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幸せな夢の中で  作者: 月影朔夜


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7/14

白紙の手紙

 

 「ちょっと、冗談言わないでよ秋葉」

 私の声は掠れていた。

 喉奥に生暖かい唾が何度も込み上げてくる。


 手紙が白紙?

 そんなことあるはずがない。

 現に私は、しっかりと文字を読み込めている。


 「いやいや…冗談なんか言ってないって!

  というか…さくらには…文字が見えてるの…?」

 秋葉は手紙を振った。

 私が頷くと、秋葉は顔を真っ青にして、手紙を何度も読もうとしている。


 「ちょ、ちょっと…俺、顔洗ってくるわ…」

 やがて、秋葉は顔を抑えたまま居間を出て行った。


 私は、手紙を手に取る。

 何度読み返しても、文字は書かれているし文も読み取れる。


 もしかしたら、これも夢かもしれない。


 私は、一度、封筒に戻してみた。

 そして、私室へと戻る。

 本棚から箱を取り出し、一度閉まってみた。

 そして、居間へ戻る。


 秋葉がまだ戻ってこないことを確認してから、もういちど私室へと戻る。

 そして、手紙を取り出した。


 居間へ戻って、もう一度秋葉に開けてもらおうと、彼が来るのを待つことにした。


 だが、10分待っても秋葉は帰ってこない。

 洗面所へ様子を見に行くことにした。


 「秋葉ー?」


 声をかけても返事はない。

 シャワーの音が聞こえる。


 視線を向けると、風呂場のドアが閉まっていることに気が付いた。

 洗面所には畳まれた秋葉の服がある。


 「なんだ。お風呂入ってたんだ。

 そうなら、そうと声をかけてくれたらいいのに」


 私は、居間に戻った。


 一口、冷めたお茶を飲んだ時、ひどく塩辛くて私は自分の中に芽生えていた違和感を払拭しなければいけない気がして、すぐに洗面所へと戻った。


 「秋葉!!!」

 風呂のドアを開けて秋葉の名前を呼ぶ。


 ドアをつかむ手が震えていた。

 息が早くなる。

 自分の鼓動が流れ続けるシャワーよりも色濃く聞こえた。


 「秋葉……?」


 「秋葉…!!!!」


 「秋葉!!!!!」


 秋葉がいない。


 私の目は風呂へと向かった。

 風呂の水を溜めたのは二日前だ。

 入っているとは考えられない。


 けれど、開けるしか…ない。

 私は恐る恐る風呂ふたを取った。


 「秋葉……?」

 

 秋葉はいなかった。


 もしかしたら、私とすれ違いになって家を出て行ったのかもしれない。

 私はすぐに玄関へ向かおうとした。


 「…?」

 その時、風呂の水面に私の顔が映る。

 水面のそれは、ぐしゃり、と氷が溶けるようにどろどろに下へと落ちて行って一瞬の合間に消え去った。

 何事かと目を見張った次の瞬間。

 水面に、例の池が映った。

 それは畔から池を映している。池の中央には岩があり、女が座っていた。

 秋葉は畔に立っていた。

 何かにとり憑かれたように、秋葉はゆらゆらと水に足をつけ、歩き出す。


 「秋葉!?」


 「秋葉!!!待って!!!!」


 大声で呼びかけるが、秋葉の足が止まることはない。

 次第に水は深くなり、秋葉の膝まで到達した。


 「秋葉!!行っちゃだめだ!!!!」


 だが、私の声は届かない。


 秋葉はついに、中央の岩に到達した。


 女は秋葉に手を伸ばし、岩の上へと引き上げる。

 秋葉は女に抱き着いたかと、思うとその胸元へと突然顔を埋めた。

 女は拒否する様子もなく、ただ秋葉の背中を黙って撫でている。


 突如、女が足に力を込めて岩を蹴った。

 秋葉はバランスを崩し、背中から池に落ちてゆく。

 抱き着かれた女もまた、そのまま池へと落ちて行った。


 「秋葉!!!!!」

 耐えきれず、私は風呂の水に手を突っ込んだ。


 波紋が広がり、映像がぐらり、と乱れる。


 私は手を抜いた。濡れた腕を茫然と眺めながら、今の不可思議な現象を夢だったのではないかと、思い始めた。


 もう一度、風呂をのぞき込む。

 もうそこには、何も映っていなかった。


 上から降り注ぐシャワーの音が喧しい。

 私は暫くその場で何もできずに座り込んでいた。



 

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