人類対魔族
「お前意外とお喋りだな? 魔人と言えば勝手なイメージだが、お前ら魔族側の切り札だろ? そんな存在の情報を俺達にポンポン与えてたら、足元すくわれるぞ?」
「問題無いっスよ!」
魔人は笑みを零し、口を開く。
「ここでおたくらは死ぬからっス!!」
その瞬間であった。
ケヴィンと刀聖は、ほぼ同時にその場を退く。
先程まで二人が居た地点の地面が突如盛り上がり、アースグレイブが発動する。
「中々の反応速度っスね! でもそっちは行き止まりっスよ!」
彼の言う通り、ケヴィンと刀聖の背後には、彼が発動したであろうロックウォールが存在して居た。
恐ろしい程の構築の速さにケヴィンは笑みを隠せないが、ここで少しだけ相手に此方を舐め過ぎだと言う事を伝えるべく、左腕をロックウォールへと叩きつける。
凄まじい衝撃音と共に粉々に砕けるロックウォール。
同じ様に、刀聖は刀をロックウォールへ振るっていた。
正面へ視線を送ると、二つのダイダルウェイブが二人を個々に襲って来た。
ケヴィンは再びロックウォールへ叩きつけた左腕を正面へと突き出し、水圧を拳圧で吹き飛ばす。
「うおぅ!! マジっスか! 今の避けずに吹き飛ばすんスか!?」
「お水は刀聖様がおいしく頂きました」
と、隣ではずぶ濡れとなった刀聖が何やら呟いていた。
「正直に正面から喰らって水をたらふく飲んじまったって言えよ」
「敢えて飲んだだけだ! それに一部は切り裂いたからな」
なんとも負け惜しみの様な言い方をする刀聖。
しかし先程の巨大なダイダルウェイブでダメージを受けていないところを見ると、確かに大部分は切り裂いたのだろう。
「おたくら思ったよりずっと強いっスね! ちょっと甘く見てたっス! 少しだけ本気出すっスよ!!」
言うと、魔人は大きく腕を振るい、二人を巻き込む程巨大な竜巻を前方へと発生させた。
やはり素晴らしい程の魔法構築の速さに関心しながら、ケヴィンは長剣を引き抜く。
「しまった。勢いで避けてしまったが、この風に敢えて当たってローブを乾かす手段も有ったな」
「なら勝手に一人で涼んでろよ」
「いや、やられっぱなしと言うのは気にくわないからな。少しお灸を添えてやろうと思っている」
「珍しいな、それは同感だ」
着地と共に駆け出す二人。
「良いっスね!! その調子っス!!」
魔人は両手を振るいながら、次々と自然魔法を仕掛けてくる。
地面からアースグレイブを突き出し、上空からサンダーブレードを叩きつける。
正面から氷のつぶてを飛ばし、避けた先に燃え盛る火炎を発生させる。
しかしそれら全てを避けきったケヴィンは、魔人へ接近すると共に長剣を振り下ろす。
「おっと!!」
ふざけた声を上げながら、その攻撃を回避する魔人。
「ん?」
だがケヴィンはその行動に違和感を感じた。
風魔法を扱い、ブーストする様に自分の体を強引にスライドさせる避け方。
まるで身体能力で避けて居たら間に合わないとでも言う様な無理矢理な手法。
「はぁ!!」
「ちょ! ズルいっス!!」
避けた先に現れた刀聖の斬撃を、魔人は少々焦った様に防ぐ。
杖を持った右手を刀聖へと振りかざすと、刀聖の振り下ろした刀はあらぬ方向へと弾き飛ばされる。
体勢を崩し、がら空きになった刀聖の腹部へ魔人は風魔法の塊をぶつける。
「くっ!」
圧縮された空気の爆発で吹き飛ばされた刀聖。
しかし彼は空中で体勢を立て直し、地面に叩きつけられる事無く着地する。
「服は乾いたか?」
冗談を交えて刀聖の無事を確認するケヴィン。
「次は炎魔法で頼む」
「乾いてないが無事だと言うのはよく分かった」
腹部を手で払っている刀聖。
ダメージはさほど無い様だ。
「急所に直撃させたと思ったんっスけどねぇ。サムライさんかなり頑丈なんっスね」
「それより、さっき俺の刀を弾き飛ばした力の正体は何だ?」
刀聖は先程上段から真っすぐ刀を振り下ろした。
魔人を確実にとらえ、彼を叩き斬る事が出来る太刀筋を放っていた。
しかし、刀聖の刀が彼に触れる直前、何かに弾き飛ばされたかの様に刀は進行方向を変えた。
「内緒っスよ!! そう簡単に種明かしはしてやんねぇっス!!」
