表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
129/647

弓聖の実力

「それで終わりって事はねぇよな?」


ケヴィンが声を掛けると、息を整えたフィーネはこくりと頷く。


後方では、レオンとエマが激しく魔法をぶつけ合っている音が聞こえる。


生い茂る木々に視界が遮られている為、フィーネが彼等の魔法を再現出来る事は無い。


となればフィーネが今出来る攻撃は、愚直にその矢を放つ事だけだろう。


それを示すかの様に、フィーネは幾重もの矢を此方へ連続して放ってきた。


彼女の背中には、ケヴィンの持つ『大袋』の派生品である『大箱』が担がれている。


大箱等と大層な名前が付けられているが、彼女の持つそれは矢筒状の矢を入れて背中に背負う為のえびらと呼ばれる物がベースとなっている形状の物だ。


恐らくオーダーメイド品だろう。


確かにあの形の方が、彼女の戦闘スタイルには合っている。


普通の箙と違って、彼女の魔力量が多ければ多い程無限に矢を収納出来る上に、激しい動きをしても箙から矢が零れる事は無い。


なんて感心してる間にも、ケヴィンは彼女の放つ矢を全て一つ一つフィーネを四方八方から襲う様に転移させる。


当然フィーネはその転移を目にした後再現を発動し転移をするのだが、ケヴィンはその瞬間フィーネに迫っていた矢を再び転移させた。


転移先は、フィーネが再現で転移魔法を発動した到着地点へ矢が向く位置である。


ケヴィンが矢の転移を発動した時、フィーネは正に転移の真っ最中であった。


その為、ケヴィンが再び矢の転移を行った事に反応は出来ても、転移自体を目にしていない為に再現を発動する事が出来ない状況にある。


フィーネ本人もそれを理解しているのだろう、転移を終えた彼女の判断は早く、矢が自分へ辿り着く前に抜け出す隙間を見つけ飛び跳ねた。


唯一抜け出す事が出来た位置は真上。


勿論、これはケヴィンがわざと隙間を開けた場所だ。


ケヴィンは上空へ飛び上がったフィーネの頭上へ、彼女を叩き落とす様にロックブレイクを発動した。


彼女はそれの直撃を受け、地面へと急降下する。


ケヴィンは更に追撃する様に彼女の側面を強打する様にロックブレイクを展開。


横方向に弾き飛ばされるフィーネの進行方向へロックウォールを展開し、彼女はそれに激突。


更に再び上空から彼女を叩きつける様にロックブレイクをお見舞いした。


その全てを彼女は何も抵抗出来ずに直撃し、地面へと叩き落とされる。


しかし彼女は地面に着いた瞬間、まるでダメージ等感じていないかの様にケヴィンへと駆けだした。


牽制の為に幾つもの矢を此方に向け道中で放つが、ケヴィンはそれらを全て大袋から取り出した同じ本数の投げナイフで弾き飛ばす。


そのままフィーネの接近を許すが、突き出された筈槍を体を軽く傾ける事で回避する。


それを分かって居たかの様に、フィーネはケヴィンの側頭部へ蹴りを放ってくるが、ケヴィンがそれを掴むと彼女を投げ飛ばす。


強く投げた訳では無い為、フィーネは空中で体勢を整え、地面に着地と共に再びケヴィンへ接近した。


この時彼女は弓をしまい、大箱から大きなナイフを取り出し左手に握りしめていた。


見た所それも模擬戦用に刃の抜かれた物で、恐らく学園側が用意した物なのだろうが、彼女はそれを自分の体の一部かの様に扱い始める。


此方の頭部へ目掛け突き出すが、ケヴィンはフィーネの腕ごとそれを払う。


ケヴィンの頭部から大きくナイフは反れるが、フィーネは体を回転させケヴィンに背を向けている間にナイフを右手に持ち替える。


右足で後ろ回し蹴りをケヴィンの腹部に放つが、ケヴィンは左手でそれを自分の左側に払う。


フィーネは僅かな時間差で右手に持ち替えたナイフを逆手に持った状態で、ケヴィンの首元へそれを振り下ろしてくるが、ケヴィンは右腕で彼女の手首を抑える事によって防ぐ。


ケヴィンはそのままフィーネの右腕を掴むと同時に、肩を抑え彼女を強制的に前屈させると、関節を極める。


フィーネはその場で前宙を繰り出し、関節技から逃れようとするが、宙に浮いた瞬間彼女の右腕を内側へ引き寄せ、彼女の体の正面を此方へと向かせた。


無防備となった腹部、胸部、喉元と、それぞれの急所へ連撃を当てると、最後に彼女の首を締め上げる様に手を伸ばす。


しかしその瞬間、今度は逆にフィーネに右腕を絡み取られ、そのまま関節を極められてしまった。


