王太子は不幸体質な公爵令嬢とハプニングを楽しみたい
ストレス軽減に読書は良いらしいです。
ファウスト王立学院は、王族や上位貴族が通う伝統ある特権学院である。
学院に通う間は、王家も貴族も序列に基づく区別はされるが、「等しく生徒である」という認識を示している全寮制の学院だ。生徒たちは二年間、基礎知識や魔法学を勉強し、また社交性や礼儀作法を身に付ける。恥ずかしくない貴族として、王国に貢献するために。
その学院内の薔薇庭園で、ルイス・キャロ・ヴェイン王太子とローズ・マインベルク伯爵令嬢は、並んでベンチに腰かけていた。
ルイスは金髪碧眼の容姿で、小説の中から出てきたような典型的な王太子。眉目秀麗だけでなく、思慮深く温厚な性格で、生徒たちに人気な王太子だった。
一方、ローズ伯爵令嬢は淡い水色のゆるふわ髪で、薔薇のように華がある女性だ。どこにいてもその煌びやかな容姿は目立ち、彼女のファンクラブまであると言われている。
そんな二人が並んで座る姿は、とても絵になった。
「ルイス様、先日アリシア様とお話しましたわ。そうしたら、アリシア様が私に水魔法で悪戯を……。制服が濡れてしまったため、授業に遅れてしまいました」
ローズは俯きながら話し始めたが、それに対するルイスの返答はずいぶん時間がかかった。
「……アリシアが? それは本当か?」
「ええ、他にも婚約者としての立場を利用して、色々な悪戯をしてきます。私が悲しむ姿を見て、薄笑いすることも……」
「にわかには信じられないが……。アリシアにも話を聞いて、判断するとしよう」
「ありがとうございます。差し出がましいことを言いますが、アリシア様は婚約者としてルイス様に相応しいとは思えません。嘘だと思うなら、一度調べてください。きっと証拠が出てきますわ」
ルイスが次の言葉を発する前に、ローズはさめざめと泣き始めた。
ローズは溢れてくる涙を自分の小さな手でそっと拭うが、涙は止まらない。ぎゅっと奥底へ押し込んでいた気持ちが溢れ出てしまったのだろう。はしたない姿を晒してしまったことに戸惑いながらも、助けて欲しいと縋るような瞳でルイスを見た。
青い薔薇のように美しいローズの瞳からまた一つ、涙がはらりと落ちた。
ふぅ、とルイスは短く息を吐くと、ローズにハンカチをそっと差し出す。そのハンカチは王太子が持つ物にしては素朴で、不釣り合いな刺しゅうが入っている。受け取ろうとしたローズの手が少しだけ止まった。
「あ……りがとうございます……。お優しいですね。あの時も、泣き虫だった私を助けてくださいました」
「マインベルク伯爵には世話になっているからな。ついでだ」
「ふふ、ルイス様らしい」
泣き腫らした目だけでなく、ローズは頬も赤く染めた。肩が触れ合いそうなほど近くに座っている二人だが、ローズはその距離をも縮めてルイスに寄りかかる。ローズの長いゆるふわな髪が風に踊り、ルイスの肩に触れた。
ふわりと薔薇と香水の匂いがルイスの鼻を掠める。ローズが付けている薔薇の香水は、薔薇庭園のどの薔薇よりも甘くて、一番よく香っていた。
そんな二人の姿を遠くから見ていた生徒は、意外に多い。
薔薇庭園は、学院内の人気スポットだった。薔薇を一望できるティータイム席は、いつもより話が弾み、紅茶がより美味しく感じられると評判がいい。広大な薔薇庭園の小道は整備されていて、散歩を楽しめる工夫がされている。男女の仲を深めるデートスポットだけでなく、小さな社交場として、生徒たちには欠かせない場所になっていた。
そんな場所で寄り添うルイスとローズを見ていた生徒たちは、ほぅっと見惚れながら、二人の関係を好き勝手に想像している。もちろん、ルイスに婚約者がいることは周知の事実だが、それを知った上で泥沼の展開を頭の中で思い描き、密かな楽しみにしているのだ。
