ケヴィンは遊びだす
「仕掛けは分かった。なら後は手数を増やせばお前のその防壁は突破出来ると言う事だな」
「あーもう!! そっちのサムライさんまで俺を舐めてるっス! もう怒ったっスよ! 後で泣いても許してやらねぇっスから!!」
言うと、魔人は後方に風魔法を繰り出し、ブーストを発生させる。
こちらへ突撃する様に向かって来た魔人に対し、二人は同時に攻撃を仕掛ける。
魔人が、こちらの攻撃に対し直接風魔法をぶつけて居るのなら、異なる方向からの二つ攻撃に対して同時に対処するのは難しい筈だ。
しかし左右から挟み込む様に攻撃したにも関わらず、二人の攻撃はあっさりと魔人に弾かれる。
感触は先程弾かれたそれと同じ、つまり再び風魔法で弾き飛ばされたと言う事だ。
「何!?」
刀聖が声を上げる。
彼が次の攻撃を仕掛ける前に魔人は大地魔法を構築し、それを刀聖へとぶつけていた。
ケヴィンはその隙を突きもう一度攻撃をしかけるが、再びそれが弾き飛ばされる。
体勢を崩すことなく魔力を向上させ、先程魔人が反応出来なかった速度でもう一度攻撃を仕掛ける。
だが……それすらも弾き飛ばされてしまう。
反応している筈が無い、まだ魔人の視線は刀聖へと向いている。
最初の二人同時の攻撃を同時に弾き飛ばしたのは、ある程度予想していれば出来る事だろう。
しかし今の自分が繰り出している剣速であれば、先程と同じ様にこの魔人は反応が出来なかった筈だ。
ケヴィンはその後試しに二度、三度と剣をぶつけ続ける。
しかしその刃は彼には届かない。
分が悪いと判断したケヴィンは、攻撃を止め後方へと距離を取る。
「……」
魔人を見据え、何が起こったのかを観察する。
「あー!! あんた早すぎるっスよ! こっちが攻撃を仕掛ける隙も無いっス!!」
やはり、彼は此方の攻撃に反応し切れていない。
無意識のうちに魔力を展開していたのだろうか。
いや違う、そんな都合良く魔法を発動出来る訳が無いだろう。
ケヴィンは全ての攻撃をばらばらの角度から攻めた。
それを全てはじき返されたのだ。
もしかしたらこれは彼の持つ『異能力』だろうか?
有り得ない事は無い。
体全体を覆う様なバリアみたいな物を張る異能力。
だがケヴィンはそれを否定する。
異能力にしては、使用している魔力量が『多すぎる』のだ。
異能力はどんな効果の物でも、極僅かな魔力しか使わない。
ケヴィンが彼から感じている放出された魔力の量は、異能力の非じゃない程大きな物だ。
魔法構築技術は卓越した物だが、魔力隠蔽能力はそれ程では無い。
恐らくわざと隠蔽はしていないのだろうが、だからこそ今彼が此方の攻撃を弾く為に使っている風魔法に込めている魔力の大きさが、ケヴィンには手に取る様に分かるのだ。
その魔力探知が異能力では無いと言う事を認識している。
だとすれば後は話は単純だ。
体全体を覆う膜の様な物を、彼は異能力では無く風魔法で再現しているだけと言う事である。
している『だけ』と言うには、あまりにも高等技術ではあるのだが。
「成程、風の攻撃魔法を一定の範囲で延々と自分の周りに膜の様に張り続けて居るって事か」
「あちゃー! あんたほんと何者っスか? 尽く俺の魔法構成見抜きやがるっスよ!」
風の初級魔法、ウィンドカッターを高出力で体の周りへ張り巡らしている。
対象を攻撃する為では無く、進入してきた物体を弾き飛ばす為。
縦横無尽に飛び回る風の刃が、魔人の体の周囲を覆って居ると言えば分かりやすいだろうか。
「だけど見抜かれた所で、物理攻撃は俺にはもう届かないっスよ! 人間に負ける事は有り得ないっス!」
「これならどうだ?」
「おわっ!!」
刀聖が言葉を発した瞬間、魔人へ紫色の刃が襲い掛かる。
間一髪でそれを避けた魔人は、刀聖へと振り向く。
「確かにあんたのその異能力はヤバいっス! だけど、当たらなければ意味が無いっス。剣聖や炎帝みたいに俺と相性の良い異能力持ちが居たらヤバかったっすけど、あんたの隙がでかい異能力なら十分対処出来るっス!」
痛い所を突かれる刀聖。
