『力が……力が欲しいか……』「ああ、力が欲しい! そのためには何を代償にすればいい!?」『今後お前のクレジットカードの支払いは全てリボ払いになる』
「どうした、もう終わりか勇者達よ」
「くそ……! まさか邪竜の力がここまで圧倒的なものだとは……! もはやこれまでなのか……!?」
俺の名はユート。神に選ばれし勇者だ。
この世界に平和をもたらすために、邪悪なる存在と戦いながら日々冒険している。
「ユート! 諦めちゃダメだ、何か必ず活路があるはずだ!」
「そうよ! 今までだってこんなピンチ何回も乗り越えてきたじゃない!」
邪竜の巨大な力を目の前にしてなお、こんな危険な冒険を共にしてくれている仲間達がくじけそうな俺の心を鼓舞してくれている。
だが、今度ばかりは俺の力の全てを出し切ってもダメだった。
俺の必殺技スーパーソニックブレードも最後の切り札ビッグバンエクスプロージョンもこの邪竜には全く効かなかったんだ……。
俺は無力だ……世界や……愛する仲間すらも守れないのか……。
『力が……力が欲しいか……?』
「!? 誰だ!?」
全てが絶望的な状況の中、突然頭に響いてきた声に対して俺は思わず叫ぶ。
『我は願いを司るデーモン……。我が契約に従うというのであれば、お前に力を授けよう……』
「力……力だと……? 欲しいさ……仲間を……この美しい世界を守れる力が……!」
そうだ。世界のためにも、俺には力が必要なんだ……!
「ユート、ダメだ! 悪魔の囁きに耳を貸してはいけない!」
一方の仲間達にもこの声は聞こえているようで、俺が誘惑に負けないよう必死に踏み留めてくれている。
だがすまない。
俺はお前達を……そしてこの世界を守るためなら、悪魔とだって契約してみせる!
「いいだろう! デーモンよ、力をくれるというのなら、俺の魂を持っていくがいい!」
『いや……。最近はコンプライアンスとかの問題で、魂とかはちょっと手を出せなくなっていてな……。別のものになっているのだ……』
え?
そうなの?
「じゃ……じゃあ聞くけど、魂じゃなければ何を要求する気だ!?」
『そうだな……。今回の危機を乗り越える程の力となると、今後お前のクレジットカードの支払いが全てリボ払いになるという代償でどうだろうか?』
……。
「リボ払い……か……」
「悩むなユート! 絶対に首を縦に振っちゃダメだその代償は!! 身の破滅だぞ!!」
仲間達が再び俺が誘惑に負けないよう叫んでくれている。
いやしかし、リボ払いか……。
魂とかよりは余程マシなのではないだろうか。
「えーと質問なんだが、例えばリボ払いの月額支払い金額を百万円とかにすることはできるか?」
『流石にそれでは代償にならぬであろう。五千円固定だ』
「五千円かー……うーん……」
「ユート、ダメだって絶対に! パソコンとか買えなくなっちゃうよ!?」
確かに仲間達の言うとおりクレジットカードでパソコンが買えなくなるのは痛い。
いや、買えはするけど五千円を一生払い続けることになりそうだ。
それは流石に辛いか。
『リボ払いが嫌なら他の代償もある。……そうだな、朝のゴミ回収が二回に一回間に合わなくなるという代償もあるぞ』
「ゴミ回収かぁ……」
ゴミ回収が半分間に合わないくらいなら、まあなんとかなりそうな感じもあるな。
「いや、待ってよユート! 正直それもかなりきついよ! 下手したら生ゴミが一週間以上ずっと家にあることになるんだよ!? そんな生活、私なら絶対耐えられない!!」
あ―確かに。
しかし仲間達はそう言ってくれているが、そもそも俺、結構ゴミ出し忘れるからそういう生活は慣れてるんだよなぁ。
だから大丈夫な気もするけど、そんなただれた生活の中でゴミを出せる機会が更に半減するのは逆に辛いか。
「あ、そうだ。その代償を選んで、二十四時間ゴミ出しができるマンションに住むっていうのはオーケー?」
『ダメだ。というか、基本的にそういった抜け道系は無しだと考えて貰いたい。そうでないと代償の意味がなかろう』
そっかあ、そうだよなあ。
それじゃあちょっと保留かなあ。
「すまない、思いのほか悩んでしまうなこういうのは」
『うむ、人生を左右する選択なのでゆっくり考えるがよい』
そういえば邪竜はどうなっているのかと思ってそっちの方をチラ見してみたが、どうやらおやつの時間に入っているようだった。
それならまあもう少し悩んでもいいか。
「うーん、もう少し何かないか? 例えば、twitterで今後一切RTされなくなるとか」
『元からRTされない奴が何を言っているんだ。ダメに決まっておろう』
それを言われると俺の立つ瀬がない。
『あとは小説家になろうや各種小説投稿サイトで、一生ランキングに入れなくなるといったものもあるがどうだ?』
ええー。
いや、それはちょっとー。
冒険しながら書いてる今の作品があと少しでランキング載りそうなんだよなぁ……。
「だったら、リボ払いかゴミ捨てかなあ……」
その中だったらゴミ出しだろうか?
