ケヴィン・ベンティスカ7
この作品を手に取っていただきありがとうございます。
拙い文章ですが、楽しんでいただけます様努力してまいります。
「えぇい黙れ! 貴様の意見等聞いてはおらん! そこの席を明け渡せと言っておるのが聞こえんのか!!」
「断ると言っている。どうしてもこの席に着きたいって言うんなら厨房に行け。そんで豚肉として美味く料理して貰え。そうしたら注文してやる。いややっぱり腹壊しそうだから辞めとくわ。おい店員、さっきのかつ丼はキャンセルでオムライスに変更だ」
「ぶふっ!!」
店員はつい吹き出してしまった。
ケヴィンが悉くミリアルドの見た目から連想される動物の名を挙げたせいだろう。
しかし次の瞬間その表情に絶望が宿る。
ケヴィンからミリアルドへの誹謗中傷に対し店員は笑った。
その行動を、ミリアルドはどう捉えるだろうか。
この人物の性格を踏まえると……ただでは済まないだろう。
それを証明する様に、ミリアルドは怒りの形相を店員へと向けていた。
「お前もそんな奴の隣に居て大変だな? はっきり言って同情する。お前の為に言うがもっとマシな奴探せよ」
「いえ……そんな……」
マリアにも哀れみの声を掛けるケヴィン。
少なくともミリアルドと居る事で、彼女はこの先損する事ばかりな筈だ。
悲しそうな表情を見せながら俯くマリア。
恐らく彼女自身ではそれらを選択できる立ち位置に無いのだろう。
つまり彼女はミリアルドの……。
「貴様……もう許さぬぞ。我に中傷を重ねた挙句……『フィアンセ』のマリアまでも口説く始末……」
婚約者と言う事だ
先の言葉の何処に『口説き』があったのか理解し難いが、どうやらミリアルドも限界を超えた様だ。
異様に声を低くし、ケヴィンを睨みつけた。
にしてもフィアンセかとケヴィンは再び哀れみを感じる。
ケヴィンは女性の容姿に大した興味等持たないが、そうだとしてもマリアが普通よりは優れた見た目をしているのだろうと言う事は判断出来る。
マリアは下流貴族で有る事は明らかで、しかしそれでいて王族と関係が強いと噂をされるフィリス家の娘だ。
つまり二人の関係は『政略結婚』なのだ。
フィリス家は王族ゆかりの者となる為に。
ミリアルドは、最低限の位が有りかつ美しさを秘めた嫁を手に入れる為に。
あの高価な首飾りも、王家からの贈り物なのだろう。
だからこそ大切にし、大金を叩いてまで修繕を依頼していたのだ。
今日この日の付き添いにそれを着けて来る為に。
つまりこのままミリアルドが将来、アトランティス王を継ぐ事と成ればマリアは王妃と成る。
あくまで順当に言った場合の話ではあるが、確かにメリットは大きいのだろう。
下流貴族が王族の家系に入るとなると、その権力の差は段違いだ。
しかし、ケヴィンにとって権力等1Dの価値も感じていない為に、再びマリアに同情するに至った。
「貴様、名をなんと申す」
「ケヴィン・ベンティスカ。どうぞお見知りおきを」
わざとらしく貴族流の挨拶を真似して、綺麗なお辞儀を見せるケヴィン。
彼なりの挑発なのだ。
恐らくこの後の展開は『そう』なるだろうと予想をして。
「ケヴィンとやら、貴様に『決闘』を申し込む」
「そんな!? ミリアルド様!? お止めください!!」
ケヴィンは予想通りだと余裕の笑みを見せる。
しかしマリアは慌てている様だ。
無理もない、決闘とは時に死を決めるまで行われる事がある闘技だ。
決闘は人同士が単体、或いは複数で争い、持てる力の全てを使い雌雄を決する。
その勝敗によって、敗北した者は勝利した者の命令を一つ必ず聞かなければならない。
法律として認められており、決闘で命を奪うも奪わないも自由である。
名誉の為、復讐の為、己の強さを誇示する為、様々な理由で決闘は行われる。
決闘を申し込むには大義名分が必要であり、そう簡単には決闘を挑めない決まりもある。
これは強者が一方的に弱者を甚振る事を禁止する為だ。
挑まれた側は基本的に決闘を受けなければ成らないが、断る確かな理由が存在していれば、それが認められる事も多々あった。
「マリア、お前は優しいな……我に人殺しをして欲しくないと思って居るのだろう? 大丈夫だ、決闘はしっかりとした法の下で行われる儀式。我には一切の罪も与えられんよ」
「いえ、だとしても。この方は私の恩人です! どうにか……どうにか私に免じて怒りを抑えてくださいませ!!」
マリアは必死にミリアルドを宥めている様子。
そもそもが理不尽な要求である為ケヴィンは決闘を断る事が出来るのだが、暴言を言い放った事も事実。
こうなればケヴィンが断り切るのは難しい事だろう。
仮にも、相手は王族なのだから。
そうなる様に仕向けた……と言っても過言では無いのだが。
「ケヴィン、貴様のせいで我がマリアが余計な心配をしておるでは無いか。やはり貴様は生かしておけぬ。この決闘、受けたまえよ」
「あぁ、良いぜ」
「ケヴィン様!?」
二つ返事だ。
元よりそのつもりであった、ケヴィンはそれを了承した。
