表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せな夢の中で  作者: 月影朔夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/14

喫茶店にて


 「というところで目が覚めるんだ」

 私は、初めて夢を見た日のことを、つらつらと秋葉に語って聞かせた。


 話しの途中、瞬きの回数が多かった秋葉だが、

 冷えたグラスの水を飲み干してすっかり眠気は冷めたらしい。


 「そんなにつまらない?私の話は?というか、秋葉が聞きたいって言ったよね?」

 私は少し口を膨らませ、秋葉に聞いてみる。

 彼はいやぁ、と半笑いした後、ぽりぽりと頭をかいた。


 「つまらないっていうよりね。さくらの声ってなんか異様に眠くなるんだよなぁ。あの~、学生時代の国語の朗読CDみたいな感じ」


 「そう?」


 「そうそう。だから聞いてて心地よくてさ…。あ、でも大丈夫!ちゃんと内容は理解してたから!」


 「で、その本が原因で夢を見始めたってことだよね?」


 「うん。その日以降、毎日夢を見てたんだ。最初の2か月くらいはずっと岩に座って、絵の人魚よろしく、綺麗に足を閉じて座ってるだけだった」


 「なんか、想像できるわ。さくら綺麗だしね」


 秋葉の言葉はスルーすることにした。

 彼の”綺麗”は、道端のシロツメクサに抱くきれいと同じほど軽いのだ。


 「岩に座ってる間は動けなかったんだけど、そのうち動けるようになって、池の畔に行けるようになったんだ」


 「畔…ねぇ。え、泳いでったの!?

  あの水泳大嫌いなさくらが!?」

 秋葉が大声で叫んだ。

 カウンターの奥の暖簾からマスターがちらりと覗いてくる。

 私は身振りで謝った。


 「うるさいよ秋葉」


 「ごめん…」

 柄にもなくしおらしくなる秋葉。

 私はやれやれ、と机の水を手に取った。


 「何も泳いだわけじゃないよ。水の上を歩けたの。まぁ、夢だから、だとは思うけど」


 「あ、そっか。これ夢の話か。なんかさくらが言うと現実味があるから忘れてた」


 「内容的に現実味はないでしょ。

  それで、最近、2か月くらい前かな。それまでは海にいたの」


 「海?」


 「そう。とっても暗い海。生き物が絶滅した後、みたいな酷い海だよ。

 夢は池の畔で始まって、自分の影をぼんやり見ているうちに、そこについてるんだ」


 私は一口水を飲む。


 「で、私はそこで、女を待ってるの」


 「女?え、誰?恋人とか?」


 「そんな大層な人はいないよ。そうだね…ただ、分からない」

 私はグラスを置いて、目を伏せた。


 「分からない?」


 「うん。誰か分からないんだ。

  私は名前も見た目も分からないのに、女を待っていると、確信を持っているんだ」

 目を閉じる。

 夢を思い返してみる。

 暗い海の砂浜。灰色に染まった砂の上で、私は濁った海を見ながら女を待っている。

 絶対に来る、そんな確信はあるのに、女が誰だか、まるで分からない。


 「それは…また変な夢だこと」

 目を開けると、秋葉が頬杖をついて、首をかしげていた。


 「でもさ。それがさくらの小説にインスパイアを与えてるんだから、編集的にはもっと夢を見てほしいんだけど…」

 ちらり、と窺うような視線。

 私は静かに首を振った。


 「夢を…見なくなったんだよね…?」

 躊躇った後、秋葉が言う。


 「理由…分からないだよね?」

 私はうんとも言えず口を閉ざした。

 

 一年だ。

 ほぼ一年毎日見ていた夢が、突然途切れた原因は。


 それは。


 「あ」

 突如、脳内にある一つの手紙が浮かび上がる。

 もしかしたら、それが。

 原因、なのかもしれない。


 「どうしたの?さくら」

 心配そうに眉を顰める秋葉に、私は覚悟を決めて口を開いた。


 「手紙が、来たんだ」

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
誰からの手紙でしょうか? とても気になります。 池の夢も。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