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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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フィーネは怯える

「さて、降参するか、いちかバチか『再現』してみるか、好きな方選んでいいぜ」


ケヴィンは力が弱まったが未だ締め付けられたままの右腕を強引に動かし、フィーネの首元から胸倉へ掴む場所を変更する。


これで彼女に『回避する』と言う選択肢を封じた。


ケヴィンの言う通りフィーネがこのクリムゾンノヴァを退ける方法は、再現で同じ質量のクリムゾンノヴァを発生させるしか無い。


だが、それをすれば確かに相殺は出来るかもしれないが、これ程までに近距離で有れば相殺によって発生する衝撃波の影響は一たまりも無いだろう。


死にはしなくとも、致命的なダメージを受ける事には変わりはない。


フィーネの表情は歪む。


彼女が発動している身体強化魔法に施されている魔力量を計算すれば、直撃しなくとも爆風や衝撃破だけでも耐えられない事をケヴィンは理解している。


もはや彼女にこの状況で対処出来る手段は残されていないのだ。


完全に積んでいると言った状況だろう。


「……」


何やら様子がおかしい。


彼女がクリムゾンノヴァを目にしてからと言うものの、今迄の判断の速さは何処行ったのかと思える程に行動が遅い。


まるで体が硬直している様な、でもってその状態で小刻みに震えている様な症状が彼女に起こっている。


見上げている表情も、その大きさに驚いていると言うよりは心の底から恐怖しているかの様な顔だ。


……クリムゾンノヴァに……いや、炎に何かある?