それに対し、マリアが声を荒げる。
「ケヴィン様、お止め下さいませ! ミリアルド様はこのお歳で既に『Bランク』の位を持っているのでございます……とてもではありませんが、一般の方が太刀打ち出来る程生半可な方ではありません!! 貴方様に非は無く、貴方様にご迷惑を掛けた身としては申し上げにくいのですが……どうかここは穏便に謝罪をされた方が賢明に思われます……この埋め合わせは必ず私がしますのでどうか……どうか……」
マリアは今にも泣きそうな表情をしている。
自分達が、ミリアルドがあまりに理不尽な発言をしていると言う事は彼女自身分かっているのだろう。
それを受け止めて更に謝罪を要求するなど、人のする事では無い。
自分が有り得ない発言をしているのは理解している様子で、その上でケヴィンに最善の案を促したのだろう。
この『Bランク』と言うのはギルド『月下無限天』に所属するギルドメンバーに与えられる『位』の事である。
魔導騎士団とは別の形で組織された魔導士ギルド。
国家から一般までの様々な依頼を仲介し、ギルド登録を行っているギルドメンバーへその依頼を斡旋し、任務を熟してもらう。
依頼内容は採集や配達から、護衛や魔物討伐依頼等幅広く行っている。
ギルドランクと言うものはギルドに登録している人々へ、その功績によって与えられる位。
依頼を数多く熟せば当たり前にその昇級スピードは速く成るが、上に行けば行く程にその昇級難易度は格段に難しくなる。
ギルドに登録した際に、皆が与えられるランクは『E』ランク。
ここから依頼を熟し、その功績によってD、C、B、A、Sと上がって行く。
それぞれ昇格する際には必要資格と試験の合格と言う二つの関門を突破しなければ成らない為に、資格は与えられていても試験を突破出来ずに下層ランクで低迷している人物は沢山いる。
ギルド員として一人前と呼ばれるランクが、中級モンスターの討伐依頼を複数人で受ける事が可能と判断される『C』ランク。
ミリアルドはその一つ上の『B』ランクなのだが、これは中級モンスターを単独で討伐する事が許されるランクなのだ。
下級の魔物でさえ力の無い者が対峙すれば一瞬にして死に至るこの世界で、中級モンスター討伐資格と言う物は明らかな強者の証。
強さのみで与えられるギルドランクでは無いが、強さが最も優先されるのは一目瞭然。
王族と言え権力でギルドランクを上げる事等は出来ない為、ミリアルドのランクは自分自身で勝ち取った物。
ミリアルドのこの自信は、自分の持つ権力と裏付けられた実力によって培われた物だった。
だがケヴィンにとって『そんな物』に興味は無い。
Bランクだろうが、Aランク、Sランクだろうが、そんな事『関係無い』のだ。
勿論ケヴィンは実力を証明する為のギルドランクは所持していない。
他人に決められた強さの評価等、ケヴィンは必要性を感じていないからだ。
「貴様のせいで我のマリアが悲しんでしまったでは無いか! もう許してはおけんぞ!!」
「おめでたい脳をしている奴だな……何度も同じ言葉繰り返すなよ、決闘は受けてやるって言ってるんだ。時間と場所を指定しろ、出来れば今日中にな」
「ふん、恐怖で頭が可笑しくなっていると見える。良いだろう、今から一時間後……ギルド支部『UNKNOWN』で待つ、そこで雌雄を決しよう」
「食事の時間を用意してくれるなんて優しい所があるじゃねぇか」
「その減らず口が悲鳴に変わる事を楽しみにしておるぞ」
「ケヴィン様……そんな……」
マリアはもう言葉が出てこない様だ。
自分の忠告も受け入れてもらえず、傍から見れば無謀にもケヴィンはミリアルドの果たし状を受け取った様に見える。
しかしケヴィン自身にも、確立された確かな自信が存在している。
負ける筈が無いと思い込んでいるミリアルドの、高々と伸びた鼻先をへし折ってやるぐらい訳無い事。
だがどうせなら……『腕力』では無くもっと別の方法で……ケヴィンはそう言った思考を脳内で繰り広げていた。
「行くぞマリア」
マリアの手を無理やり引き、後ろへと振り返るミリアルド。
「……あ奴が終われば、次は貴様の番だ」
そして、俯く店員に視線を向け、殺気の籠った声で言葉を綴った。
それだけで店員の顔は恐怖に染まり、膝から崩れ落ちると涙を流し始める。
「ふん」
それを無視し、ミリアルドは足早に店を後にして行く。
その後ろで、マリアはとても悲しそうな表情でケヴィンの事をいつまでも見つめていた、……見えなくなるまで。
「安心しろ、次は無い」
ケヴィンはそう店員に語りかける。
誰が見ても絶望的な状況なのに、この青年は一体どこからそんな自信が出てくるのだろうか。
とでも言いたそうな視線を、ケヴィンはその場に居た店員や他の客達から注がれていた。
ケヴィンはその後、運ばれていたオムライスの味をしっかりと確認した後……ミリアルドの元へと向かうのだった。
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