「じゃぁ無理矢理にでも聞き出してやるぜ」
「うわっ!!」
呑気に魔人が喋っている間に急接近し、彼に切りかかったケヴィン。
魔人は再び焦った様に両腕をケヴィンへ突き出す。
先程刀聖の刀が弾き飛ばされた現象を確認する為にわざと反応出来る速度で。
その上で、先程の風魔法でのブーストでは避けられない速度で。
絶妙な加減の結果、魔人に期待していたそれを使用させる事に成功する。
弾き飛ばされるケヴィンの長剣。
体勢を崩したケヴィンへ、刀聖に使った時と同じ様に追撃を掛ける為に杖をケヴィンの腹部へと移動させる魔人。
しかしケヴィンは長剣が弾かれた反動を利用し、体をひねりながら左足を魔人へと突き出す。
「わっ! わっ!!」
杖を急いで移動させた魔人の行動により、ケヴィンの左足も弾き飛ばされる。
ケヴィンはにやりと笑った。
普段加減して使っている魔力より少しばかり多く魔力を体に流し込み、身体強化の比率をあげる。
その瞬間、未だ左足を弾き飛ばしたままの体勢で止まっている魔人に向かい、剣を振り下ろす。
魔人は反応出来ていないのだろう、それどころか刀聖でさえその動きに反応出来ているとは思えない。
それ程の『速度』をケヴィンは展開したのだから当たり前だ。
そしてその結果ケヴィンの剣は、魔人が起こしている謎の現象に弾き飛ばされる事なく、魔人の袈裟懸けを切り裂く。
更に魔人の腹部を蹴りとばし、彼を後方へと吹き飛ばす。
「くぅっ!!」
幾度か地面をバウンドし転がった後、勢いを吸収する為に後方へ風魔法で風圧を起こし、魔人は立ち止まる。
体勢を整える頃には既にケヴィンに与えられた傷を治癒しており、同時に切り裂かれた白銀の鎧を大地魔法で修復を行っていた。
「お前、相当風魔法が『得意』みたいだな」
ケヴィンは魔人へと問う。
その言葉を聞いた魔人は表情を崩し、悔しそうに口を開く。
「この一瞬で見抜かれたみたいっスね……」
「どう言う事だ?」
ケヴィンの元へ近づいた刀聖から声が掛かる。
「さっきあんたの刀や俺の剣が弾かれた事に疑問を感じたから試してみたんだが、どうやらその正体はあいつが使っている風魔法だったみてぇだ」
「風魔法? ウィンドウォールだったのか? いや……それなら弾き飛ばされる原理は起こらない」
「ウィンドウォールは風の壁だ、確かに弾き飛ばす原理は起こらない。あいつが使って居る魔法は防御魔法じゃない、『攻撃魔法』だ」
「攻撃魔法……それを俺の刀にぶつけ弾き飛ばしたと言う事か」
そこまで言えば、刀聖は納得した言葉は口にする。
「攻撃は最大の防御とか言うが、攻撃魔法自体を防御に使うなんて面白ぇ事するじゃねぇか」
「あちゃー。そこまで見抜かれたのは初めてっスよ。それになんすか? あんた行き成りとんでもない速さで動いたっスよね?」
「お前の技術を評価してこっちも少しだけ力を見せてやっただけだ」
「そう言う言い方するって事は、あんたも本気じゃないって事っスね? 『人間』に舐められたのは初めてっス! ちょっとムカつくっス!!」
彼はどうやら、ケヴィンの正体に気付いていない様だ。
数多くの魔物を討伐している所を、きっとこの魔人は何処かで見ていた筈だ。
しかしどうやら最初の頃にケヴィンがヘブンズソードを使った所は見ていない様子。
でなければケヴィンが居るこの場で二人を『人間』と言う言葉で一括りにする筈無いのだから。
勘違いしているのなら、そのまま勘違いさせたままで良いとケヴィンは思う。
もう少し面白くなってからネタ晴らししても遅くは無いだろう。
何よりそっちの方が面白そうだと、ケヴィンの悪だくみが始まる。
しかしそれと同時に、自分の正体が彼に知られて居ない事に対して、『千里眼』を持つ魔人の存在に疑問を思う。
千里眼と言えば、全てを見通す目の事だろう。
比喩的な表現の異能力の名前かもしれないが、全てを見通すなら自分が蒼氷の朱雀であり、ケヴィン・ベンティスカであること。
なにより混血種で有る事を知られている筈だ。
色々と確かめる必要が有るな、とケヴィンは魔人討伐へ意識を切り替える。
祝!! 百話記念!