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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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デュランの機転

「ふぃー、なんとかなった様じゃの」


平然を装っているが、恐らくアルベルトの魔力はもう少しで枯渇していた所だろう。


それくらい魔力をこちらに送り続けていたのだから。


「ケヴィン……」


か細い声で、エマがケヴィンの名を呼んだ。


「痛い思いさせて悪かったな」


他人の膨大な魔力による刺激と、胸部への素手の突き刺し。


それに加え本人自身の連続的な魔力の放出で相当な疲労が溜まっている筈だ。


ケヴィンは彼女を労わる為にもそう言ったのだった。


「ありがとう……」


「安静にしとけ」


エマが力なく伸ばしてきた手をゆっくり受取りながら、ケヴィンは彼女を安心させる為に笑いかけた。


「ケヴィン、本当にありがとう。エマを助けてくれて」


しっかりとした感謝を言える状況じゃないエマの代わりに、シアンが頭を下げてくる。


「あんたの力も、それにアルベルトとレオンの力も有ってこそだ。仲間を助ける事に礼を言う必要なんかねぇよ」


言いながら、横で未だ寝そべっているレオンへ手を伸ばすケヴィン。


「お前もお疲れだな」


「ケヴィン程じゃないよ」


レオンはその手を掴み、体を起こした。


「ケヴィン……兎に角エマが無事で良かったよ。だけど教えてください、彼女はきっと……僕に『巻き込まれた』んですよね?」


と、エドワードが訪ねてきた。


「それは多分……彼女が教えてくれる」


ケヴィンがこの会場の出入り口へ視線を向けた時だった。


豪華な装飾のされた扉が開かれ、デュランが小刻みに体を震わせているメイドを引き連れやってきた。


やはり彼から逃れる事は出来なかっただろう。


相手の真理を読み取り、その状況下でその人物がどの様な行動を取るかを予想する事に置いて、デュランの右に出る者は居ない。


彼に任せて正解だった様だ。


連れ戻されたメイドの口を割るのは簡単だった。


特にデュランが暴力めいた事をした訳では無い。


元々そのメイドはエドワードも良く知る人物で、エドワードが信頼していたメイドの一人だったのだ。


その為、エドワードが彼女に何故この様な事をしたのか問いただした結果、彼女は号泣しながら事の発端を話し始めたのだ。


今朝突然、彼女に元に一つの手紙が届いた。


そこにはエドワード及び数名の人物の毒殺指示の内容が記載されていた。


同封された写真には、彼女の両親と、まだ幼き弟が拘束されている姿で写っていたと言う。


差し出し人は不明。


しかし指示を無視すれば、家族の命は無いと書かれていた様だ。


彼女の取り乱し様は演技では無いだろう。


とても嘘をついて様には見えない。


彼女は何度も何度もエドワードに謝罪をし、こんな状況になってしまった責任を取りたいと申し出ていた。


デュランが発見した時、彼女は城の中庭が上から見渡せる通路に居たと言う。


あの毒入りのワインを持ってきた時の表情から、本心からの行動では無い事は明白。


デュランはそれを考慮し、心の弱い者なら罪の意識に苛まれ『自害』を起こす可能性を考えて捜索した結果、中庭へ身を乗り出そうとしていた彼女を発見したらしい。


デュランの予想通り、彼女はエドワード他数名を殺してしまう事になってしまった状況に耐え切れず、自殺を図ろうとしていたとの事。


その直前でデュランに発見された様だ。


自分の命で償う、それが彼女が選んだ責任の取り方だったのだろう。


差出人は不明だが、毒を盛る相手の名前がケヴィンやレオン達と言う見事にエドワードと深い関係の者達ばかりだったため、十中八九『ミリアルド派閥』の仕業だろうと一同は当たりを付ける。


「やはり……僕のせいの様ですね……。エマ、本当に申し訳ない事をした」


エドワードはエマに深く頭を下げる。


「頭を上げて……エドワード……。私はこうやって生きてる……何の問題も無いわ……」


すこし気力を取り戻したエマが、エドワードを励ます。


「約束しよう……二度と君達をこんな目には合わせない。暗殺対象が僕だけならまだしも……周りにまで及ぶ可能性なんて全く考えて居なかった、僕の失態です」


「誰も考えつかねぇよそんな事。そんな気を落とすな」


ケヴィンは俯くエドワードの肩を軽く叩いた。


「……今は現状をどうするかが大事だ……このメイドの家族の安全もどうなっているか分からない……」


言いながらデュランは何かを考える様な素振りを見せる。


主犯格と思われるミリアルドは行方不明の状態だ。


彼が見つからない限り、メイドの両親も何処に居るか見当もつかない。


今回は事無きを得たが、次も上手く行く保障は何処にも無い。


当然、このままミリアルドを放置する事は出来ないが、具体的に対策を練る事も出来ない状況だ。


デュランの顎に当てていた手を不意に下す。


「なんかいい案が思いついたのか!?」


と、そんな彼を見てレオンが問う。


そうか、その仕草はそう言う意味なのかと感心しながら、ケヴィンはデュランに視線を向ける。


「……エドワード、王を継ぐ為なら何でもする覚悟はあるか……?」


「勿論です」


エドワードはデュランの質問に即答する。


「一つだけ案が有る……この子の家族も助けられる可能性が有る上に、……これ以上誰も被害に合わない方法が」


「それは?」


「……その前に一つ確認だ。……今、この部屋に居る人物は皆……『信用出来る者達』か?」


眉間に皺を寄せながらエドワードに尋ねるデュラン。


恐らく、その問いの答えが彼の作戦にとても大事な要素なのだろう。


「はい、この者の様な事件が起きた後で説得力が無いかも知れませんが、それでも私はここに居る者達を皆信じています」


はっきりと返答するエドワード。


その言葉に申し訳無さを感じたのか、メイドは腫らした目から再び涙を零し始めた。


「……なら、ここに居る全員の協力が必要だ。ケヴィンもレオンも……エマもな」


「勿体ぶらずさっさと作戦言えよ。俺も何だってやってやるからよ」


とケヴィンはデュランを急かした。


デュランは深く息を吸い込むと、ただ一言言い放った。


「……俺達は今日……『死んだ事』にする」



――――……。

ナ、ナンダッテー

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