ルイスの手にポツンと一粒。続いて二粒、三粒と数を増やし、雨がしとしと降り始める。異変を感じたルイスが空を見上げた。
「ローズ、これはキミの魔法か?」
「すみません、ルイス様。悲しくて泣いてしまったせいで、感情が不安定に……。魔法のコントロールが上手くできませんでした」
「……そうか」
ルイスは指をパチンと鳴らして、雨を止めた。天候に干渉する魔法を使い、雨雲に隠れていた陽の光を呼び戻した。
「……まぁ、素敵! 私を慰めているようだわ」
滅多に見られない白い虹と雨に濡れた薔薇。その色彩は美しく、誰もが空を見上げて感動に胸を震わせる中、ルイスだけはその綺麗な景色を睨んでいた。
◇
次の日、ルイスは薔薇庭園に婚約者である公爵家の令嬢、アリシア・メロディアスを呼んだ。
ルイスはベンチに腰かけて待っている間、ローズとアリシアのことを考えていた。思慮深い彼の根底には、慧眼を持つ冷酷な獣が眠っている。温厚な性格は表向きのもので、ルイスの本性が顔を出すことは滅多にない。
そんな彼の瞳に、遠くから慌ただしく走ってくるアリシアの姿が映った。
サラサラした銀髪を靡かせて走るアリシアの姿は愛らしいが、その数秒後、彼女の印象は跡形もなく崩れ落ちる。盛大に転んだのだ。落ち着いて見える彼女の外見からは想像も付かないほど、無様に顔面が地面に付いた。
しかし、アリシアにとってこんなことは日常茶飯事。
すぐに立ち上がると、痛みに顔を歪めながらも、周りに心配をかけないようにっこり笑い、制服の汚れを手で払った。彼女のキラキラした紅い瞳がじわっと涙で滲んだが、「騒がしくして、ごめんなさい」と周りを配慮した言葉を添え、涙を落とすことはしなかった。
それから、両手で顔を隠しながら、ルイスの前へやって来る。
「……アリシア、なぜ顔を手で隠す?」
「恥ずかしくて、殿下……いえ、ルイス様に合わせる顔がないからです」
「……ではそのままでいい。話をする前に医務室へ行こう」
「大丈夫です」
「大丈夫じゃないだろう。もし傷跡が残るようなことになれば、一大事だ。回復魔法でさっさと治した方が傷跡が残りにくい」
ルイスの言うことは、尤もなことだった。将来、王太子妃となる令嬢に傷跡が残れば、婚約が取り下げられることがあるのだ。婚約者になる条件として、それなりの容姿が求められる。目立つところに傷一つでも付けば、『欠陥品は相応しくない』と貴族たちは王や王太子に囁くだろう。
過去にこんな話がある。
とある貴族がならず者に命じて、王太子の婚約者を「狡猾に」傷付けたことがあった。「目立つ傷跡がある欠陥品は、王となる者に不釣り合いです」と白々しくその貴族は言い、婚約を破棄するよう進言。真実を知らない王や王太子はそれを承諾してしまい、婚約破棄は成立した。
そればかりか、王を唆した恥ずべき貴族は「自分の娘こそ、王太子妃に相応しい」と言い、王や王太子、またその周りの者を甘言で釣った。
しかし、暫くしてことが明るみに出ても、その一族が裁かれることはない。証拠は疾うに隠滅されていて、因果関係は認められなかったのだ。
小さな傷でも、命取り。アリシアはそういう事情まで考えが及んでいなかったが、ルイスは彼女のことを考えて、医務室へ移動することにした。
移動中も、アリシアはまだ顔を隠していた。「派手に転んで、恥ずかしい」という理由もあるが、それだけが理由ではなかった。地面と顔が擦れ、出血までしている怪我は、どうしたって注目を浴びる。婚約者という理由で普段から関心を向けられることが多いアリシアは、もう誰の関心も引きたくなかったのだ。
序列に厳しい伝統のある学院と言われているが、その裏では噂や悪口が階級を超えて飛び交っている。自身の一挙一動に対しても、さらには息をしているだけでも何かしら言われる立場にあることは、ただでさえ不安を抱えているアリシアには、耐えられないことだった。
