3.虹は幻覚じゃないのか?
なんだかんだと文句を言いながら、その後も更にあれこれ試しているうちに、この虹がスマホなどで撮影できないことが分かった。
そのときに、ふと気づいた。
「この虹って実は俺の幻覚だったりする?『幻覚じゃない』って確かめるの難しいんじゃね?」
撮影できたのなら、それをネットにアップして反響をみれば、この虹が俺の幻覚か、実際に発生しているものか確認もできるだろう。
しかし、そもそも俺の目で見ても撮影した画像に虹が写っていないのだ。こんなもんをアップしても仕方ない。
会社の同僚の前で虹を出して見せるとかは?
その場合、虹が相手に見えなければ
「お前何やってんの?」
と言われるくらいで済むが、もし相手にも見えてしまったらそれは『幻覚じゃない』根拠にはなるが、同時に非常に面倒なことになる気がする。
1回や2回は『手品』で誤魔化せるかもしれんが、話が広まって何度も見せれば怪しまれるだろう。
かといって、俺の性格上、見せてくれと頼まれると断りにくい。
最悪、実験動物としての未来に足を踏み込むことになりかねん。
「どうしたもんかね、こりゃ」
行き詰まりのこの状況に俺はぼやくしかなかった。
◇◆◇
虹の出現が俺の幻覚かもしれないことに気付いた数日後の休日、俺はアパートからちょっと離れたコンビニに買い物に行った。
近所のコンビニで売り切れていたスイーツがどうしても食いたくなってちょっと足を伸ばしたのだ。
その帰りに近道のため、ちょっと大きな公園内を横切っていた。
昼近くのこの時間帯、1~2歳くらいの小さな子供たちを乳母車に乗せたり、抱っこしたりしているお母さん達が数人固まってお喋りしているのが目に入る。ママ友の集まりだろうか。
その子供の一人がちょっとぐずりだして、お母さんがあやし始めた。
そこで俺は閃いた。
(ん?この状況って、虹が幻覚かどうか確認するのにちょうどいいシチュエーションじゃないか?『ぐずった子どもをあやすためにちょっとした手品を披露しました』っていうていで虹を出して反応を見てみるってのはどうだ?)
幸い今この辺に俺の知り合いはいないようだし、もし虹が皆に見えたらしばらくこの周辺には近寄らないようにしとけば、面倒ごとが起きる確率は低いだろう。
少なくとも会社の同僚に見せるよりはずっと安全なはずだ。
そこまで考えた俺は、ママ友の集まりに向かって虹を出し、そこから斜め後ろに1歩下がった。
子供たちの反応は劇的だった。奇声を上げたり、手足をバタつかせたり。
さっきまでぐずっていた子もポカンとした顔をしていた。
その子供たちの視線は俺ではなく、明らかに虹に向かっていた。
一方、お母さん方には虹は見えないらしく、俺に向かって軽く会釈してきたりしている。『この子たち、知らない人を見て驚いたのかな?』というくらいの感じなのだろう。
子供でも小学生くらいになると見えないらしく、少し離れてボール遊びをしている子供たちは、こちらに顔を向けても虹に気付いた様子はない。
(これで少なくとも虹は俺の幻覚じゃないことは分かったし、会話もおぼつかない乳幼児にしか見えないなら、変に噂になることもないだろう。)
そう胸をなでおろして、何気なく俺が入ってきた公園の入り口の方を見る。
そこには俺と同様、近道のため公園を横切ろうとしたのであろう、南方アジア系らしき女性がエコバッグを下げて一人立っていた。年齢は俺と同じくらいだろうか。
彼女は目を見開いて俺と虹を交互に見ている。
(えっ!?あれって絶対見えてるよな!?)
俺が狼狽している間に虹が消えた。
すると、彼女は右の人差し指を俺に向かって突き出し何か唱えた。
彼女の指先を中心に幅50センチ程の虹が現れる。
(って、ええっ!!この娘も出せるの!?でも何で……)