を打ち破って行く。
諦める事等考えた事もなかった。
あの日フェンリルに殺されかけ、一度死を覚悟した彼は怖い物等何も無くなっている。
その為我武者羅に……傍から見れば自暴自棄に己を鍛錬していった。
ケヴィンに転機が訪れたのはそれから二年と数ヵ月経った頃だった。
竜騎士、エリル・エトワールの『失踪』である。
その二年間、エリルは度々長期間家を空ける事があったが、それでも最長一ヵ月程だった。
ケヴィンの生活状況を知っていた為か、毎度毎度ケヴィンが食に困らない様色々見繕ってくれていた事により、失踪した時期の様に半年間家を空けていても、ケヴィンは耐える事が出来た。
そう、エリルはその時……半年間も自宅に戻ってこなかったのだ。
消息不明と言う一報を耳にしたのはそのすぐ後の事だ。
魔道具式のテレビから流れるニュース番組では、『竜騎士失踪事件』を様々な観点から予測していた。
任務中、不慮の事故で命を落とした。
命は落としていないものの、事故か何かで記憶を失いどこかを彷徨っている。
元の世界へ帰った。
魔族に寝返った。
どれもこれも何の根拠もない噂レベルの憶測である。
だがそれほど絶大でそれほど存在感のある男の失踪は、日夜世間をくぎ付けにする事件だった。
ケヴィンからしてみれば、あの竜騎士が死ぬ等とは到底考えられない為に、ニュースの情報で一理有ると思えた候補は、前者二つよりも後者二つ。
こうも消息が掴めないとなると、やはり元の世界へ帰ったと言うのが本命だろうか。
そうこうしている内にやがてエリル宅の食糧は尽きる。
お世話に成っている立場上、衣食住以外の物をこの家から貰おう等と到底思えないケヴィンは、その後外へ出る事を決意した。
しかし現代知識を何も持たないケヴィンの行きつく先は何も無い。
だが腹を満たさねば明日生きる事さえ難しくなる。
だからと言って盗みを働くなんて考えは出てこなかった。
ケヴィンがそうすれば、この世の中では『やはり混血種は』等と後ろ指を指される事だろう。
最弱種族と言えど己の種族に誇りを持っているケヴィンにとって、そうなる事は許されなかった。
しかし当たり前に身寄り等いない。
エリル以外に頼れる者等誰もいない。
要するに八方塞がり状態である。
そして……ケヴィンが出した答えは、『デスマウンテン』へ戻る事だったのだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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