リボ払いよりは人生に影響なさそうだろうし。
そう思い俺が朝のゴミ回収が二回に一回間に合わなくなるという代償を選ぼうとしたところで、何を思ったのか仲間達が俺のことを止めにかかる。
「そんな選択肢、一生ランキングに入れなくなる一択だろ!? どうせランキングなんか入れないんだから、それにしとけ!」
「そうよ! リボ払いやゴミ出しよりはよっぽどマシよ!」
は!? ふざけんな! 入るが!?
あと少しで現実恋愛の日間に入れそうなんだが!?
『ところで我も多忙でな。先程ゆっくり決めよと言っておいてなんだが、そろそろ決定してはくれぬか』
「「小説投稿サイトで、一生ランキングに入れなくなるでお願いします!!」」
デーモンの言葉に対して、俺が何か言う前に仲間達の声がハモる。
『よかろう。それでは小説投稿サイトで一生ランキングに入れなくなることを代償に、勇者ユートに力を授けよう』
「い、いやちょっと待て! 待ってくれ!! 俺はその代償全然納得していないんだが!?」
しかし俺の叫び声も虚しく、デーモンは俺達の前から姿を消す。
と同時に、俺の体の奥底から溢れんばかりの力が湧き上がってくるのを感じた。
「嘘……だろ……」
確かに途方もない力だ。
これなら目の前の邪竜はおろか、身勝手な神々ですらあっさりと倒せそうな気がする。
だが……だがしかし……その代償は余りにも大きい……。
大きすぎた……。
「ふはははは勇者達よ、悪いが戦いの最中にちょうどおやつの時間になってしまって、待たせてしまったようだ。どれ、この吾輩の力でお前達を血祭りにあげようぞ!」
「なにが……なーにがおやつの時間だ……。なーーーにが血祭りだこのトカゲ野郎ーーー!!」
怒りと共に放った俺のスーパーソニックブレードは、先程は一切効かなかったのにも関わらず邪竜を真っ二つに斬り裂いた。
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こうして力を手に入れた俺と仲間達は世界を旅し、数々の邪悪を退けて世界に平和をもたらした英雄となった。
別にあの時のことで仲間達を恨んではいない。
確かにリボ払いやゴミ出しよりはマシな選択をしたのだろうし、むしろあいつらのお陰で変な道に行かずに済んだとも思っている。
ただ、あの時以来どうにも埋めることのできない溝が俺の中に出来てしまい、全ての邪悪を倒した後すぐにパーティを解散して俺は一人になることを選んだ。
どうせあいつらパーティ解散した後すぐに付き合い始めて乳繰り合ってるんだろうし。
はぁ……。
で、肝心の俺だが今では大地を割れる程の力と僅かな報奨金を持て余しながらひっそりと執筆活動を続けている。
世界を救った勇者という看板を掲げて自伝や創作物の出版を持ちかけたりもしたのだが、誰に言っても「そういうのはいいので」と言われてと断られてしまった。
というわけで、今では毎日午後五時くらいにラブコメを投稿しながら、決して入ることのないランキング入りと書籍化を日々夢見続けている。
君がランク入りできないのはデーモンのせい。