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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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雑魚英雄

「調子に乗るんじゃねぇぞコラァ……」


言いながら、ディードは手の平の上に炎を出現させる。


防壁の炎神か……成程。


ケヴィンは先程の現象に納得した。


こちらの攻撃が簡単に弾かれた現象についてだ。


鼠色のうねった長髪から覗く彼の耳は尖っており、その外見からも彼が『エルフ』だと言う事は理解できる。


漫画に出てきそうな程目つきの悪い吊り目と、下向きに尖った鼻頭と細長い輪郭。


人相が悪そうな風貌だが、ミリアルドやあの海賊ゲノムと比べればマシな方だろう。


身長はエルフにしては高めの、ケヴィンと同等な程の体格だ。


この人物の見た目等どうでも良い、重要なのは彼の英雄としての『異能力』だ。


彼の異能力の名は『対物壁』。


そのまま『物理攻撃を無効』と言う、人間では全く歯が立たないとされている異能力だ。


二つ名の『防壁』はそこから来ている。


これだけなら、自然魔法は通る為意外とパッとしない異能力かもしれない。


だが、その異能力を持つ人物が『エルフ』の英雄である事が大事だ。


エルフは自分自身が自然魔法を扱う為に、魔法抵抗力が人間と比べ自然と高く備わっている。


効果が若干薄いと言えば分かりやすいだろうか。


元々自然魔法に対してはある程度の抵抗力があるエルフが、更に『物理攻撃無効』なんて状況が出来上がってしまえば、殆どの人間が勝てなくなってしまうだろう。


幸か不幸か、人間の英雄はそれぞれ皆攻撃的に優秀な異能力を持つ為、特にシアンの絶対切断や、デュランの魔封斬の前では全く意味の無い異能力にはなっているのだが、それでも個別に見れば強力な物に変わりはないだろう。


「分かってんのか? おめぇは俺様に一切の攻撃を通す事が出来ねぇ……どこの誰か知らねぇが、一方的に臨終される未来しか残ってねぇんだよ!!」


どうやら彼は先程のこちらの行動を見て、ケヴィンの事を『人間』だと思い込んでいる様だ。


確かにその異能力がある以上、人間相手ならほぼ一方的に勝利を収める事が出来るだろう。


そこから来る自信のせいでフィルターが掛かり、こちらの事を碌に分析せず答えを出してしまったのだろう。


言わせるだけ言わせておいてとっとと自然魔法で倒してしまっても構わないが、幸い既にマリアの救出は済んでおり、もう一人の主犯もエドワードが追いかけている。


多少『遊んでも』構いはしないだろう。


と、ケヴィンの悪い癖が出始めたのであった。


「俺様の炎をくらいやが――」


ディードがこちらに炎魔法を放出しようした直前、ケヴィンは彼を蹴りつける。


ケヴィンの攻撃は彼に届かず、体の直前で止まり大きな不協和音を発生させる。


触れる事が出来る半透明な盾。


攻撃を加えた瞬間にのみウォール魔法の様に彼を守る盾。


硬く、それでいて弾力が有り、衝撃が吸収される様な作りにもなっている様だ。


突然のこちらの行動に驚いたのか、ディードは魔法の放出を止め蹴られた位置である腹部を摩った。


何事も無い事を確認すると、ニヤリと顔を上げる。


「くくく……無駄な事しやがるな全く。往生際が悪いぞぉ?」


「効かないと分かっておきながらビビった奴が何言ってんだ?」


ケヴィンは冷やかしを飛ばす。


「口の回るガキが……直ぐに黙らせてやるよ!」


言うと、再び右手に炎を灯す。


成程、レオンにぼろ負けする筈だ。


無詠唱で魔法を使う事自体は出来るみたいだが、展開速度があまりにも遅い。


更には一々あの様に手の平に炎を一度放出してから、そのエネルギーを中心に魔法を構築しているように見える。


正に学校で習う、猿でも出来る自然魔法のお手本の様な使い方だ。


あんな使い方をしていれば、今から僕は炎魔法を使いますよ、と言っている様な物だ。


ご自由に対処下さいと。


だがケヴィンはその対処に自然魔法は使わない。


彼の異能力である『対物壁』が、本当に『物理攻撃無効』なのか試してからだと、また自己満足な縛りを始め出したからだ。


「くら――」


一々掛け声を出さなきゃ魔法が放出出来ないのか、再び彼が魔法をご丁寧に使うタイミングを教えてくれた為、こちらもそれに合わせて攻撃を開始する。


マナの核からの魔力抽出速度を向上し、彼には反射が出来ないだろう速度で殴打を連続的に放つ。


金属では無い弾力のある壁にその全てを阻まれ、鈍い音が延々と鳴り響く。


殴打の中心にいるディードは、何故か唖然とした表情をしながらただ茫然と立ち尽くす。


此方の動きを全く捉えれて居ないのだろう。


当然だ、レオンですらこの状態のケヴィンに攻撃を当てる事は出来なかったのだから、彼にボロクソに負けた人物が反応出来る筈が無い。


そもそも同じ英雄と言えど、比べて良い存在では無いのだ。


頂点の英雄様と、底辺の英雄なんぞを。


ケヴィンは拳に伝わる一つ一つの感触を確かめながら、この対物壁の攻略を探す。


角度、早さ、威力、手数。


様々な分野での感触を試し、それがどんな物なのかを認識していく。


やがてその中で、一つの答えが導き出される。


そしてその瞬間……彼に対する『興味』は無くなった。


「なんだ……そう言う事か」


言いながら、ケヴィンは拳を止めた。


「な……は? え? なんだお前……何もんだおめぇ!!?」


彼の表情に浮かび上がるのは『恐怖』。


今まで見た事も無い動きだったからか、先程の余裕は一欠けらも無くなり途端に慌て始めている。


「今何したんだ!? どんな裏技つかったらあんな攻撃が出来るんだぁコラァ!?」


「普通に動いただけだろ。テメェが良く知ってる『紅蓮の翼』は、この動きにもちゃんと着いて来たぜ?」


実際には反応は出来ていたと言うだけだが、大袈裟に言っておく。


「ぐ……えぇいどうでもいい! どうせどれだけ早く動けても俺様には攻撃は通らねぇ……次は何をされてももうこっちは攻撃止めてやらねぇ!!」


「テメェが勝手にすくみ上がって魔法を止めてるだけだろ。勝手に人のせいにすんなよ雑魚が」


「うるせぇ! 燃え尽きやがれぇ!!」


ケヴィンは、ディードの炎魔法の発動を親切に待った。


とある現象を『真似てみよう』と思ったからだ。


ケヴィンに向けられ放たれる炎は、一般的にレベルの高いエルフが放出する物に尾ひれが付いた程度と思われる威力でケヴィンに襲い掛かる。


いくらでも避けれるのだが、それをケヴィンは敢えて受け入れ……『半透明な壁』で防いだ。

ケヴィンが異能力を使った?

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