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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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英雄達の大混戦

「フィーネ! 先手必勝で行く!!」


「はい! 合わせます!」


レオンは、掛け声と共に前方へ駆け出す。


瞬時に弓へ矢を掛けたフィーネ。


此方も迎撃すべく、ケヴィンは剣を振り上げる。


正に学生レベルを超えた頂上決戦。


オールガイアランキングの中でも、全員が10位以内に名を連ねる者ばかりで行われる最終戦に相応しい人材達。


オールガイアランキング一位、炎帝、『紅蓮の翼』の名を象る様に、レオンは長剣へ炎魔法を付与させる。


対する様にオールガイアランキング九位、雷帝、『黄金の雷光』も、再び雷を纏いながら空中へ浮き始めた。


オールガイアランキング十位、『蒼氷の朱雀』は、レオンに合わせる様に己の長剣へ氷魔法を張り巡らせる。


そして最後の一人、フィーネは己の『二つ名』に因んだ異能力を行使し始めた。


強く引いた弦に取り付けられた矢の先端には、『雷魔法』が纏わりつく。


これは、彼女がレオンと同じ様に自然魔法の異能力を持つからと言う訳では無い。


雷魔法だけを使える異能力と言う訳でも無い。


彼女の異能力は、全ての事が『出来て』全ての事が『出来ない』受動型の異能力。


相手が居る事で初めて成り立つ物。


フィーネが矢に込めた雷魔法は、元々『エマ』が放った雷魔法その物だ。


込められた魔力、規模、威力、属性等、その全てをエマが放った雷魔法とそっくりそのまま完璧に模写した物だ。


これこそが彼女の異能力、一見地味だが、相手が『魔力を使って行った事』ならば、例え『異能力』でさえ全てを『一度だけ』完璧に模範する事が出来ると言う破格の異能力。


レオンがクリムゾンノヴァを放てば、ケヴィンがダイヤモンドダストを放てば、シアンが絶対切断を放てば、その全ての技を異能力の恩恵で僅かな魔力消費によって行使出来る。


条件は模範する技を一度必ず見る必要が有ると言う事。


相手に先手を許す事と成る為にリスクが大きいが、人間であるフィーネは殆どの場合相手の攻撃を耐え切る事が出来る。


そうなれば相手が放った大がかりな技は、一度だけ自分の物だ。


そしてその模範した技は、自分が好きな様に応用して使う事が出来る。


その為フィーネはケヴィンやレオンと同じく、放つ矢自体に属性を付与し、雷の矢として放つ事で速度の向上を目指した。


常に彼女の行動は後手と回る場合が多い。


リスクも大きな異能力だが、後衛である弓と言う武器を扱っている彼女からすれば、そのリスクは殆ど有って無い様な物。


自分以外に向けられた技でも自分が視認する事さえ出来れば、異能力として行使する事が出来るのだから。


その異能力の名は『再現』。


フィーネはその特殊な傾向に有る異能力と、持ち前の慈愛に満ちた立ち振る舞いから、人々からこう呼ばれている。


オールガイアランキング七位、弓聖、『反撃の女神』と。


フィーネの弓から放たれた矢は、一直線にケヴィンへと向かった。


事実上、雷の速度で飛んでくる物理的な一撃。


普通の感覚ならば驚異的な攻撃なのだが、ケヴィンは軽く鼻で笑って見せると指をパチリと鳴らす。


瞬間、ケヴィンへと向かって飛んでいた矢は、急激に反転しフィーネへと跳ね返された。


ケヴィンは放たれた矢本体に対し、転移魔法を使ったのだ。


矢を転移させ、方向をフィーネの方へ向ける。


僅か一瞬での行使だった為、矢がまるで物理法則を無視し急速に反転した様に見えたのだった。


しかしケヴィンが矢を反転させその矛先となった筈のフィーネだが、既にその場から消え去っていた。


身体能力で移動した訳では無い。


文字通りその場から消えたのだ。


矢は何も無い空間を貫き、一瞬で武道館の端へ激突すると、遠くから激しい衝突音を響かせた。


ケヴィンはその後向かって来たレオンの攻撃を長剣で受け止めると、ニヤリと笑みを浮かべる。


彼がこの笑みを浮かべる時は、『楽しい』と感じた時だ。


戦った相手に対し、楽しさを感じた時に浮かべる表情だ。


レオンの強さはとっくに知っている。


今更彼の一撃を受け止めただけでケヴィンが笑みを浮かべる事は無い。