「…………」
「…………」
ルイスもアリシアも思う所はあるが、表面上では互いが口を噤んでいる。
ルイスは盗み見るように彼女を横目で見ると、周りの目からアリシアを隠す魔法を使った。しかし、そのさり気ない気遣いに、顔を掌で覆っている彼女が気付くことはない。
「誰もいないとは……」
がらんとした医務室の椅子にアリシアを座らせると、ルイスはため息を吐いた。
専属の医務官が不在では、怪我の手当ては必然的にルイスが行うことになる。アリシアには回復魔法が使えないからだ。
「はぁ……。回復魔法は苦手だが、仕方ない……」
ルイスは顔を顰めながら、呪文を詠唱した。
魔法は、それを使う者の本質に似ると言われている。
ルイスの本質は優れているが、その一部分は悲しくなるほど不器用だ。苦手な回復魔法はそれが顕著にあらわれてしまい、時に暴走する。
それを怖れたルイスは、王族が持つ光の煌めきで、半ば強引に回復魔法を詠唱した。
結果、アリシアの傷は治ったが、攻撃魔法のような荒々しい回復魔法が発動したせいで、部屋の中は嵐が過ぎ去った後のように物が散乱した。
「すみません、ルイス様のお手を煩わせてしまい……」
「気にするな。将来二人で手を取り合い、国を導いていくんだ。婚約者の面倒を見るのは、当たり前のことだろう」
「……はい」
「あとでもう一度、医務官に診てもらった方がいい。私がやると、この有り様だからな」
ルイスは淡々と話した。
そこには、他の生徒たちに見せる温厚で優しいルイスの姿はない。だからといって、冷たくあしらう感じでもなかった。
実際のところ、ルイスはアリシアに対して、どういう態度で接するべきか迷いあぐねているだけなのだが、それを知らないアリシアは、自身の襤褸が出ない内にこの場を逃げ出してしまいたいと思っていた。
「……あの、ルイス様。手当をしてくださり、あ、あり……あっ! 危ない!」
棚から幾つかの薬瓶が不自然な動きを見せて、倒れてくる寸前――アリシアは自分の近くにいたルイスを押し出して、事故に巻き込まないよう遠ざけた。
押し出されたルイスは受け身を取ると、複雑な表情を滲ませたが、またすぐ真顔に戻る。それから、薬瓶が床に落下する前に、詠唱なしで素早く風魔法を使った。
間一髪、薬瓶は床に直撃する手前で、宙に浮く。魔法が間に合わなければ、アリシアは飛び散った破片でまた怪我をしたかもしれない。
「ルイス様、ありがとうございます。ですが、私には近付かない方が良いかと」
「アリシアはいつも私から離れようとするが、一度だってその理由を話してくれたことはない。だから私は、どういう態度で貴女に接するべきかいつも迷っている」
「いつかきっと話します。ただ、今は言いたくありません」
「そうか。……そういえば、ローズから話を聞いた。貴女がローズに対し、魔法で悪戯をしていると」
「そ、それは、分かりません。そそっかしいので、巻き込んでしまったのかも……。感情が不安定になると、魔法のコントロールができなくなる場合もありますから。今しがた落ちてきた薬瓶のように、周りに影響を及ぼして……」
「……それなら暫くの間、私と一緒に行動しよう。ローズとアリシアの間で何か問題が起きているのなら、直接、確かめた方が早いからな」
アリシアはあからさまに困った顔をしたが、ルイスは珍しく譲らなかった。
◇
その日から、ルイスとアリシアは一緒に行動することになった。
今までの二人は婚約関係にありながら、行動を共にしたことはほとんどない。アリシアがそれを拒み、ルイスがそれに遠慮したからだ。
しかし、二人の関係は今、変わろうとしている。ローズの相談をきっかけにして。
「お待たせしました、ルイス様」
薔薇庭園のベンチに座り、ルイスが本を読んでいると、後ろから鈴の転がるような声が聞こえてくる。アリシアの声だ。