確かに予備動作の長い絶対切断は、今から放ちますよと言って居る様な物だ。
今の様に不意打ちで放ったにも関わらず当たらない様であれば、正攻法で当てる事は難しい。
魔封斬ならば展開している風魔法ごと切り裂く事が出来ただろう。
自然魔法を使えば相性の良い炎魔法で焼き尽くせば、風のバリアなどなんの意味も無い。
絶対切断の当たらない刀聖は、ただの物理特化の英雄に過ぎない。
物理攻撃が彼に効かないと成れば、刀聖の勝ち目は無いに等しい。
人間には負ける気がしない。
魔人は確かにそう言った。
そこまで言うのなら、人間の力だけで一泡吹かせてやろう。
ケヴィンはニヤリと笑うと、悪だくみの為に力を籠め始めた。
「物理攻撃が効かない。だがそれは一定レベルでの話だろ」
「どう言う意味っスか?」
ケヴィンはゆっくりと魔人へと近づく。
こちらの言葉の意味を探って居るのか、魔人はケヴィンの間合いに入るまで一切攻撃を仕掛けて来なかった。
「こういう事だ」
「なっ!!」
魔人はまだ風魔法を展開していた筈だ。
実際にケヴィンが振った剣には、確かに風魔法がぶつかった『手応え』を感じた。
だがケヴィンの斬撃は弾き飛ばされず、魔人の右腕を切り裂いた。
肩から切り離される腕を急いで逆の腕で掴んだ魔人は、己の体の前面へブーストを展開しケヴィンから距離を取った。
その間に治癒魔法をかけ、右腕を何事も無かったかの様に回復させた。
「あ……あんた異常っスよ!? 俺の風魔法を物理的に破って来るなんて……」
ケヴィンはただ剣を振るっただけだ。
特に自然魔法を展開した等という事では無い。
上から下へ剣を振るった、それだけである。
ただやった事と言えば、今までより多くの魔力を身体強化に施したと言う事だけだ。
つまり、斬撃自体の威力を異常なまでに向上して叩きつけた。
刀聖や剣聖の放つそれらよりも遥かに強い剣撃を、魔人の風魔法に向けて放ったのだ。
結果、風魔法が此方の攻撃を弾いてくる威力よりもケヴィンの斬撃の威力の方が上回り、攻撃魔法の壁を貫通したと言う形になったのだ。
「どうした? 人間に負ける事は有り得ないんじゃなかったのか?」
「く……五月蠅いっス!!」
再び悔しそうに顔を歪める魔人。
警戒の色が強く出ている。
「全く……お前には恐れ入るな。そんな力を見せられたら俺もまだまだだと痛感してしまう」
一体どれくらいかつ丼食ったらそんなに強くなる?
と頓珍漢な刀聖の質問を無視し、彼へと言葉を掛ける。
「刀聖、いつでも絶対切断を放てる様にしとけ。俺が隙を作り出してやる」
言い終えるとケヴィンは、左肩を軽く回し背伸びをすると、魔人へと駆け出し始めた。
「さぁ……楽しませてくれよ!!」
無邪気に笑みを零すケヴィン。
対して魔人は、苦しそうに表情を崩す。
先程魔人の風魔法を打ち破った斬撃と同等の威力を彼へ叩きつける。
すると、今度はケヴィンの攻撃は通らずはじき返される。
「込める魔力を強めたみてぇだな。それで良い、何処まで耐えられるか試してやるよ」
刹那、ケヴィンは幾度も斬撃を放った。
それはまるで全方位からの同時攻撃。
圧倒的速度で、魔人に向かって連撃に連撃を加える。
「く……まずいっス……」
攻撃が魔人へ届いている訳では無い。
実際全てはじき返されている。
だが魔人の表情は優れず、ダメージを受けていないにも関わらず後ずさりをしていた。
「おら、どうしたよ? 防御だけで手一杯か? 攻撃はどうした? いくらでも放って来いよ。まぁ、出来ねぇだろうがな」
ケヴィンの斬撃が魔人の風魔法を貫通しなくなったのは、単純に彼が風魔法に込める魔力を強めたからである。
しかし、そうした事で恐らく魔人はケヴィンの攻撃を防ぐだけで手一杯の状況に成っているのだろう。
だから攻撃魔法を展開出来ない。
反撃も出来なければ、先程から移動に使って居るブーストを発生させる事も出来ないのだ。
勿論ケヴィン側ももっと威力を込めれば、更にこの風の防護壁を貫通させる事が出来る。
ただ今それをしては面白くない。