最強対最凶
ついに最終戦!!
ケヴィンは英雄達との連戦の中で、一つの目標を持って戦っていた。
『魔封斬』の異能力を持つエルフ殺しの異名を持つデュランとの戦いでは、『自然魔法』を使って彼を翻弄する戦いを心掛けた。
自然魔法で彼を倒す事は不可能と思われている事例を、その自然魔法を使って倒せば面白いんじゃないかと思っての戦いだった。
そして『再現』を持つフィーネに対してはその再現を発動させない、発動したとしてもその行為が自らを窮地としてしまうギミックを組んで戦っていた。
何より彼女の得意とする遠距離での戦法に対して、『その場を動かずに戦ぬく』と言う試みもやり遂げた。
異能力を異能力では無い普通の力で叩きのめす。
ただ英雄達の実力を見るだけでは無く、その上で楽しい戦い方を見出す。
所謂『縛り』を設けて戦うと言った完全な自己満足の目標だった。
それをレオンに対してもケヴィンは行おうとしている。
レオンの異能力は『自然魔法』だ。
体内に人間のマナの核とエルフの核を二つ同時に存在させている彼は、身体強化も自然魔法も自由自在に扱える。
それは事実として、混血種のケヴィンからすれば完全なる『上位互換』の性能をレオンは持っているのだ。
至極単純な異能力であり、自然魔法の行使自体はレオンの鍛錬に比例してその実力は変化するが、一見普通の異能力であるにも関わらず場合によってはこれ程最強の異能力はそうあるものでは無い。
ケヴィンの存在がそれを証明しているのだから。
強力な異能力を持つ英雄達を、ケヴィンは身体強化と自然魔法だけで制しているのだ。
人間の弱点は遠距離攻撃の手段が非常に少ない所にある上、遠距離からの攻撃にもとても弱い部分が有る。
エルフはその真逆で、近距離での戦闘は壊滅的な状態だ。
しかし、ケヴィンとレオンはそのどちらの種族の弱点も完全に克服した存在である。
近ければ身体能力で、遠ければ自然魔法で、時にはそれらを複合で。
二つの異なる種族が持つそれぞれの魔法を一人の存在が持てば、これ程までに強力な物となるのは誰も想像しなかっただろう。
レオンが最強の称号を持っている理由もその点に有る。
剣の実力ではデュランには敵わず、自然魔法の実力ではエマに劣る。
しかしその二人の何方にも、本気で戦えば一度も負けた事が無いレオン。
唯一そんな彼と対を張れる存在が、絶対切断を持つシアンだろう。
考え方を変えれば、あの異能力は異常な程に強力な遠距離攻撃となるのだから。
だがそれを踏まえても、やはり身体強化と自然魔法の組み合わせは非常に強い。
その両方を扱うレオンに対して、どちらか片方の魔法しか使えない者ではレオンに勝てない。
そう言う認識が英雄の中にはあった。
だとしたら。
その『どちらか片方の魔法で勝利を収める』と言う縛りを持って戦うのがとても楽しいのでは無いか。
ケヴィンはそう思ったのだ。
そう考えた瞬間に、ケヴィンは『身体強化』のみでレオンと対峙する事を決めた。
自然魔法での戦い方は散々行った。
十分に楽しめた上に自然魔法のみで戦うと言う手段は、何方かと言えばその手の実力では最強と言われる『エマ』に対してやってみたい戦い方だ。
ならレオンに対しては自然魔法を縛り、肉弾戦のみで戦おうと言う思いに至ったのだ。
そうと決まればケヴィンの行動は早い。
此方へ急接近するレオンが繰り出す斬撃を、側面へ回避する。
炎属性の付与された長剣を何も施していない長剣で受け止めれば、瞬時に溶かされてしまう事だろう。
剣に魔力をいつもより多く込め、属性付与に対しても抵抗出来る様に仕上げる事も出来るが、どうせならまずは受け止めるよりも回避しての戦い方を作り出そうとケヴィンは思った。
避けられた斬撃を、レオンは返す様にケヴィンが避けた方向へと横薙ぎにする。