ケヴィンはそう予想した所で、一度クリムゾンノヴァを雲散させた。


それで彼女が抵抗する様なら、次は別の魔法を再び展開すればいいだけなのだから。


「……ふ」


呼吸を忘れていたのか、目の前からクリムゾンノヴァが消えた彼女の反応は、冷や汗を流しながら呼吸を再開させると言うものだった。


「こ……降参……します」


やはり若干声が震えている。


これは確実に何か有るな。


ケヴィンはそう考えると、フィーネの胸倉をゆっくりと離す。


それに伴ってフィーネもケヴィンの腕の拘束を解いて地面へと降りる。


口端からながれた血をふき取ると、自分を落ち着かせるように胸に手を置きながら深呼吸を繰り返した。


それを見てケヴィンがは指をパチリと鳴らし、フィーネの体の周囲へ魔力の渦を纏わせる。


外観からは見えないが、内臓を幾つか痛めてしまっていただろうから、それらを瞬時に治療した。


「あ……有難う……ございます」


いつもの律儀な90度のお辞儀では無く、弱々しくお礼の述べるだけに至った。


「『炎は苦手』か?」


彼女のその反応は大体予想が付く。


所謂『トラウマ』と呼ばれる精神的な病の様なものだろう。


そしてケヴィンの予想通り、その問いに対して彼女はゆっくりと頭を上下させた。


「……悪かったな。あんな反応するとは思わなかった」


「いえ……ここは戦場ですので、克服できない私が悪いだけです……」


確かに、炎がトラウマ等と言う状況は戦いの場に身を置く者からすれば致命的な弱点だ。


今回の彼女との戦闘を鑑みて、間違いなく戦闘センスは一級品の物であり、あくまで英雄の中では最強の一角と称しても問題ない。


だがそんな彼女の弱点が炎と言うのは聊か問題になるだろう。


炎を前にした際に満足にパフォーマンスが発揮出来ないと言う状況は、勝てる筈の戦いも勝てなくなってしまうのだから。


「何が有った」


それはあまりにも勿体無い。


多少なりとも彼女の事を気に入ったケヴィンは、仮に克服できる状況にあるのならば協力してやろうと言う思いが少しだけ出て来た。


「あの……その……私は所謂……『転生者』で……」


転生者。


つまりシアンやメーゼと同じく、元の世界では彼女は既に『死んでしまっている状況にある』と言う事。


この会話の流れでその事を告げたと言う事はつまり……。


「成程、それがあんたの『死因』か」


先程と同じく、彼女はゆっくりと首を縦に振った。


要するに……彼女は異世界で『焼死』したと言う事だ。


ケヴィンは彼女に聞こえない様に軽く舌打ちをする。


自分も死に対する感覚は分かっているつもりだ。


かつてフェンリルに食い殺されかけた経験は、今でも昨日の事の様に思い出せる程脳裏に焼き付いている。


一時はそれがトラウマでもあった。


自分が克服出来たのは、フェンリルよりも圧倒的に強くなってどんな状況でもフェンリルに負ける事が無い事が証明された為だ。


ただ彼女の場合は状況が違う。


自分は死にかけただけだ。


エリルに救われた事で、多少なりともその時点で恐怖は薄まっている。


だが彼女は実際に死んでしまっているのだ。


自分の身を焼き尽くす炎に包まれて命を落とした。


その感覚の違いは恐らく天と地の差だろう。


協力しようにも、どうにも出来ない状況に歯がゆい思いをケヴィンは感じたのであった。


「……まさかケヴィンさんを『一歩も動かせない』とは思いませんでした」


申し訳なさそうに感じているのか、彼女は無理やり話を変えようとする様に先程の戦闘の感想を漏らしてきた。


「……気づいてたか」


そんな彼女の心境を察したケヴィンは、彼女の話に乗る事とした。


対策は……今後考えれば良い。


考えてもみれば、彼女は炎が苦手なのにも関わらず、レオンと行動を共にしている際には全く問題にしていない様にも見える。


炎の象徴とも思えるレオンに対して惹かれているのもおかしな話だが、そこに突破口が有るかもしれないとケヴィンは考えを切り替えるのだった。


そして彼女の感想に対して、ケヴィンは先程の戦闘を振り返る。


彼はフィーネとの戦闘時、今立っている場所から一歩も動いていなかった。


遠距離攻撃を主軸とする弓聖相手に、一歩も動かずの勝利と言う括りを設けて戦っていたのだから。


これはケヴィンの悪い部分とも言えよう。


戦闘をより楽しく自分好みの戦いへ向かわせる為に、敢えて自分に制限を設けて戦うと言った悪癖だ


「一つ……質問良いですか?」


「答えられる事ならな」


「もし私がさっきのクリムゾンノヴァを相打ち覚悟で受けいれたりしていたら、ケヴィンさんはどうなっていました?」


確かに先程の最後の攻防は、見る者が見ればケヴィンが自爆覚悟で行使した戦いの強制終了の為の魔法だった様にも見える。


フィーネが再現での相殺を選んだ場合は、もしかしたらその後発生する衝撃波には耐えられたかもしれないが、あれ程のクリムゾンノヴァの直撃には流石に耐えられる者は居ないだろうと思う筈だ。


「まぁ、『あの程度』なら俺は傷一つ付かねぇだろうな。なんなら同規模の別の魔法で試してみるか?」


言いながらケヴィンは腕を組みながら軽く嫌味な笑みを浮かべると、フィーネは首をぶんぶんと振る。


「いえ!! ……私ももっと精進しなきゃいけませんね」


実際ケヴィンは何も嘘はついて居ない。


地図から大陸一つを消し去ってしまいかねない程の魔法を受けても、ケヴィンは大した被害を受けない自信が有る。


だとしても痛みは感じる為、もしそんな状況が訪れたのならそれを受ける前に対処自体はするのだが。


そんな二人の元に、一人近づいてくる気配がする。


「降参よ降参! やっぱりあの子強いわ。と言う事でケヴィン、後は何とかしてよね」


と、戦闘服を所々焦がしながらやってきたエマ。


自然魔法のみで戦えばXランカー内最強と呼び名の高い雷帝のエマだが、レオンは自然魔法だけで無く身体強化の実力も半端じゃなく高い。


恐らくエマも本気でレオンと戦っていた事だろう。


フィーネとの決着が済むまでずっと戦っていたのだ、手加減が下手なレオンに対して簡単に時間稼ぎなんて出来ない。


「あぁ、ご苦労さん。少しだけ休んでろよ」


ケヴィンはエマと交代する様に、レオンへと足を向ける。


上空から目の前に華麗に着地したレオン、やる気満々な笑みを此方へ向け口を開く。


「ケヴィン! 決着を付けよう!!」


「あぁ……ラストバトルの開始だな」


この交流戦は、とっくの昔に学生レベルの戦いでは無くなってしまっている。


いつの間にか、実力のある英雄達が雌雄を決する為の戦いへシフトしていた。


正真正銘の決勝戦。


残った二人は何れも最強の名を欲しいままにする存在。


ただの交流戦の優勝者を決める戦いでは無い。


クラス内一位の戦いの域にも留まらない。


表上、オールガイアランキング1位に輝き、史上最高の英雄と呼ばれるレオン・エルツィオーネ。


対するはその最強の英雄達が皆揃って一目を置く裏の最強の存在、ケヴィン・ベンティスカ。


事実上の決勝戦。


正に『人類最強』を決める為の戦いが始まったのだ。



――――……。

ケヴィンにとっても簡単じゃない事はあるんですね

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