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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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蒼氷の朱雀

この作品を手に取っていただきありがとうございます。


拙い文章ですが、楽しんでいただけます様努力してまいります。

月下無限天ギルド本部、某一室。


豪華な長方形の長机が中央を陣取り、それらを囲う様に様々な装飾の施された革製の椅子が計15席設けられている。


しかしそれらの椅子は何れもデザインが異なり、まるでその席に腰かける者達を『象徴』するかの様に装飾が施されていた。


場所はギルド本部に設けられた『Xランカー専用会議室』。


現代に具現した数多くの英雄達の中でも上位に君臨する『14人』に与えられる位『Xランク』。


即ち現代最強の14人が一堂に会する場がこのXランク会議。


最低でも月に一度は英雄代表の彼らが一斉に集い、『英雄国際条約』と言う異端な力を持つ英雄達を御する為の法律に対して話し合いを行ったり、これまでの活動報告を行う場となっている。


「前回の上級魔族一斉討伐の際には危うく死者が出る直前まで追い込まれた。俺と光帝の班がギリギリで現地に迎えた事で大事には至らなかったが、もう数秒遅ければどうなっていたか分からない」


黒いローブの背中に紫色の刀の紋章を宿す男、『刀聖』が机に片手を付き、前のめりになりながら現状報告を行っている。


一見最低限の光しか保たれていない全体的に暗い部屋の様な印象を持たれる一室だが、指向性を持った照明用魔道具が室内に居る人物全員を直接照らしている為に、周囲は暗くとも室内に居る人物は一目瞭然と言う状況で会議は行われている。


「手を煩わせてすまなかった。アトランティス魔導騎士団への被害が最小限に済んだのは間違いなく君達のお陰だ。感謝しても仕切れない」


刀聖の言葉に感謝を述べているのは月下無限天本部のギルドマスター。


つまり支部ギルドマスターでは無く、ギルド月下無限天の代表マスターである。


現状、各国の王族以外に唯一英雄達への命令権を有する存在であり、権力的な意味で言えば部分的にはオールガイアの頂点に有るとも言える。


「欲しいのは感謝なんかじゃない、人材だ。明らかに人が足りていないんだ……Xランクの面々だけでははっきり言って手に余る状況だ。Sランクの者達に報酬を増やしてでも討伐への参加を依頼すべきだな」


刀聖と言えば、以前アトランティスの郊外に現れた緑龍に対して、光帝と共に討伐を成し遂げた英雄の一人だ。


彼が言っているのは、当日の討伐の際にアトランティス魔導騎士団の一人が重症を負った事に関しての話だ。


あの日Xランカー達はオールガイア各地で異常発生した上級の魔物に対して大規模な討伐作戦を決行していた。


各国の魔導騎士団達と協力して、人類へ被害が出ない様に魔導騎士団が一時的に上級の魔物の足止めを行い、その間に英雄達が各地で魔物を屠ると言う作戦を取ったのだ。


作戦自体は結果的に言えば成功だ。


予定されていた魔物達の討伐は達成出来、これと言った甚大な被害は見受けられなかった。


ただ刀聖としては軽微な被害ですら英雄側の責任だと捉えており、足止めを請け負っていた魔導騎士団に無理をさせた事を嘆いていた。


「君の言いたい事は理解出来る。君達の手を大いに煩わせているにも関わらず、一端の者達への被害までも顧みるその聖人的な思考にも賛美を送りたい程だ。しかし現実としてXランカー以外の者へ依頼を投げるには現実的に『報酬』が用意出来ないと言う問題がある」


英雄達とは違い、金色の装飾が施された白いローブを身に纏っているギルドマスターは身振り素振りを付けながら刀聖へと現実的な話を告げる。


いくら刀聖の様に己の身を粉にしてでも人類の為に尽力しようとする英雄が居たとしても、そもそも英雄はその存在自体がオールガイアが抱える人類最強兵器なのだ。


全人類の存亡を委ねられている存在に無料奉仕をさせる等とはあってはならない事である。


「それなら俺達の報酬をそっちに回せば良い! よく分かんないけど俺達への報酬も馬鹿にならないんだろ? だったらそんなもん要らないから他で使ってくれよ!」


そう叫ぶは『赤い炎の紋章』を背中に刻んだ男。


Xランクの位を意味する『聖』の名が『人間の英雄』の為に用意されたものなら、『エルフの英雄』の為に用意された名は『帝』。


この人物はその中の一つ、『炎帝』の位を司る者である。


彼は刀聖と志を同じくしている様であり、己への報酬を投げ打ってでも人材確保を優先すべきだと発言していた。


「ちょっと待て、それは聞き捨てならねぇ話だなぁ」


刀聖、炎帝と二人の英雄が前向きに人材確保への姿勢を見せている中で、その会話の流れに待ったをかける人物がいる。


『青い氷の紋章』を背中に携える、『氷帝』を司る男性だ。


「てめぇらガキにとっちゃぁ英雄『ごっこ』の飯事遊びかもしれねぇがなぁ、俺様達『大人』からすればそれは死活問題になるんだぁ。てめぇらの独断で勝手に俺達を巻き込まねぇでくれねぇか?」


