表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せな夢の中で  作者: 月影朔夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/17

畔と海


 溺れた、という言葉は私の頭の中にはまるっきり無かった。

 むしろ、水に溶けるような心地よい感触があった。


 目を開ける。

 そこは、夢の中だった。

 久しぶりに、夢に戻ってこれたのだ。


 これで、続きが書ける。

 やはり、あの本は夢を見るための道具だったのだ。


 だが、ぐらりと景色が変わった時、私は海と砂浜の間に立っていた。


 いつもの池ではない。

 岩に座っているわけでもない。


 海にいた。

 鉛を溶かしたような暗い海には、灰色のどんよりとした雲がかかっている。

 美しいであろう砂も本来の色をすっかり失い、見ているだけで不安になった。


 「……美波…」

 口をついて出た言葉に、私はたいして驚きもしなかった。


 なぜかここに美波がいる気がしたのだ。

 艶やかな美波には似つかわしくないこの不条理な海に、美波が濡羽の髪を透かして泳いでいるような、そんな気すら沸いてくる。


 私は少し散歩してみることにした。

 ふいに、美波ー、と声を出してみる。

 

 返事はない。


 私はそのたび、方向を変えて色んな場所を歩き回った。


 

 面白いことに、疲れる、という感覚が無かった。

 歩けば歩くほど、足は軽くなり、どこまでも歩んでいけるような気がする。

 だが、あまり海から離れるわけにはいかない。

 

 細長い円を描くように何度も砂浜を歩いていると、その遠くで人影を見つけた。


 長い髪のシルエットだった。

 手足は棒のように細いが、しっかりと地に足つけて立っている。


 私は最初、美波かと思って駆け寄ろうとした。

 だが、すぐに足は止まる。


 それは見ず知らずの女だった。

 垂れ目がちな瞳は黒く濁り、白目がない。

 真っ赤にひび割れた口元は、閉じる力もないのか半開きになっていた。

 

 張のあったであろう肌はただれ、水分を多く含みすぎた海月のように弛んでいる。


 「……見つけた」

 突然、女がそういった。


 「見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。」

 

 「見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。」


 覇気のない声で女は繰り返す。

 

 私は一歩後ろに下がった。

 今度は女が一歩進んだ。


 自然と頬が引き攣る。

 冗談じゃない。

 私はこんな女など、知らない。


 意を決して、女に背を向け、走り出した。

 すぐ後ろから女の覇気のない声が聞こえ続ける。


 私は決して振り返ることなくただ、砂浜をまっすぐに走り続けた。


 どれだけ走っただろう。

 次第に、肺あたりがひどく痛んできた。

 息がうまく吸えない。

 私は膝から崩れるように、砂浜に伏せた。


 細かい粒が口の中に入ってじゃりじゃり音を立てている。

 咳き込みながら吐き出すが、吐いても吐いても、砂はずっと口内に入ってきた。


 諦めて、肘をついて立ち上がった。

 後ろを向くが、女は追ってきていないようだ。


 安心からか、今度は背中から力がぬけた。

 そのまま砂の上に倒れこむ。


 黒い雲を眺めながら、息を整えようと静かに目を閉じた。


 「みーつけた」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