手紙
「手紙?」
秋葉が首を傾げる。
「そう。まだ読んでないんだけどね」
「読んでないんかい!」
ずこっとこちらに飛んできた手を避けて、私は頷いた。
「いや、正確に言うと少しだけ読んださ。でも…」
私はそこで言葉に詰まる。
本当に言っていいのか、分からない。
「え、ここまで来て話してくれないわけ?いいじゃん。教えてよ」
肘でこちらをつついてくる秋葉。
この様子だと、彼はまだ知らないのだろう。
「でも…」
私はマスターのいるであろうカウンターへと目を向けた。
「…分かった。そういうことね。じゃあ、さくらの家に行くか」
秋葉は、私の言いたいことを察したのか、席を立つとカウンターの奥へすみません~と声をかけた。
「ごめん」
「なに謝ってるのさ」
「だって。奢ってもらっちゃったし」
「そんな小さいこと気にしてたわけ?結局俺が食べたから気にすんなって」
言われてみると、確かに珈琲もシュークリームも秋葉が食べつくしていたではないか。
本人もいいと言っているし、この話は終わりにしよう。
私は聞こえないほど小さな声でごめん、と謝ってから歩き出した。
私の家は山中にある。
人混みがどうしても苦手で滅多なことではこうして街に降りてくることはない。
いや、私は車を持っておらず山から出られないといった方が正しいだろう。
秋葉の黒い軽ワゴンに乗り込む。
シートベルトを着けると、車は低いエンジン音を響かせ走り出した。
20分ほど県道を進んだ後、林道に入る。
車も次第に姿を消してきて、私はそろそろいいかと秋葉に声をかけた。
「秋葉。美波のこと、覚えてる?」
「美波?」
秋葉はしばらく首をひねっていたが、暫くすると、あぁ、と大きく頷いた。
「小、中、高まで一緒だったあの子だよね?
確か、すっごい髪が長くて綺麗な子」
「そう。よく三人で遊んでたよ。ほら、地元の裏山にある神社でさ、秋葉、アイス溢して、美波の髪にかけちゃったじゃん。その時の美波何したと思う?」
「「ハサミで切り出した」」
二人の声がハモる。
「いやぁ。まじで焦ったよねあの時」
「本当だよ。あの綺麗な髪をさ、ぽけっとから取り出した鋏で躊躇なく切り出したんだもの。
今になって考えたら、近くの川で洗ったら?って提案すればよかったね」
「あー!あったわ。そんなこと」
けらけら、と秋葉が豪快に笑う。
「懐かしー!そういや、美波って俺らと大学違ったよな?今何してるんだっけ?」
「大学は確か行ってないよ」
「え、じゃあ就職?」
「ううん。家の事を継ぐって、確か家に帰ったんだ」
「家の事…?あぁ!そういえば、なんかそんなこと話してたな。確か、俺らの学校に来てたのも実家の言いつけ…みたいなこと話してたし」
「そう。だから、今は多分…家にいるはずだったんだ」
私の声が低くなったことに気づいたのか、秋葉が心配そうに一瞬、ちらりとこちらに視線を寄せたのが分かった。
このまま隠していても仕方がない。
夢が見れず、小説が書けないままで、私を人間にしてくれた秋葉に迷惑をかけたくない。
私は意を決し、口を開けた。
深呼吸を繰り返し、目を閉じる。
「秋葉。その美波なんだけど…」
「死んだ…らしい」




