明日死ぬ男の死に方
不倫、ギャンブル、借金、喧嘩暴力、警察沙汰。
俺は決して、良い夫では無かっただろう。
その自覚はある。
俺は今までの悪行詫びて、明日、死ぬことにした。
そのことを妻に告げると、「そっかぁ……」と言っただけで否定も肯定もしなかった。
妻にはたくさんの迷惑をかけた。
でも、今まで、離婚したいと言われたことは無かった。
本当は離婚したかったのだろうけど。
最後の晩餐として、好きな食べ物。
旅館の朝食のような定食を出してくれた。
見た目からして、明日死ぬ男には相応しくない、栄養バランスの取れた健康的な食事。
「あなた、昔からこういうの好きだったわよね」
「そうだな」
結局、妻の飯が一番おいしかった。
どんな高級な店の料理よりもよっぽど口に合う。
「美味しいよ。しばらく食べてなかったから、余計にそう感じるよ」
「よかった」
妻は褒められて、笑顔になる。
この笑顔が好きだった。
もっとこんな時間をたくさん過ごしてくればよかった。
これが、妻と過ごす最後の時間だ。
色々と遊びほうけたが、この時間が好きだった。
でも、けじめとして、決めたのだ。
自分は明日、死なないといけない。
「今まで、本当にありがとう」と言おうとしたが、喉が焼けるように痛い。
声が出なかった。「最後に、久しぶりに、セックスしよう」と、言おうとしても、同じだった。
な、何が起こった。
全身が熱くて痛い。
「く、ぐっ、がぁ、が」
苦しい。
俺は呻き声を上げて、その場に崩れ落ちる。
身体が痺れて力が入らない。
妻がこちらに駆け寄ってくれる。
助けてくれるのか。
その顔には、さっきの優しい笑みはなく、感情が無かった。
「何それ? あんたのその顔? 今、セックスしようって言おうとしたでしょ。あんたいっつも言う前に顔でわかるから、冷めるんだよね」
後頭部に痛みが走る。
思いっきり、脚の裏で踏みつけられていた。
何をする?
「バッカじゃない? お前なんかに明日死なせる訳ないじゃん」
脇腹を蹴り上げられる。
息ができない。
「どんだけ迷惑かけてきたんだよっ! 今更、旦那面して良い思い出残して死のうなんて、許される訳ないじゃんっ!」
妻の叫びは胸に響く。
心が身体が、耐え難い、痛みに襲われる。
「あんたは最低の糞みたいな旦那だった。……あんたのせいで、私の人生台無しなんだよ」
す、すまないと思っている。
声を出そうとしたが、出なかった。
「今更謝ったって、どうにもならないのよ」
な、なんで、どうして。
俺は明日死のうとしているんだぞ
「死んだら、全てが無かったことになるなんて思わないで……」
妻の声がさらに冷えていく。
「今、死んでくれる? あんたが明日まで生きていることなんて、許せないから」
なんとか身体を動かし妻を見上げると、手に包丁を持っていた。
「出来るだけ、苦しんで死んで」