パタンと本を閉じて後ろを振り向くと、アリシアの姿を見たルイスは屈託のない笑顔を浮かべた。
「いや、そんなに待っていない。カミーラ先生に提出物を渡したのか?」
「はい、何とか……」
「そうか、頑張ったな」
アリシアの制服はボロボロに擦り切れていて、その美しい銀髪には葉っぱが絡まっている。何とか提出物を渡したが、そこへ行く道すがらにとんだハプニングに見舞われたのだろう。帰り道も同じように。アリシア曰く、魔法のコントロールができなくて。
ルイスは了承を得て、アリシアの美しい銀髪に付いた枯れ葉を取った。
「……でも、薔薇は折ってはいませんよ」
「ああ、それは知っている。薔薇庭園を突っ切って貴女は私の背後に現れたが、薔薇は一つも折れていない。自分の身より薔薇を守ったのだろう。怪我はないか?」
「はい、大丈夫です」
「制服が汚れている。薔薇庭園で昼食を摂る前に、新しいものを用意しよう」
「い、いえ。どうせまたすぐに汚れてしまいますから……」
「……そう遠慮することもないだろう。それに、汚れた制服のままだと悪い噂が立つ」
ルイスがそこまで言い切っても、アリシアは首を縦には振らなかった。その煮え切らない態度を見て、ルイスは提案をする。
「一つ、賭けをしないか? 一緒にいる間、魔法のコントロールができずに起こったハプニングで、アリシアが傷付けば、貴女の勝ち。傷付かなければ、私の勝ちだ。判定には、身体だけでなく、服装も含めよう。そうして負けた者は、勝った者の言うことに一つ従う。もちろん、内容は簡単なものに限るが……」
「つまり、ルイス様が私を守り切れたら、私の負け。私や制服がいつものようにボロボロになれば、ルイス様の負けということですか?」
「ああ、そうだ。簡単だろう? 貴女はいつも通りにしていればいい。頑張るのは私だけだ。貴女をハプニングから全力で守る必要があるからな……」
「……それなら、私が余裕で勝ちますね。その勝負、お受けします」
ルイスの思い付きに、アリシアが喰い付いた。
ルイスにとって、提案が受け入れられたことは嬉しいが、喜びよりも驚きの方が大きい。思わず目を瞬かせたくらい、アリシアの答えは意外だった。今まで必要以上に近付かなかったアリシアが、ルイスに積極的に関わろうとしているのだ。
たとえその動機が不純だとしても、そんなことはどうでもいいとルイスは思った。
「私は諦めの悪い男だ。意地でも貴女を守るだろう」
「制服が汚れないように、ですか?」
「いや、それもあるが……。それだけじゃない」
「ふふ、結果がたのしみですね」
そうして二人の勝負は始まった。
◇
アリシアの着替えが無事に終わると、薔薇庭園内に設置された見晴らしのいい席に二人は座る。すると、ルイス専属の使用人がディナー並みに豪華な昼食を運んできた。
ルイスは先ほどから、唇の両端に微かな笑みを乗せている。息を吐く暇もなくアリシアの周りで起きるハプニングに、退屈しなくていいと目を細めながら。
その様子をアリシアはきょとんとした表情で見ていた。
食事中でも容赦なく起こる事象を魔法で食い止め、その合間にルイスはナイフとフォークを使い、焼いた肉を咀嚼する。ルイスの心拍数は上がっていた。アリシアとの距離が縮まっていくこの過程は、ルイスにとってすこぶる魅力的なのだ。
「アリシア、貴女はいつもこんな毎日を過ごしているのか?」
「いえ、これはまだ序の口です」
「そうか。新しい制服に着替えるだけでも、色々なことが起こった。何もないところで貴女は転びそうになったし、天候が急に荒れて、お互いずぶ濡れになるところだった。何もないところから、物が落ちて来たりもしたな。それが序の口、か」
「はい……」
「この光景も、序の口なのか? ティーカップが突然割れたり、突風が吹いて私のパンが飛んでいったりするのも……」
