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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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解毒方法

「レオン……エマの体に手を当てて、俺の魔力を感じろ。お前なら出来る筈だ」


レオンは真剣な表情で頷くと、エマの上に手を当てた。


「この強い魔力……間違いなくケヴィンの魔力だ」


すぐに此方の魔力を探知したレオンに、ケヴィンは言葉を連ねる。


「いいか? その魔力の中で、エマの体中の至る所をぐるぐぐると回っている魔力の流れを感じ取れるか?」


「あぁ、分かる」


「難しい事言うが……その魔力の流れをそっくりそのまま再現しろ。今それが動かしているのはエマの血液だ……どれだけそれが大事な事かは分かるな?」


「……うん、やってみせる」


エマの体の中に、レオンの強い魔力が注ぎ込まれた事を感じ、ケヴィンは操作権を彼へと渡した。


彼がこれで出来なければ直ぐに操作を変わってもらおうと思い様子を伺って居たのだが、彼は一発で此方が行って居た操作と殆ど同質の状態まで作り上げた。


この時ばかりは彼のその理不尽な才能に感謝すらした程だった。


どうやら彼に完全に任せきってしまっても大丈夫な様だ。


問題なのはこの魔力行使によって使用されている爆発的な魔力量だが、そこは彼の魔力総量を信じる事にする。


周囲はざわつき、エマを知る者は皆不安そうな顔で状況を見守っている。


ふと背中に大きな手が当てられる。


アルベルトの物だ。


「助けてやってくれ……私の可愛い教え子を、こんな所で死なせる訳にはいかんのでな」


すると、背中に暖かいエネルギーを感じる。


アルベルトが自分の魔力をケヴィンとレオンへ分け与えているのだ。


魔力譲渡と言う方法だが、これを行えば他人へ魔力を委ねる事が出来る。


それを目の前で見ていたシアンも、こちらへ直接触れずにエマを通して間接的な魔力操作だけで魔力を譲渡してきた。


確かに彼等二人の魔力がここに加われば、レオンも最後まで魔力が持つ事だろう。


後は自分次第だ。


ケヴィンは一層集中する。


周囲の者は、シアンやアルベルト以外に、二人が異端な事をしている事に気付いている者はいない。


二人が手を触れてエマを魔力で包んでいる様にしか見えない筈だ。


まさかレオンが血液を水魔法の要領で操作してる等とは誰も思わないだろう。


……エドワードを除いて。


彼は流動式身体強化術を学び、魔力の動きに敏感になっている筈だ。


彼が此方に向けている表情は、エマの心配と共に二人の魔力の動きをしっかりとその目に焼き付けている様にも見える。


だが、今更こんな所で人目を気にする事なんてしない。


自分の正体がバレる危険性と言うそんなどうでもいい事よりも、エマを助ける方が比べ物にならない程大事だ。


エマへの酸素の配給が足りてない。


どんどん彼女の表情は青ざめる。


毒を抜かなければならない為、ケヴィンは体中に浸透してしまっただろう毒を感知するべく目を閉じる。


しかしそこでもエマの魔防壁が索敵の妨害をし、なんとも上手く行かない。


これ以上の魔力付与は、エマの体に深刻なダメージを与えてしまうだろう。


かと言ってエマの魔防壁が解かれるのを待つ時間等無い。


そもそもエマが魔力切れ等起こす事はありえないのだから。


方法はまだ有る。


それを行う為、もう少しだけエマには辛い思いをしてしまうが仕方が無い。


ケヴィンは彼女に問いかけた。


「エマ……今からひでぇ事するかも知れねぇが、必ず助ける。……だから……俺を信じろ」


彼の言葉に、声の出せないエマはただ、必死に強く頷いた。


それを確認した後、ケヴィンは右手を振り上げ……それを彼女の胸に突き刺した。


