反省会……の様なもの
「確かに便利な技術だが、改良が必要だな。何より捻出速度が速すぎる影響でレオンが魔力操作し切れてねぇだろ」
痛い所を突いた様で、再びレオンは後頭部を掻き始める。
普段扱う事の無い魔力量を一度に捻出している為、それが上手くエネルギー換算出来て居ない部分も多々あった。
これを放出速度を抑えて、10の器に対し10の捻出速度をキープ出来る様に成れば、きっと確かな恩恵を受けられる事だろう。
多少の無理をして11や12の捻出速度で戦うのならまだしも、器の倍以上の捻出速度で行使してしまえば、レオンの様に体の決壊が起こってしまうだろう。
諸刃の剣の様な物だ。
ここぞとばかりの隠し技としての行使なら、あの『魔人』にすら通用するのではと思える程の恩恵が有るのは確かだった。
ケヴィンはフィーネの方へ視線を向ける。
胸元に手を置き、何やら模索している彼女に注意を告げる。
「フィーネ。再現しようとするなよ? 下手すると四肢が吹っ飛ぶだけでは済まない可能性を秘めてるからな」
「あ……はい」
なんともしおらしく項垂れるフィーネ。
やってみたかったのだろうか。
「まぁお前の相棒の『ゾンビガール』ならやってみる価値は有るだろうがな。あいつなら死なねぇだろうし」
「酷い言い草だねぇケヴィン」
噂をするとなんとやら、英雄組の中では恐らく一番最初にダウンしたルーチェが、遅れてこの場へと集結した。
「なんだ、やっぱ生きてたか」
「全く……ほんとに君は加減って物を知らないのかい? 君が放ったメテオストリームの威力が強すぎて、僕の『異能力』が凄く苦労してたよ」
「お前じゃなきゃもっと加減してるに決まってるだろ。それに多分お前に当たった分はエマの分だそうに違いねぇ」
「なんでそこだけ早口なのよ……」
ルーチェは確かにケヴィンの……いやエマの放ったメテオストリームの直撃を受けた。
何かしらの抵抗を期待しての容赦の無い行使だったが、彼女は諦めた様にその魔法を受け入れた。
エルフの肉体であのメテオストリームの直撃を受ければ、ほぼ間違いなく体は潰れ、死に至るだろう。
実際彼女も確実のあの時一度『死んだ』筈だ。
しかし、彼女は今ほぼ無傷の状態で目の前に立っている。
それこそが彼女の『異能力』による恩恵だ。
例え体が死しても、マナの核さえ無事で有るのなら何度でも『蘇る』異能力。
彼女の意思関係無く体が自己再生を行い、壊れた部分を修復し元通りになる。
例え100回相手に殺されたとしても、100回とも万全の状況となり戻って来る。
ケヴィンが『ゾンビガール』等と呼びたくなるのも当然だ。
殺されても死なないのだから。
ある意味で、ケヴィンさえも超越する程の存在かもしれない。
ケヴィンに勝つ事は出来ないが、ほぼ永久的に負ける事も無いとも言える。
受動型の異能力で、傷付いた瞬間から発動する異能力、『不死身』。
死んだと思われても、何度も復活して戻って来る事から、彼女は皆からこう呼ばれている。
オールガイアランキング8位、光帝、『再誕の極光術士』と。
「少しは女性扱いして欲しい物だよ。エマに向ける優しい目みたいにさ」
「あ? それってどんな目だ?」
「……どうやらケヴィンは自分の行動に気付いて無い様だな」
ケヴィンは本気で首を傾げる。
彼自身、みな平等に接していると思って居る為、言葉の真意が掴めていないのだ。
「あら? エマどうしたんだ? 赤面して」
とレオンが無頓着にエマへと質問を投げかける。
「赤面なんかしてないって言ってるじゃない!!」
と、再び慌てふためいた声を上げるエマ。
そしてそちらへ向くケヴィン。
これまた再び飛んでくる雷。
それを消し去り、そちらへ向くのを止めるケヴィン。
そして深くため息を吐く。
