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幸せな夢の中で  作者: 月影朔夜


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10/14

『池と海』


 古い漢字が並んでいる。

 なんだか、気疲れしそうだ。

 だが、まぁ、これしか読む本もない。


 冒頭のことなど、すっかり忘れてしまっていたから、『池』という項目のページにさらっと目を通す。


 そうだ。

 亭主を殺した女が池に飛び込むと、そこは知らない場所だった。

 うん。確かにそんな話だった。


 確かに私も、このページを読んでからこの女と同じように夢を見始めた。

 もし、この本の先が、私が見るべき夢の続きなのならば。


 私は、軽く息を吐いてから続きを読むことにした。


 

 福森に抱き着いて涙を流した女は、その両手をさらに強く自分へと引き寄せた。


 どうして。どうして。なんでわたしを裏切ったのか。

 殺してしまってごめんなさい。一人にしてしまってごめんなさい。

 酷い人。私も酷い人。


 女の心はぐちゃぐちゃになっていた。

 でも、すぐに考える。

 この夢のような池ならば、福森とずっと二人で生きていけるのではないか、と。


 女は腕の中で何も言わない福森に一つ青い色を落とす。

 そして、池の中に飛び込んだ。

 

 池の水は温かかった。

 風呂よりずっと温度は低いが、春の日差しのように心地よい。


 透き通る水はどこまでも深く全身を包み込んでまるで、命の温かみを全て洗い流してくれる。


 この池は、きっと福森との新たな旅路なのだ。

 女は有無も言わない福森を強く強く抱きしめる。


 幸せになりましょう。

 私は、もう貴方を許しております。


 何度も何度も福森に語り掛けているうちに、福森はようやく目を開いた。


 そして、女のすぐ耳元で福森が囁く。


 『ぼくも、愛してる』



 こうして、女は池の中で未来永劫幸せに暮らしたとされている。


 この伝承はのちに、池に身を投げると夢が叶うと噂され、数多くの女たちが身投げしたとされている。

 徳田の家は何も言わないが、この池には今も数多くの人骨が眠っていることだろう。


 伝承によれば、それはそれはとても美しい池だったとされることから、女たちはみな、死への恐怖というものが無かったらしい。どちらかといえば、美しい夢を見られるスクリーンに飛び込む、そんな感覚に近い。

 

 私はそこで、ページを閉じた。

 閉じたというよりも、手から本が離れたという表現に近かいだろう。


 私は気づけば目を閉じて、ぼんやりと落ちゆく視界の中で、水に落ちる景色を見ていた。

 


 


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