周囲から悲鳴が上がる。


下手をすればケヴィンが錯乱した行動を取っていると思うかも知れない。


しかし、彼の傍らに居るのは白牙の老神とエドワード殿下。


その二人が黙って彼の行動を見守っているので、誰もケヴィンの行動を制止しようとはしないだろう。


ケヴィンが突き刺した部位からの出血は起こらない。


レオンが完璧に血液の流れの主導権を握っている為、体外にそれがあふれ出る事は無いだろう。


しかし急がなければ彼も限界だ。


幸い彼の放出する魔力は全くの乱れが感じられないが、それでも彼の疲労は顔に浮き上がってきている。


ケヴィンがエマの体に素手を突き刺した理由の一つは、心臓を魔力操作では無く直接手で触れて動かす事が狙いだった。


そして彼女が放っている魔防壁の内側に触れる事で、その魔力に邪魔される事無くより詳細に体に浸透した毒を探す事が出来る為だ。


残る問題は酸素供給。


これにもケヴィンは考えがあった。


心臓を直接手で動かしながら、ケヴィンは大きく息を吸った。


自分の肺の中で風魔法を操り、圧縮した空気を取り入れる。


そして、エマの口に自分の口を押し当てた。


ビクリとエマが震えたが、直ぐにケヴィンに身を任せる様に力を抜いた。


不埒な思いでケヴィンがそうした訳では無いと信じているからだろう。


ケヴィンは肺の中で圧縮した酸素をゆっくり彼女の肺へと流し込む。


直接彼女の口内に触れた事で、此方も魔防壁の内側に魔力を入り込ませる事に成功する。


そして彼女に毒が入り込んだ入り口だろう舌先を、小さな風魔法で切り取る。


エマはグラスに仕組まれた小さな針で舌を傷つけた後、直ぐにそれを治療した様だ。


それによって毒が入り込んだ傷口が治療によって塞がれてしまった。


その為再び毒が入り込んだ傷口を開き、そこから体に回った毒を抜き取る手段をとった。


右腕から再び体の中へ魔力付与を行い、デスコブラの毒を探知する。


極少量の毒を感知すると、再び水魔法の応用でその毒を操作し、入口となった舌先へと運ぶ。


エマの舌先から、体に浸透してしまっていた毒だけを吸い取り、直ぐに水魔法と光魔法の複合治療魔法で、彼女の舌を治療。


毒を自分の口に含むと彼女から口を離す。


大袋から取り出した布に毒を吐き出すと、レオンへ言葉をかける。


「レオン、今からこの手を抜き取る。もうひと踏ん張り頼むぞ」


「あぁ! 大丈夫だ!!」


いつになく真剣な表情の彼に頷き、ケヴィンはゆっくりと右手をエマの胸部から抜き始めた。


毒の抜けたエマは、やっと落ち着きを取り戻したのか呼吸が段々と安定していく。


魔防壁も殆ど解除された為、手を抜き取ると同時に彼女の傷口へ治療魔法をかけるのも容易な事だった。


切り裂いた肋骨も綺麗に繋げ、傷跡が残らない様丁寧に皮膚も再生させる。


自分の様に無駄に傷跡を残す必要等無い。


ケヴィンが完全に手を抜き去ると、先程までそこに穴が開いていたなんて思えない程綺麗に傷口が塞がっていた。


序でにケヴィンは破いてしまったドレス部分も、大地魔法から抽出した金属の細い糸で内側を修復。


無駄に肌を露出させない為のケヴィン也の配慮だった。


「……終わったぞ」


ケヴィンは額に浮いた汗を拭いながら呟いた。


「だはー! 良かった!! 助かったんだな!?」


後ろにぶっ倒れながら息を荒げるレオン。


短い時間だったが、繊細な魔力操作と高出力の魔力放出の持続をよく熟したとケヴィンは思う。


「良かった……エマ……本当に良かった……」


シアンは瞳に涙を溜めながらエマを抱き寄せる。


こう言った涙脆い所こそが、彼の本当の内面かもしれない。


男が泣くなんてと今の彼を馬鹿にする様な者が居たら、ケヴィンはその人物を決して許しはしないだろう。

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