上空で、エマが一部の方向へ雷撃を放つ。


僅か一瞬遅れて、全く同じ質量の雷撃がエマの魔法とぶつかり相殺する。


エマが雷撃を放った方向、同じく雷撃での迎撃が起きた方向には、ケヴィンが矢に施した転移魔法を『再現』して移動を完了させていたフィーネが居た。


なんだ、やはり大した奴じゃないか。


と、ケヴィンは感想を漏らす。


彼の浮かべた笑みは、フィーネに向けられた物だった。


後手後手に成らざるを得ない異能力の『再現』だが、彼女はそのリスクを自らのフィジカルで完全に補いきっている。


息を吐く間も無い攻防の中で、感知すら難しい程の構築時間で扱ったケヴィンの転移魔法を、その刹那で再現。


転移先で放たれたエマの雷撃に対し、最も効率的な行動をその僅かな時間で算出し行動する。


異能力に頼った戦い方ではあるが、その類まれなる反射神経が有ってからこそ実行可能な戦い方だ。


異能力に振り回される英雄は多いが、フィーネは異能力を完全に使いこなしていると言えよう。


彼女もやはり、英雄の中でもトップクラスの一員だ。


紛れもなく刀聖一派に席を置く、Xランカーの一角なのだ。


ジパング大森林で交わした『本気を見せる』と言う約束を守ってくれたのだろうか、確かにそれ相応の実力を発揮している様だ。


だとすれば、彼女が何処まで戦えるのか試したくてたまらない。


それが自分の悪い癖だとは自分でも分かっているが、デュラン達好敵手との闘いが連続した為、興奮が収まらないのだ。


「お! 何か楽しそうだなケヴィン!」


そんなケヴィンの様子に気付いたのか、僅かな間にも刃を幾度か交えたレオンが無邪気に声を掛けてくる。


「あぁ、楽しくて堪らねぇ。お前も後でしっかり相手してやるから、待ってろよ」


「ん? どういう意味――――」


言いながら、ケヴィンはレオンが振り下ろした剣を避けると同時に、彼の側頭部へ回し蹴りを喰らわせる。


その勢いのままレオンの体がぐるりと反転した所へ、彼の腹部へ掌底をめり込ませた。


「ぐぅっ!!」


悲鳴を上げながらレオンは吹き飛ぶ。


地面を幾度と跳ね返るレオンが、己の体に治癒魔法を施している事を確認しながら後ろを振り向く。


無数の魔法と無数の矢が交差し、激しい攻防戦を繰り広げているエマとフィーネの視界に捉えるとケヴィンは口を開く。


「エマ、少しレオンの面倒を見てやってくれないか?」


「何? もうレオン倒したの?」


「あいつはそんなにやわじゃねぇよ。ただ、フィーネに少し興味が出てきてな」


言いながら、ケヴィンは大袋から取り出した小型の投げナイフをフィーネへと飛ばす。


魔力を用いた技術なら再現出来るフィーネの異能力だが、こう言った魔力の関与しない物理的な攻撃には異能力は発動出来ない。


そんな攻撃でフィーネを傷付ける事が出来ると思って居ないが、狙いとしては注意を逸らしエマとの攻防戦を中断させる為だった。


一瞬の迷いも無く、高速で飛ばしたナイフに対し正確に矢を放って弾き飛ばしたフィーネ。


その一手でフィーネの攻撃が止まり、同時にエマも手を止めた。


「興味って何よ。貴方そう言う話に興味は有りませんってタイプじゃなかったかしら?」


何故か少し怒り口調のエマに首を傾げながら、ケヴィンは返答をする。


「男も女も強ければ戦いてぇ、ただそれだけだ。性別や種族なんて俺にはなんの関係もねぇよ」


と言うと、途端にエマの表情は柔らかくなる。


「あぁ、そう言う事ね。理解したわ」


それ以外に何が有るんだと思いながら、風魔法を操りながら此方へ降り立ち、レオンが吹き飛んだ方向へ向かうエマとすれ違う。


「あまり無茶はしないであげてよね。デュランの様に頑丈じゃないし、将来レオンのお嫁になる子なんだから」


「安心しろ、生きてさえいれば俺が無傷の状態に治してやるよ」


「……ちょっと物騒な発言だけど……まぁ、レオンの事は任されたわ」


『レオンのお嫁』と言う言葉が聞こえていたのか、赤面して何やらあたふたしているフィーネの元へゆっくりと近づく。


それに気づき此方へ真っすぐ視線を向けたフィーネは、直ぐに真面目な表情へ戻ると弓を此方へ構える。


彼女の表情は若干の不安を醸し出しているが、それでも逃げ腰な雰囲気は一切見られない。


勝てるとは思わないが、簡単に負ける気は無い。


そう言った表情だ。

あー、ケヴィンの悪い癖が……

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