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幸せな夢の中で  作者: 月影朔夜


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手紙の中身は?


 「死んだ!?」

 急ブレーキをかけて車が止まる。

 慣性に従って私の体もぐらんと大きく揺れた。


 「え。嘘だろ!?」

 急ブレーキをかけた張本人、秋葉が大きく目を見開いて私を見ている。


 「本当だよ。とはいっても手紙にそう書いてあっただけで、真偽は分からないけど」


 2か月前。

 丁度夢を見なくなったその日は、珍しく雨が降っていた。

 散歩に行こうと玄関を開けたが傘を取り出すのが億劫で家の中へと逆戻り。

 その時、郵便受けに白い便箋を見つけたのだ。


 「でも…」

 秋葉はまだ何か言いたそうにこちらを見ている。


 「私の元に秋葉を通さず手紙が来るなんて初めての事だったからね、つい興味本位で読んでみたんだ。

 そしたら、一文目に、『泉美波は死んだ』って書かれてたんだよ」


 「そんな…質の悪いいたずらじゃないのか?」


 「よく考えてよ秋葉。私の住所を知っているのは秋葉以外いないだろう?

 なのに、手紙が届くなんて可笑しいじゃないか」


 「それは…そうだ」


 「だから、私はこの家に直接手紙を届けにきたい人物がいた。と、そう考えた」


 「なるほど…その人物に心当たりは?」


 「さぁね」


 手紙はすべて読んでいない。

 美波が死んだなんて、そんな嘘を書いてくる手紙だ。

 だから、一文目以降はまだ読んでいないのだが、もし、夢を見なくなった原因が手紙に関係あるとしたら。

 躊躇っている場合ではないだろう。

 秋葉もいることだ。一緒に読んでもらいたい。


 車がゆっくりと走り出す。

 10分も走ったところで、家にたどり着いた。


 私は玄関を開けて秋葉を居間に通す。


 朝早くに、秋葉が迎えに来たおかげで、家中の襖は閉まっていた。

 どこか怪談話でも行われそうな畳の部屋に、秋葉は荷物を置くと、慣れた手つきで襖を開けてゆく。


 ついでに、家中の襖を開けてくれたら助かる、と心の中で念じつつ、私は私室へ向かった。


 「あった」

 本を仕舞う大きな硝子面本棚は、作家になった記念にと、秋葉が買ってくれたものだ。値段は言わなかったがおそらくそれなりにしたはずだろう。

 丁寧に引き戸を開ける。

 上から四番目に置いてあった木箱を取り出すと、蝶番を開く。


 そこには、あの日以降仕舞い続けてきた手紙が入っていた。

 黴の一つでも葺いているかと思、中々に綺麗なままである。



 居間に戻ると、室内に日光がさしていた。

 強い日差しに少し目を細めながら、ちゃぶ台に腰を据えた。


 「で、それが例の手紙?」

 台所でお茶を入れていたのだろう。

 秋葉がお盆を両手に戻ってくる。


 「そう。開くのはこれで二回目だね」

 私は秋葉に手紙を差し出した。


 「俺が開けるの?」

 

 「私は一度見てるからね」


 「分かった」

 お盆をちゃぶ台に置き、秋葉は手紙を受け取る。

 私は淹れたてのお茶を手に取ると、ゆっくり口に運んだ。


 「……??」

 秋葉が、便箋を開いて首を傾げている。

 何度も何度も、それこそ信じられないものを見たかのように眉間を寄せていた。


 「どうかした?」


 「あ、いや…さ」

 

 言いづらそうに、彼は私に便箋を見せてきた。


 黒いインクが横いっぱいに並んでいる。

 一文目を私は追った。


 『泉美波は死んだ。』


 確かにあの頃と何も変わらない文字列だ。

 秋葉が紙いっぱいを広げて見せてきたので、嫌でも次の文字に目が言った。


 『夢の中で、泉美波は待っている。』 


 『春宮櫻を待っている。』


 『彼女の純粋な心を、覚えているのなら。』


 『春宮櫻は、夢の世界に向かわなければならない。』


 『期限が過ぎれば、もう二度と会えなくなる。』


 机に、茶飲みを置いた。

 嫌な汗で、掌が湿っかえっている。

 どういうことだ。

 これは、ただの手紙なんじゃ…。



 確かに、私は夢で女を待っていた。

 もし、それが本当だというのなら、私は夢の中で死者を待っていたということになる。


 つまり、夢を見なくなったのは…。

 美波に会える期限を過ぎてしまったから。


 嫌な想像で、背筋に冷たい汗が落ちた。

 だが、すぐに首を振る。

 そんな馬鹿な話。あるわけがないだろう。


 「さくら、さ」

 ふいに秋葉が深刻そうに声を出した。

 私は顔を上げる。

 この気持ちを、すぐに秋葉にも共有したかった。


 「この手紙…いや、この白紙。

  何も書かれてないよ?」


 「え…?」


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