連戦
ちょっと前日と前々日の投稿話数は張り切り過ぎました(汗
その大剣の持ち主、デュラン・メギストンは大きく後方へと飛び跳ねると、大剣を肩に乗せた。
「……驚いたな、いつから気付いていた?」
若干口元を緩めながら此方に問うデュラン。
その質問に対し、ケヴィンは鼻で笑いながら返す。
「わざと気付かせる様に微量な魔力を感知させてたのはお前らだろ。全く相変わらずの戦法だな? 『ルーチェ』」
言いながら、ケヴィンは右手を真横に翳し、ロックブレイクを放つ。
何も無い空間に放たれたロックブレイクは、突如現れたアースウォールに阻まれ、砕け散る。
そして空間が揺らぐ様にゆっくりとその場に姿を現したのは、ジパング学園の特待生、ルーチェ・アブニールだ。
「あちゃー、バレてたかぁ。さすがボクのケヴィンだよ」
「お前のものになったつもりはねぇがな!」
続けてケヴィンはファイヤーアローを放出する。
「うわっちち!! ちょっと待ってよケヴィン! 少しぐらいボクと愛を語ろうじゃないか!!」
「お前が『前の約束通り』、全力を見せるんだったら考えてやるよ」
ルーチェはファイヤーアローが掠めた手に息を吹きかけながら、ケヴィンへと返答する。
「出来れば忘れてて欲しかったんだけどなぁそれ。まぁいいや、じゃぁボクの問題に正解したらその約束、守ってもいいよ?」
二人が言っている約束と言うのは、前回のジパング大森林で交わした約束の事である。
初日でルーチェとフィーネコンビに遭遇したケヴィンは、それを圧倒。
彼女らは初日でリタイアする訳には行かず、ケヴィンにその場を見逃してもらう代わりに、次に拳を交える時は本気を出す事を約束した。
結局その約束はその時の交流戦では果たされる事は無かったが、状況は違えど今は再戦と言う形には相応しい状況だ。
ケヴィンはここぞとばかりにその出来事を持ち出したのだった。
そしてルーチェはケヴィンが返答する前に、一方的に問題を出すと共に魔法を展開してきた。
「答えられるかなぁ? ボクとデュランは、いつから君達を監視していたでしょうか!?」
発言を終えると共に光の中級魔法、シャイニングレイを発動する。
ジパング大森林でもケヴィンに発動した事もある魔法であり、無数に出現した光の玉が不規則に動き回り、対象に連続した光の雨を浴びせる技だ。
彼女は無意識なのか、光魔法を好んで使う習性がある。
先程ケヴィンがロックブレイクを放った際に、突然何もない場所から現れた様に見えた彼女の技術も光魔法による効果だ。
光の屈折を利用して、対象から自分の姿が見えない様にする光学迷彩の要領を利用した光魔法。
どちらかと言うとフラッシュの様に生活魔法に近い技術だが、気配が探知出来ない者からすれば恐ろしい魔法だろう。
しかしその単調な技ですら、ある程度の魔力操作が出来なければ、完全に人目を欺く事等出来ないだろう。
何故一学生である彼女にそんな事が出来るのだろうか。
隠す事も無いだろう。
彼女こそがXランカーの一片を担う『光帝』なのだから、この様な技術は朝飯前であった。
先日ケヴィンが光帝として協議会に出席していた彼女に向かって『一応お前と俺は今初めて会話を交わす間柄の設定だって事分かってんのか?』と言う発言をしたのはそう言う事であったのだ。
「そうね、ケヴィンが身体強化の極意について、エドワード達にレイピアの刺突を見せて居た頃かしら?」
突如、ケヴィンをドーム状の黒い靄が覆った。
ルーチェが放った光の雨は、その黒い靄に触れると共にゆっくりと消えていく。
その黒い靄は、エマが放った『シャドウウォール』である。
特殊属性である光と闇は、互いに正反対の性質を持つ。
光属性のウォール魔法は放たれた魔法を反射する性質があるが、闇属性のシャドウウォールは放たれた魔法を『吸収』する特徴を持つ。
勿論相手が魔法に込めた魔力の量や魔法自体の威力によってそれぞれ限界は有るが、シャドウウォールは物理攻撃でさえその威力を吸収する性能も持っていた。
互いに弱点属性でもある光魔法のシャイニングレイと闇魔法のシャドウウォールで有れば、余計に質量や威力が物を言う事になるだろう。
シャイニングレイはシャドウウォールに完全に吸収されたが、ルーチェの魔法技術が別段乏しいと言う訳では無い。
単純に相手が悪かっただけである。
『無限魔力』を持つエマに掛かれば、一度の魔法に込められる魔力量は英雄の中でも群を抜いているのだ。
自然魔法だけで戦えば、オールガイアランキング1位である炎帝でさえも勝てないと言われているのが、この雷帝なのだから。
彼女は今、確実に無詠唱でシャドウウォールの展開を行った。
中級魔法ではあるが、一般学生の中には初級魔法ですら詠唱破棄を行える生徒はまず居ない。
つまり彼女は今、一学生としては有り得ない力を見せた事に成る。
その行動が意味する事は、英雄としての戦闘力を行使しても構わないと言う事だ。
今現在、武道館内に残っている3組のチームの内、2組がここに揃って居る。
そしてその全員が英雄、或いはそれ以上の力を持つ者で占められている。
となると未だ姿を見せない残り一組のチームは、ほぼ100%……『レオン』と『フィーネ』のチームだろう。
これもまた隠す事等無い事だがルーチェの相棒的存在のフィーネもXランカーの一人、『弓聖』である。
だとすれば武道館に残っている者全員が英雄格の存在であり、皆が皆所謂『刀聖一派』に所属する者達だ。
エマが思う存分力を振るっても、何の問題も無いと言う事になる。
デュランがルーチェとチームを組んでいる事は予想外だったが、それならそれで普段と変わった戦い方が楽しめる事だろう。
エマとデュランの身内同士の戦いだって絶対に面白くなる。
通称『エルフ殺し』と言われているデュランの魔封斬に対して、エマがどれだけ彼の隙を突けるかが勝負の鍵になるのだから。
勿論ケヴィン単独で両方を相手取る事等容易い。
だがそれをしてしまっては勝敗云々の以前にケヴィンが『楽しくない』のだ。
問題はルーチェの異能力の方である。
彼女の異能力はシアンやエリルの様に攻撃型の異能力では無く、エマの様に『受動系』の能力に付随する。
そのルーチェの能力がこの戦況でどう影響するかが肝だ。
「うーん、半分正解で半分外れー」
言いながら、ルーチェは涼しい顔をしながら息を吐く様に自然の流れで風の上級魔法、テンペストヴォルテクスを無詠唱で発動する。
対するエマも、風の弱点属性である火属性でフレイムウォールを発動させ、巨大な竜巻を防ぐ。
悔しそうに、『おかしいわね』と呟きながら唇を噛む。
彼女はケヴィンとエドワード達が戦って居た時、ただボーっと眺めていた訳ではないだろう。
彼女も彼女なりに周囲の索敵を行って居た筈。
そして彼女が先程答えたタイミングは、正にデュランとルーチェが微弱に魔力を発し始めた時の事だ。
しかしそれは気配をわざと探知させ始めたタイミングで、実際にはもっと以前から彼等は到着していた。
「エドワード達よりも先に俺達を見つけて、出方を伺ってたんだろ?」
そう言うと、ケヴィンはルーチェの頭上に、彼女の十八番であるヘブンズソードを展開する。
「えー? そんな事までバレてたんだ……」
と、残念そうな表情を見せるルーチェ。