喫茶店にて
目を覚ます。
嫌な汗を書いていた。
下に敷いていた腕はぐっしょりを濡れ、服が重たくなっている。
すぐに別の着物に袖を通した。
夏物しか残っておらず、少しばかり肌寒いが、ほかに着るものもない。
気分転換でもしようと、玄関に向かった矢先、チャイムが鳴った。
「…誰ですか?」
扉越しに声をかける。
「あ、さくら先生?僕です。徳田です」
すぐに返事があった。
徳田。自分の担当編集者だ。
玄関を開けると、自分より踵一つ分ほど背の高い彼が立っていた。
人当たりのよい笑顔を浮かべて、手には茶封筒を持っている。
「今日、来る予定あったっけ?」
「いえ、今日は無かったんですが…
最近、さくら先生が悩んでいらっしゃると聞いて…。
つい様子を見に来ちゃいました…」
「あぁ、そう」
私は彼にスランプについて話をしたことがあっただろうか?
それとも、虫の知らせのように彼の元に予感が走ったのだろうか?
首をひねっていれば、彼がそっと車の方を指さした。
「先生。よければ、喫茶店にでも行きませんか?」
気分転換はしたかった。
断る理由などなく、私は徳田の車に乗り込んだ。
カラリ、とベルの音がなり、マスターがこちらへ顔を向けた。
低い声でいらっしゃいと告げ、徳田が適当に席につく。
私は反対側に座った。
「先生は何か頼まれますか?」
メニューを見ていた徳田が、こちらに目を向けた。
私は珈琲で、とだけ告げる。
徳田がマスターを呼び、珈琲とホットケーキを頼んだ。
「それで…よく、私はスランプだってわかったね」
注文も落ち着いたころ、私はそう聞いてみた。
彼は水の入ったグラスを喉元あたりで止めて、瞬きを繰り返す。
「え?」
「ん?」
「先生…もしかして忘れちゃったんですか?」
彼は慌てたように身を乗り出した。
「何を?」
「手紙ですよ。手紙」
「手紙?」
そんなもの…私は書いていただろうか。
書いていたとして。私はそれを彼に送ったことがあっただろうか?
呆けている私に気が付いたのか、徳田は鞄の中から一通の手紙を取り出した。
手を伸ばす。
徳田颯様へ と書かれた文字は、確かに私の筆跡だ。
だが、こんなもの、いつ書いたのだろう。
「これですよ。昨日届いたんです。
なんでもシナリオの元である小説を見なくなってしまったと。
だから僕、居てもたってもいられなくて今日来ちゃったんです」
「夢……夢…か」
繰り返し呟く中で、そういえば今日眠っていた理由も夢であることを思い出した。
あの図鑑らしき本を読めば、スランプを脱出できると、そう思って。
その日はそれしか行動していない。
街に降りて手紙を出した覚えもない。
というよりも…ここ一週間ばかり家から出ていない。
だからこそ、ある疑問が頭の中を駆け巡る。
ーー私は一体…いつ手紙を送ったというのだ?
私は、ニコニコとこちらを見つめる徳田、という編集者に疑問の目を向けることしか出来なかった。




