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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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途中経過

「悪くなかったぜ」


「……そうは思いませんけどね」


ケヴィンがどれだけ相手を褒めようと、殆どが嫌味と取られるのは仕方のない事だろう。


あまりにも開きすぎている実力に、英雄ですら嘆いてしまうのだから。


ケヴィンはその場で指を弾く。


すると、アルベルトを拘束していた鎖は砕け、エドワードの視力はすっかりと元通りとなった。


「何かヒントは掴めたか?」


視力が戻った事を確認したエドワードは、一度顔を振るうとゆっくりと立ち上がりケヴィンを見据える。


「やはり君には僕の考えが筒抜けだった様ですね。……正直な所何も掴めませんでしたよ」


「だろうな、たったあれだけで分かってたら苦労しねぇ」


エドワードは呼吸を落ち着かせる様に大きく深呼吸をした。


「いやいや、ここまで一方的じゃと私も形無しじゃな」


手首を摩りながら、アルベルトもゆっくりと此方へ歩いてきた。


「ジジィの事は、正直もう少し早い段階で倒せると思ったんだが、舐め過ぎてたかもしれねぇな」


「やはりお主……中々に卑怯な存在じゃのう」


「それを混血種の俺に言うかよ」


「身体強化だけでも負けてる上に、自然魔法も見た事の無い複合魔法を使っておる……やはり卑怯じゃわい」


「一人の生徒に対して、学生の中では最高レベルの奴を従えて来た奴が何言ってやがる」


勝手に一人で対抗したのはケヴィン自身なのだが。


「でも、はっきり言ってボロボロの完敗でしたね。僕達のチームは」


「そうか? 言う程酷い内容じゃなかったと思うがな。なぁエマ?」


アルベルトとの闘いを眺めていたエマへ、ケヴィンは質問を投げかける。


エマは突然振られた事に驚くが、途端に不機嫌な表情になる。


「……私に振らないでよ」


あぁ、そう言えば一応エドワードは此方の正体を知らなかったなと思い直すケヴィン。


アルベルトは勿論エマの正体を知っている。


Xランカー全員の正体を知る数少ないギルドの上層部の人間だから。


しかしエドワードはまだ王子と言う身分。


次期国王と揶揄されているが、兄であるミリアルドも知らないのだからエドワードも国王に成るまでケヴィン達の素性を知る機会は少ないだろう。


「でも、正直とても参考になったわ……。自然魔法だけの戦い方を見ても、戦闘と言う概念がガラリと変わると言うか……」


「ふむ、幾つもの魔法を最終目的の為に大きな一つの魔法の一部にすると言う発想。常識では中々考えつかないもんじゃからな」


対魔物に対しては、ケヴィンが先程アルベルトやエドワードに対して行使した魔法の殆どは、あまり意味のない物となる。


魔法を使って目的の位置へ誘導したり、複合魔法で相手のリズムを崩したり等と言った使用方法は、殆ど必要無いのだから。


魔物に対しては、どれだけ威力の高い魔法を叩き込めるかが全てなのだ。


小さな魔法を組み合わせて、最後に大きな魔法を喰らわせると言った戦い方は殆どの者がした事が無いだろう。


強い力を持つ者程、強力な一撃を魔物に叩き込む事が一番効率的で安全な戦い方になるのだから。


しかしケヴィンは幼き頃、そんな事が出来る筈が無かった。


中途半端な威力しか出せない自然魔法で、如何に魔物を討伐出来るかが一番大事な要素だった。


今のケヴィンの戦い方は、その時の集大成とも言えた。


「それでも……園長も園長ですよ。戦線に戻る直前しか見れなかったですけど、最後の落雷を避ける時に槍を避雷針替わりに使うなんて、僕では絶対に思いつかない方法でした」


「ケヴィンよ、お主なら同じ事を相手からされた場合、身体強化の力だけで退くとしたらどういった行動を取る?」


「あ? そうだな、手っ取り早いのは武器に魔力を『纏めて溜め込んで』、放たれた魔法以上の威力で魔法を叩き斬るかな。そもそも最初っから魔法なんて撃たせねぇけどな」


ケヴィンの返答に対し、アルベルトとエドワードは同時に疑問を浮かべた表情を見せた。


「纏めて……溜め込む?」


アルベルトはケヴィンの先の発言を反復した。


「あぁ、体内で循環する魔力を、武器に集中的に溜め込めば武器自体の硬度も比例して上がるからな。同じ様に腕だけに魔力を集中すれば、そいつで殴りつけるだけでも自然魔法を弾き飛ばす事が出来る」


以前ジパング大森林にて、ケヴィンは腕に魔力を纏ってルーチェの自然魔法を跳ね返した事が有った。


あの技術も、今ケヴィンが口にしている技術の応用である。


「……すまぬ、重ねて質問するが、お主が先程爆発魔法を起こした時、お主の脚部は全くの無傷だった様じゃが、あれはどうなっておるんじゃ?」


「同じだ、体に循環している全魔力を足に注ぎ込めばあれだけの爆風じゃ傷一つ付かねぇ」


「……足先に全魔力を注ぎ込む……?」


ケヴィンの返答が、アルベルト達には理解出来ない様子である。


当然、この技術は『人間専用』の技術であり、エマも理解出来る筈が無い。


「はっきり言うぞジジィ」


ケヴィンはわざと強い声を発し、アルベルトの視線を自分に向けさせる。


「あんたの実力は、実際の所まだまだ『途中経過』だ」


「……私が……途中経過じゃと……?」


途端に、渋い表情に染まるアルベルトの表情。


それもそうだろう。


ケヴィンの今の言葉は、アルベルトの生涯を否定するに近い言葉だからだ。


長年努力を続けてきた彼の事だ、激怒してもおかしくはないだろう。


しかしケヴィンは知っている。


今回アルベルトが交流戦に選手として参加した理由は、『楽しみたいから』が理由だった。


彼も彼也に、強者との闘いを求めての参加だという事だ。


じゃなければエドワードに感化されたと言えど、わざわざケヴィンに戦いを挑んで来るはずが無い。


試合の流れをかき乱す事が目的の、ちょっとしたイベントを起こす為だけに参戦したのならもう十分にその役目は果たしている。


しかし圧される一方だった戦況で、致命的な状態と成るまで一切降参の色を見せなかった。


それは一概に、強い者と戦いたい。


間違い無く、そう言った思いがアルベルトに有った筈だ。


その気持ちはケヴィンにも痛い程分かる。


そして戦いを楽しんでいる者は、強い者と戦いたいと言う理由の他にもう一つ絶対的な理由が存在する。


『もっと強くなりたい』と言う思いだ。


「……詳しく……」


「教えてくださいケヴィン」


アルベルトの言葉を遮って、大きく声を張り上げたのはエドワードであった。


「僕に……もっと強くなる術を……教えてください」


いつになく真剣な表情を見せるエドワード。


彼を一瞥した後、ケヴィンはゆっくりと口を開く。


「強くなりてぇ理由はなんだ?」


男として生まれた者なら、誰もが『最強』を目指す事があっただろう。


成長するにつれ、己の限界を知り、諦める者、限界に挑戦する者に分かれる。


ケヴィンの様に、必ず強く成らなければならなかった存在等殆ど居ない筈だ。


その上で、エドワードは国王と言う将来が決まっている存在でもある。


最強に成る必要等無い。


一定の強さを持っていれば……今の強さが有れば生きて行くには十分な筈だった。


だから、ケヴィンはエドワードがそれ以上の強さを求める意味を、純粋に知りたいと思い質問を投げかけたのだった。

次回、ケヴィンが教師になる?

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