英雄の中にも、聖人君主と揶揄される程の実力も思考も素晴らしいものを兼ね備えた存在がいれば、逆に物事を自分中心に考える横暴な存在だって当然いる。


寧ろオールガイアの未来を左右する程の力を持っていて、一人一人がかつての『核爆弾』の様な立ち位置の最終兵器としての力を持っているのであれば、その力に自惚れてしまう方が自然な流れだろう。


英雄界の頂点であるXランクにはそれらの考え方を持った人物が凡そ半数ずつ存在している。


ある意味半数ずつと言う絶妙なバランスによって、邪な考えを持つ英雄がのさばる事をギリギリ抑えられている状態とも言えよう。


英雄自身が分かっているのだから、英雄同士の戦いは御法度であることを。


そう言った行為が世の中に、自分自身にどれだけの影響を与えるかを深く理解している。


「……反対意見を述べるんだったら、それ以外の方法での解決策を出してはくれないか? あんたの言う『ガキ』ばかりに意見させてないで……自分で自分達の事を『大人』と言うのだから相応の意見を述べて欲しいところだな……」


ゆっくりと、しかし耳心地の良い低い声で滑舌良くしゃべる男性。


灰色の剣の紋章を与えられている『剣聖』が氷帝の意見へと嚙みついた。


氷帝が炎帝に向けて『ガキ』と言ったのは、実際にそう大きく外れていない言葉だ。


刀聖も炎帝も、今回発言した剣聖も、確かに氷帝からすれば子供扱いしたくなる程の年齢差であるからだ。


互いに詳細な年齢まで知っている訳では無いが、彼らの間には確かに大きな歳の差が存在しており、この場が実力主義で無く年功序列になっていようものなら刀聖達に発言権は無いようなものだった。


しかし現状、英雄界……と言うよりもこの世の中自体が完全な実力主義にある。


だからこそ氷帝が『ガキ』と言う言葉の対象となる若い英雄である剣聖であっても、相応に年齢を重ねている氷帝に真っ向から意見を言える立場にあった。


「はぁ? 意見? んなもん知るかよ。俺様が言ってんのはてめぇらだけの都合で勝手に物事決めんなって事だ。炎帝が言った『俺達への報酬』ってぇのには『こっち』の分も入ってんだろぉ? それが認められねぇって言ってるだけだろぉ」


『こっち』とはつまり『氷帝側』と言う事を揶揄している。


どんな組織であっても、大きくなればなる程にどうしても『派閥』と言うものは生まれる。


ここでは所謂『氷帝派』と呼ばれる英雄達が氷帝の『こっち』に属する者達なのだろう。


「折衷案も無い、その上でこっちの意見は真っ向から否定、だが貰う物は全て貰う。あんたの言う『大人』ってのは良い御身分だな?」


煽る様に刀聖が言葉を返す。


この数回のやり取りで既に分かり切っている事だが、氷帝派と反対の立場……つまりここで言えば『刀聖派』の英雄達は互いにとことん意見が合わない。


片や人類の為、もう片方は自分の為。


全く持って考え方の方向性が違うのだから話が合う筈も無いのだ。


「あの……いつもの様に多数決を行うのはどうでしょうか」


弱々しく、周りの反応を伺う様に女性の英雄が言葉を発する。


『白い弓の紋章』が背中に描かれているその女性は、『弓聖』を司る英雄だ。


彼女もまた、『刀聖派』に属する人物である。


「あぁん? んなもん見てわかる通り『無駄』に終んだろうがぁ」


英雄国際条約の中に、Xランカー会議の際に意見が食い違った際に話を収める場合は、『多数決』を設ける事が必須とされている。


拳を交える事は御法度とされているが為に設けられたルールだ。


それに対して氷帝が『無駄』だと言ったのは、現状この室内にいる『両派閥の人数』が影響している。


Xランカー会議は、毎度毎度全Xランカーが参加するとは限らない。


当然それぞれの任務状況の影響で欠席する者だっている。


今回の会議に参加している人数はギルドマスターを含めたら『13人』。


欠席している英雄は『槍聖』の位を司る英雄と、先日刀聖と共に緑龍を討伐した『光帝』だ。


Xランカー会議の場での多数決に、ギルドマスターの意見は反映されない。


あくまで英雄に関する守り事は英雄が決めると言った側面があるからこその対応である。


そしてこの場に集っているギルドマスターを除いた12人の中で、刀聖派は6人……そして氷帝派も6人なのだ。


丁度両派閥の人数が半数同士いるこの場では、多数決等成り立たないと言うのが氷帝の意見である。


弓聖も両派閥の人数関係は把握しているのだが、それでも氷帝派の中で此方の意見に賛同してくれる者が一人でも居るのではと思っての発言だったのだが……そんな甘い希望はあえなく消え去った様である。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


次の投稿をお待ちいただきます様、お願い申し上げます。

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