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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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身体強化の真髄

「お前のレイピアを貸せ。そんで俺の動きに全神経を集中しろ。魔力探知も忘れんなよ」


「なんだか完全に蚊帳の外ね」


エマが文句を告げるが、ケヴィンはそれを無視する。


エドワードは未だケヴィンがやろうとしている事を理解していないだろうが、それでも疑う素振りも見せず己の武器をケヴィンへと差し出して来る。


それを受け取ったケヴィンは、レイピアを『右手』に持った。


「大抵の奴等は俺と違って右利きだからな、こっちの方が分かりやすいだろ」


言うとケヴィンは左腕を背中へと回し、体を横に向ける。


エドワードが戦闘を行う際に一番最初に取る構えの模範だ。


「準備はいいか?」


ケヴィンが問うと、エドワードはやっと此方がやろうとしている事を理解したのか、強く頷いた。


アルベルトも、一瞬たりとも動きを見逃すまいと、真剣な眼差しを向けている。


ケヴィンは体に身体強化を施した。


魔力量は大雑把にだが、エドワードが先程展開していた量の魔力を体に込めた。


その方が、エドワードにとって分かりやすいと言える事も有るが、そう言った理由とは別にその魔力量こそが『普段ケヴィンが使用している魔力』に近しい量なのだ。


エドワードがケヴィンに匹敵する程の魔力量をいつも行使していると言う訳では無い。


単純にケヴィンは一般人の枠である『エドワード程度の魔力』だけで、英雄達と渡り合っている。


素の身体能力が高い事も理由では有るが、それ以上にケヴィンは身体強化の魔力の使い方が、他の者達とは『大きく違っている』のだ。


そして、ケヴィンは刺突を繰り出す。


扱った事の無いレイピアだが、先程エドワードが見せた刺突の手段を全て模範し、ほぼ完璧に再現をした。


同じ魔力の出力から繰り出される刺突。


だがその一連の動作は、全てが異なっていた。


ケヴィンが突き出したレイピアは、まるで空間にすら穴を空けるかの様に凄まじい速度で繰り出され、その細剣の先端からレーザーかと思う様な突風が一直線に吹き荒れた。


突き出したレイピアを納め、ゆっくりと体勢を直すケヴィン。


そして、一部始終を見て居たエドワードへと問う。


「お前と俺では確かに元々の身体能力に差がある。だが動きは全てお前を模範した上で、身体強化に使った魔力の量も殆どお前と同じだ。同じ威力が出せるとは言わねぇが、それに近い物は出来るだろう。自分と俺の差は、何か分かったか?」