一体何がどうなっているんだと呟きながら。
フィーネと目が合うと、彼女がクスリと笑うが、その笑みの意味すら分からずに何やらもやもやした気分が胸に溢れる。
それよりも、とルーチェとレオンへ問いかける。
「んで、お前ら二人はまだ降参の言葉は聞いてねぇが。どうするんだ? お前ら二人が組んでもう一戦やっても俺は構わねぇがな」
「いやぁ……流石にボクは遠慮しとくよ」
「そうだな、俺も治癒魔法掛けて貰えなかったら今も苦しんでたかもしれないし、完全に俺の負けだよ。降参だな」
「ま、当然の判断だな」
「あまり調子に乗らないのよケヴィン」
「もうそっち向いても良いのか?」
「……何の事か分からないわね」
二人の会話に、何が面白かったのかデュランが鼻で笑うと。
続いてルーチェが笑い、フィーネが小さく笑い始めた。
レオンは良く分からないが皆が笑って居るからと言う事で、それに合わせる様に笑い出したと言う感じだ。
ムスッとした表情のエマの頬を無性につつきたくなったケヴィンだが、いつ雷撃魔法が飛んでくるか分からなかった為にそれを断念した。
『試合終了。優勝チームはケヴィン・ベンティスカ、エマ・ローゼンクランツのチームです。繰り返します、試合――』
二人の降参が承認されたのだろう、試合終了のアナウンスが流れ、激動の頂上決戦の幕は下りた。
「さぁて! お腹も減ったし! ケヴィン達の優勝パレードでも見に行こう!」
「食事のついでみたいに言わないでくれるかしら?」
「てか優勝パレードなんて聞いてねぇぞ?」
「最初に説明されてましたよ、アルベルト学園長さんが……」
アルベルトの演説が長すぎて、殆ど話を聞いてなかった事を思い出すケヴィンであった。
「ふ……晒上げにされるケヴィンが見ものに成るな」
と、無表情に近い笑みを此方へ向けるデュランに不気味さを感じながらも、一同は武道館の出入り口に向かって歩き始めた。
位置関係上、一歩遅れた状況から歩を進めたケヴィンだったが、そこへルーチェがゆっくりと近づいてきた。
「まずは優勝おめでとうだね、ケヴィン」
「あぁ、お前もお疲れだな」
と、一先ず此方を称えたルーチェだったが、次に連ねた言葉は何故か途端に小声の物となった。
「どうだい? 君から見た刀聖一派の若手達は」
彼女の質問の意図が分からない為、眉をひそめながら彼女を見てしまうが、彼女の表情は真剣その物だった。
「さぁな……まだまだ伸びしろは全員が残してるだろ。それを証明する為にも今回この模擬戦が行われたのは良いきっかけになったかもな」
と、正直な感想をケヴィンは告げた。
「成程ねぇ、君が見たと言う魔人と戦って、ボクらは勝てると思うかい?」
「相性にもよるだろうが、はっきり言って今の状況じゃ無理だな。精々今日の戦いを見る限り、あのレオンの隠し技ぐらいしか通用しないだろうな。後は未だ『本気を見せようとしない』お前がどれだけ実力を隠してるのかを見せねぇと何とも言えねぇぞ」
「ボクの本気……ねぇ」
言うと、ルーチェは歩みを止めた。
彼女の行動に少し振り向くも、彼女はただ無邪気に笑みを浮かべているだけだった。
視線を正面に向けると此方の会話が聞こえていたのか、視線だけ此方に向けたデュランと目が合った。
「あぁケヴィン……本当に良いよ君は……。やっぱり君は……ボクのモノだ」
お前のモノになったつもりはない。
そう彼女に返そうと思ったが、出入り口から現れたアルベルトにそのタイミングを逃された。
「おーい! ケヴィンとエマは表彰台へ急ぐんじゃ! パレードがはじまるぞ……って何じゃこの天井はぁぁぁああ!!」
と、目玉が飛び出る程驚きの表情をするアルベルトを見て、全ての責任をレオンに着せようと模索し始めるケヴィンであった。
――――……。
アルベルト(笑)