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幸せな夢の中で  作者: 月影朔夜


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9/18

本とスランプ

 湯呑を台所に持って行った。

 洗うのは面倒くさかったので、夕飯の時に一緒にしようと思う。


 事前に作っておいたシュークリームでも食べようかと冷蔵庫を開けた。

 だが、中には何も入っていない。


 仕方なく、皿に砂糖を出して、私室に戻った。


 鼻の奥に直接響く、青いインクの饐えた香り。

 それが、たまらなく心地いい。


 ペンを取ってインクに浸す。

 半分ほど吸ったのを確認し、その切っ先を原稿用紙にちょん、と置いた。


 『…海の寝覚めはまだ来ない。

  これが、私の最後の夢である。』


 原稿用紙を持ち上げて、椅子に深く背をつけ書きあがった文字を眺める。


 たったこれだけを書くのに五時間もかかってしまった。

 カーテンを開けると、外には夕暮れが広がっている。

 緑の木々に黒い影が差し、その背丈を不気味に伸ばし続けていた。


 完全なスランプだ。

 書こうと思っても情景一つ、思い浮かばない。


 原因は知っていた。

 小説の元である”夢”を見なくなったからだ。


 理由は分からない。

 だが、スランプを脱出しようと試行錯誤したのは覚えていた。

 そう、誰かに手紙を書いてみたり…。


 「手紙?」

 自分の口から飛び出たひょんな言葉に首を傾げる。

 思い返せば、誰かに手紙を書いた気がするがまったく思い出せない。


 そもそも、自分に手紙を書いて相談できるような友人はいたのだろうか。


 「いや…美波と別れてから…私にはもう…

  友達なんていないじゃないか…」


 大きな独り言で、自分を笑う。

 

 軽く適当に夕飯を済ませ、芸の足しにでもしようと、書斎の本棚へ向かった。

 純文学が好き、という理由だけで本棚の半分以上は文学書で埋まっているが、スランプ脱出のため最近の物も買うようにしていた。

 いわゆる、ライトノベル文学に、官能小説、芸能人のエッセイ本なんかも本棚には並んでいる。

 だが、今の気分ではどれも読む気にはなれなかった。


 目線を、軽い小説から純文学へ滑らしたあと、図鑑の方へと移る。

 そこに、一冊の本があった。


 ご丁寧に箱に入ったそれは、確か一年前。

 母親に連れられた最後の外出の時に、店員に押し付けられた例の本だった。


 「懐かしいな」

 最後に読んだのは一年前。

 夢を見始めてからは、なんとなく読む気が失せていた。


 手に取ると、触り心地の良い布の触感にの上に、並々ならぬ重さが伝わる。

 その場に座り込んでページをめくった。


 池のイラスト。中央に座る女。

 古い伝記。


 どれも読んだことのあるページだ。

 ここから先のページは全くの未知。


 私はスランプの足しにでもなればと、丁寧にページをめくった。



 



 

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