エドワードは強く頷く。


希望が見えた様な、だが同時に不安が残る様な、そんな表情を見せている。


「そうですね……一つ明らかに違う物と言えば、魔力が体を『流れて』居ました」


彼の言葉にケヴィンは頷く。


「それが分かったのなら上出来だ。俺が見せるのはここまでだ、後は自分で試行錯誤しろ」


エドワードが発見したであろうそれは、ケヴィンが与えようとしていたヒントその物だった。


人は、身体強化を施す際に、体全身を覆う様に魔力を循環させる。


そうする事で、全身の筋力や神経系統の伝達が向上され、身体強化に繋がる。


エルフの様に繊細な魔力操作が要らず、ただただ体に循環させる速度が早ければ早い程、体を満たす魔力許容量が多ければ多い程強く成れる人間は、ある意味卑怯な存在だろう。


魔力操作の練習をせずとも、簡単に強くなれるのだから。


しかし、実際ケヴィンにとっては人間の方こそ繊細な魔力操作の練習をすべきだと考えて居る。


その理由として、人間が一般的に用いて居るこの身体強化魔法には、とても『無駄が多い』と言う事実が有るからだ。


魔力効率が悪いだけでは無く、使用方法自体に無駄が有り、損をしているのだ。


身体強化魔法は、身体能力の全てを爆発的に向上させてくれる。


表面的な見た目としては変化が無い様に見えるが、内面的にはエネルギーとして筋力が増えている様な状態だ。


その恩恵が実は体の動きを『妨害』している等と誰が思うだろうか。


人間は体全体に魔力を注ぎ込む。


体と言う器一杯一杯に、魔力を詰め込んでいる。


それが一般人が行って居る身体強化魔法の基礎だ。


それだけでも、確かに多大な恩恵は得られるだろう。


それはケヴィンも認めている。


しかし、そこに盲点が有る事に人類は気づいていない。


この『体一杯に魔力を込める』と言う行為は、筋肉で言う『全身の筋肉に力を入れている状態』と同じなのだ。


人が拳を突き出すと言う動作を繰り出す際に、肩から指先まで全て力を入れたまま放つ人物は居ないだろう。


当たり前に動きにくさを感じるのだから。


力のエネルギーが流れる様に腕を振るい、エネルギーの最終到着地点が拳に成る様な動きを誰もがする筈だ。


ケヴィンが今行った身体強化魔法の使い方は、正にそれなのだ。


エドワードの言う『魔力が流れていた』と言う言葉の意味は、ケヴィンがレイピアで刺突を行う際に動いた筋肉の繊維一つ一つに『のみ』、ケヴィンは魔力を込めていたのだ。


重心を移動しつつ、下半身から腰を通り上半身へ、そして腕へと流れる様に使われる筋力にのみ身体強化を施している。


全身に力を込めるのでは無く、必要な部分に必要な魔力を送り込む。


そうする事によって、妨害される事無く綺麗に流れた魔力は強大なエネルギーとなり、レイピアの先端から途轍もない威力となって放出されたのだ。


これがケヴィンが長年培って来た強さの秘訣の一部である。


勿論、誰もが練習したからと言って、ケヴィンの様に筋力の『繊維レベル』で魔力を込める事等出来る訳が無いだろう。


とっくの昔に死に対する恐怖が無くなってしまったケヴィンだからこそ、頭がおかしく成る様な地獄の反復練習が出来たとも言える。


しかし、全てを真似る事は出来なくても、応用する事は出来る筈だ。


大雑把に足先から腿、腰、胴体、腕と言った部分的な流れを作る事は出来るだろう。


それだけの事でも、戦闘中のコンマ何秒の世界でそれをするには途轍もない集中力が必要だが、それをするだけの価値は大いに有る。


大雑把にその動きを真似るだけでも、確実な変化が有る事をケヴィン自身が知っているのだから。


この境地にたどり着いている存在を、ケヴィンは『エリル』しか知らない。


彼が意識してそれを行って居たかは分からないが、当時の彼は確かに魔力を体に流す様にして動いていた。


辛うじてその域に足を踏み入れて居ると思える人物が『シアン』である。


彼もまた無意識の内にそう言った技術を身に着けて行っているのだろう。


つまり、この技術は『英雄』ですら禄に使えて居ないと言う事実が有るのだ。


ケヴィンがエドワードに見せた技術は、それ程まで習得の困難な技術だと言う事である。


何れレオン達もこの事実に気付く事だろう。


ケヴィンの強さを知る彼等なら、その強さの秘訣を知ろうとするだろう。


観察力の有るデュランなら、そろそろ気づいても良い頃だとケヴィンは思っている。


そしてこの技術が有れば、事実として『エドワード程度の魔力』でも、堕落した英雄に勝つ事が出来ると言う証明とも成る。


実際にケヴィンがその程度の魔力しか普段使っていないのだから。


だがその域に辿りつく迄には異常な程の鍛錬が必要であり、今からエドワードが修めようとしても途方もない年月が必要と成るだろう。


それは彼の才能と努力の結果に大きく左右される。


恐らくこの日より暫くの間、スランプに見舞われる筈だ。


普段の動きと全く異なった動きをする事に成るのだから、そちらに集中するあまり普段の動きが分からなくなってしまうと言った悪循環に見舞われる事もある。


だがそれでも強く成りたいと言う意思が有るのなら、きっと強くなれる。


ケヴィンはそう信じて、エドワードにその技術を見せたのだった。

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