消えた友人
目が覚めた時、酷く体が重かった。
服は水を吸い込み、冷えたタイルの上で重力に伏している。
熱でもでたのか。
頭が重い。考えが纏まらない。
池。
池に行けば…秋葉に会えるだろうか。
私は水から打ちあがった水母のように全身を震わせながら、風呂へと飛び込んだ。
「待ってて秋葉。すぐに行くから」
声が水に溶けてゆく。
きっと、次に目を覚ませばあの池にたどり着いているだろう。
そんな淡い期待を抱きながら、私はたいして未練のないこの世界に別れを告げることにした。
「はっ……!!!」
息ができず、私は顔を上げる。
過換になりかけた息を整えながら風呂から顔を出す。
「どっ…して…」
服は先ほどより重く冷たくなっている。
意味が分からなかった。
秋葉のいる池に、行けると思ったのに。
なのに、私はただ、風呂で溺れていただけになっている。
「秋葉…」
古なじみの顔を思い出す。
細い目のせいで、何度か不良に間違われることもあったか、実際は虫も殺せぬような優しい男だった。
失くすには惜しい。
私は残った気力を振り絞り、震える足で立ち上がった。
濡れた服を脱ぎ捨てて、その辺にあったラフなものに着替える。
居間を通った時、秋葉の飲みかけの湯呑を見つけた。
やはり、彼はこの家にいたんだ。
すべて夢だと、雑に片づけてしまうのは見当違いも甚だしい。
もっと秋葉の痕跡がないかと、家中を走り回っていると、もっとも簡単な痕跡のことを思い出せた。
そうだ、黒いワゴン。
彼の車だ。
急いで外に出る。
「……車…ない…?」
家の前にあったはずの車が、忽然と消えている。
そのとたん、私の全身の力は抜けた。
なんだ。
やはり、車で出かけただけなのだ。
変に焦った自分を、空の向こうへ放り投げる。
車が止めやすいよう、地面に転がっていた石を、二つ、三つ、外へ放り出しておいた。
「それにしても…一言くらい声かけてくれたっていいのに…」
風が肌寒い。
半袖なんて着るものじゃなかった。
私はすぐに私室へと戻った。
長襦袢に腕を通し、上からいくつか薄いウールを羽織る。
帯を締めると、懐に愛用の万年室をさす。
着替えを終えると、猛烈にお腹が空いていることに気が付いた。
台所で、いくつか野菜を着ると、居間へ向かう。
そこに、湯呑が二つ置いてあることに気が付いた。
「あれ…?なんで湯呑二つも出てるの?」