所謂腕ひしぎ十字と言う極め技だろう。


だがそれを実行する彼女の表情は悲痛に歪んでいる。


口の端から吐血も見られ、必死に痛みに堪えているのだろう。


どこがデュランの様に頑丈に出来ていないと言うのだろうか。


彼女は立派に此方の猛攻を耐えているでは無いかとケヴィンは彼女を高く評価する。


何故遠距離での戦いを主軸にする彼女が今、ケヴィンへ接近戦を挑んだのか。


理由は恐らく先程のロックブレイクとロックウォールの連撃だ。


彼女は先程4度見せたケヴィンの魔法を一つも再現しなかった。


中でも防御に使えるだろうロックウォールですら再現をせず、そのままロックブレイクの直撃を許していた。


これは十中八九、再現しなかったのでは無く『出来なかった』のだろう。


彼女は一目見た魔法を再現する事が出来る。


では再現する為の魔法が『見えなかったら』どうなるだろう。


魔法の発動から消滅まで、その存在が感知出来ない程に凄まじい速度で魔法を展開されたら、当然それは『見えていない』のと同じだ。


ケヴィンは先程そのレベルで魔法を行使したのである。


フィーネにぶつけたロックブレイクも、弾き飛ばされる彼女を止める為に使ったロックウォールも、彼女が探知出来ない程の速度で展開から消滅までを手掛けた。


恐らく彼女はロックブレイクをぶつけられていると言う認識自体は出来ただろう。


しかし、鍛え上げられた動体視力ですらそれらを感知出来ない程の速度で消えてしまうそれを、肉眼で捉えられずそれを再現出来なかった。


そして彼女はその後瞬時に判断し、再現出来ないのであれば魔法を止めるべきだと考えたのだろう。


だからこそ距離を離した状態のままで此方に自由に魔法を使う機会を与えまいと、接近して肉弾戦に持ち込んだと言う事だ。


彼女が意地でもケヴィンから距離を開けようとしない理由がそこにあるのだろう。


この状態ならば、体が限界まで密着している状況である為うかつに攻撃魔法を使えないと踏んでの行動の筈だ。


まったく……瞬時に戦い方を構築し、迷いも無くそれを実行する判断力の高さはやはり称賛に値する。


お陰で随分楽しめたとケヴィンは感じた。


だからそろそろ彼女にも引導を渡すべきだと思った。


ギリギリと右腕の方から聞こえる音だが、別段彼女に腕を折られる気配は全く無い。


恐らく音を発しているの彼女の体の方だろう。


このまま地面に何度も叩きつけても良いが、これ以上彼女に攻撃を加える事もはばかれる。


だからケヴィンは、彼女にその後の判断を任せる事にした。


フィーネがケヴィンの自然魔法を封じる為に接近戦に持ち込んだ事自体は評価するが、しかし彼女のその判断は一つだけ間違っていた。


魔法での攻撃対象がこれ程近くにいる場合に、うかつに魔法を放てないと言うのはただの一般論である。


しかし、ケヴィンがそんな一般論の枠に収まる筈が無い。


フィーネはケヴィンの腕にしがみつく事に必死になって居ただろう、突然辺りが赤く染まり出した事に気付いて居ない様子だった。


その存在も、それが発生する筈の熱も、魔力の動きも、対象に感知させない様に一瞬で作り上げたケヴィンの魔法。


先程、レオンがケヴィンに向けて放った『クリムゾンノヴァ』よりも遥かに大きな炎の玉がケヴィンの頭上に現れた。


そこまで接近して初めてフィーネは上を見上げた。


と言っても、彼女の視界は全てそのクリムゾンノヴァに埋め尽くされ武道館の天井は一かけらも見えていないだろう。


「え……」


フィーネの締め付けが弱まった事をケヴィンは感じた。


まさかこの状況で、これ程までに巨大な魔法を行使する等と思いもしなかったのだろう。


ケヴィンは勿論どれだけ接近されても、対象だけに正確に魔法を当てる事はいくらでも出来る。


恐らくエマ辺りならばそう言った技術は持っているだろうが、しかし流石のエマでも人間の英雄を相手にして至近距離に接近されてしまえば、ほぼ敗北の状況にはなるだろう。


つまり今のフィーネの様に、魔法を封じる為に接近した状態でも魔法を行使されてしまうと言った状況は殆ど有り得ない事だ。


だがケヴィンはそれを可能にした。


それも実行した魔法はフィーネのみを対象にしたものでは無く、辺り一帯を巻き込んで全てを燃やし尽くしてしまう恐れのある巨大なクリムゾンノヴァだった。

本当に容赦なかった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