仰け反る事でそれを避けるケヴィンだが、避けた瞬間に上空からの雷撃に襲われる。
まったく、いつの間にこちらの戦い方を真似る様になったのかと、レオンの吸収の早さを評価しながら仰け反った態勢から体を横に向ける。
一直線に地面へ落雷した事で、ケヴィンの胸部すれすれに雷が掠る。
回避の為に体を捻っただけでは無く、ケヴィンはその遠心力を利用してレオンの顎に右拳をめり込ませ、勢いのまま体を半回転させ左足の踵で後ろ回し蹴りの容量でレオンの顎を蹴り上げる。
レオンは拳の直撃は受けたものの、蹴りに対しては衝撃を吸収するように後転を繰り出す。
彼が体勢を整えた頃には既にケヴィンは彼の目の前に接近しており、彼の腹部へ蹴りをめり込ませる。
その衝撃で大きく後方へ吹き飛ぶレオンだが、それに対し追撃を掛けようとしたこちらへ幾つもの自然魔法を放ってくる。
上空からヘブンズソードとライトニングブラスターに加え、両端からは無数のクリムゾンノヴァが襲い来る。
ケヴィンはそれらに一瞥もせず、回避可能な個所を瞬時に選びとりレオンへと向かう。
すると真正面からメテオストリームを放つレオン。
周囲を自然魔法で囲み、回避方向が正面しかない状況でその正面から威力の高い魔法を放つと言う攻撃方法は、ケヴィンがよく行う戦法だ。
身体強化も自然魔法もどちらも扱える存在である二人が、似通った戦い方を導き出すのは当然の事だろう。
しかし。
「詰めがあめぇな、レオン」
その戦い方の経験値には圧倒的な差が有った。
確かにメテオストリームは物理的な側面を持つ性質上、直撃すれば魔法抵抗力が高くとも確実なダメージを与えれる自然魔法だ。
だが、『当たらなければ』どうと言う事は無い。
レオンは魔法の同時行使に置いても、一流の技術を持っている。
四つの上級魔法を同時に、更に無数に放つと言う行為は英雄だからと言って簡単に出来る技術では無い。
エマやルーチェの様に実力の有る英雄だからこそやっと出来る様な物。
勿論レオンはその技術に関してしっかりと鍛錬を行っている為に行使可能となった技術なのだろうが、ケヴィンからすれば『まだまだ』だったのだ。
正面から迫るメテオストリームはケヴィンからすれば驚異的な猛威の数々では無く、ただの都合の良い『足場』にしかならなかった。
それを証明する様に、迫り狂うメテオストリームにケヴィンは次々と飛び乗りながらレオンへと向かい出したのだ。
「レオン、自分の魔法で自分の視界を封じてどうする」
「くっ!!」
レオンは慌てる様にケヴィンの斬撃に対し剣を重ねた。
勿論彼にとっては急な出来事だった為に、属性付与が行われていない。
恐らく彼からしたら無数の魔法の中から突然ケヴィンが飛び出した様に見えていた筈だ。
当然である。
質量のあるメテオストリームを正面に撃った事によって彼から此方の視界が阻まれ、魔法の渦から飛び出す寸前まで此方の姿をレオンが認識出来ていなかったのだから。
「あの場合セオリーとしてはダイダルウェイブかテンペストヴォルテクスだったな。まぁどっちみち『遅すぎて』避けてくださいと言ってる様なもんだが」
確かに視界が悪くなると言う点に置いてデメリットはあるが、別段メテオストリームの選択が悪かったと言う訳では無い。
ただ、メテオストリームの加速度が遅すぎた。
ここはレオンの経験不足だろう。
多くの魔法を展開し過ぎたあまり、魔力の質は中々の物だったが、魔法の『操作』が疎かなってしまったのだ。
これではフィーネの再現に全て対処されてしまい兼ねない上に、デュランに全て魔封斬で切り裂かれてしまう事だろう。
本来ならその上でレオンの接近戦を受けなければならないからこそ、その二人が防戦一方となりうるのだがケヴィンの様に避けてしまえばどうって事は無い。
避けられるかどうかが問題では有るのだが。