「す、すみません。魔法のコントロールが上達するようもっと勉学に励みます」
「いや、アリシアのせいではないから、気にするな。しかし、私が魔法で常に守らなければ、貴女も制服も一瞬でボロボロだ。目を離すこともできない」
そう言いながらも、ルイスは依然、笑みを湛えたまま。食事中だからといって、防御に徹することはしなかった。波のように押し寄せるハプニングに攻撃魔法を使って迎え撃ち、銀のカトラリーさえアリシアを守る武器にする。
「……あの、良いですよ。私から目を離していただいても。慣れっこですから」
「目を離す? そんなこともったいなくて、できないな。今、とても新鮮な気分だ」
「……そう、ですか」
アリシアはハプニングに慣れっこというだけあって、どういう災難が降りかかるか予想ができているようだった。一方、ルイスはギリギリで対処することが多く、まだコツが掴めていない。
しかし、体力も集中力も魔力も削られる中、ルイスの動きは獣が目覚めたかのように、少しずつ変わり始めていく。
来る日も来る日も、ルイスはハプニングからアリシアを守る盾となり、その身を削った。
「段々とコツが掴めてきた。周りをよく観察して、それがどういう事態を引き起こすのか想像すれば、意外と簡単だ」
「ですが、そんなにハイペースで頑張ると、魔力が枯渇しますよ?」
「私にアドバイスをくれるのか? アリシアはどちらかと言うと、今後も私に関わりたくないがために、勝負に勝ちたいのだと思っていたが?」
ルイスは少しばかり意地の悪い質問をして、アリシアの反応を探る。
一方、ルイスの言葉に衝撃を受けたアリシアは、取り繕うことも忘れて固まっていた。ルイスに指摘されるまで、自分の中の矛盾に気付いていなかったのだ。
アリシアがこの勝負を引き受けた理由は、ただ一つ。『今まで通り、結婚するまで距離を置いて欲しい』ということだった。たとえ在学中に何か問題が起きても、放っておいて欲しい。
それが、アリシアの望み。
さらに言えば、距離を置く理由も訊ねて欲しくないのが、アリシアの本音だ。
勝負に勝った暁には、後ろめたい気持ちを抱くことなく、正々堂々とルイスにそうお願いしたいと考えている。結婚するまで距離を置き、その理由も訊ねるなということが、どんなに我が儘な願いごとだと責められようとも。
そんな気持ちを抱きながら、アリシアはルイスの提案を受け入れた訳だが、あまりにアリシアに有利な賭けだったので、表情筋を引き締めなければ笑いが漏れるところだった。それほどまでに、アリシアの勝ちは確定していた賭けなのだ。
なぜならこのハプニングは、
『魔法のコントロールができなくて、引き起こされるハプニングではない』からだ。
ハプニングが起きる本当の原因を、アリシアが言った通りに受け取っている限り、敗北するのはルイスだ。特別な加護が付いている王太子とはいえ、アリシアを守るために闇雲に魔法を使っては、魔力も枯渇する。数日後には何も守り切れなくなるだろう、とそこまでアリシアは考えていた。
「確かに、そう……思ってはいました。ですが、ルイス様があまりに真剣だったので……」
ルイスの限界を待つだけで良かったが、どうしてかアリシアはルイスにアドバイスをしてしまった。余計なことを言わず黙っておけば良かったのに、いつの間にかルイスを応援したくなっていたのだ。
勝負中のルイスの表情がどんどん輝きを増していく様を見て、アリシアはいつしか惹き込まれている。
「アリシアに応援されるのは、光栄だな」
「そう、ですか?」
「ああ」
生まれた矛盾に、アリシアの心の中がチクンと痛んだ。
◇
「ねぇねぇ、あの噂のこと知ってる?」
「もちろん、知ってるわ。ずっと仲が悪いと思われていたルイス様とアリシア様だったけど、最近一緒にいることが多いっていう噂でしょ?」
「仲直りしたのかしら……。私はてっきり、ルイス様はアリシア様と婚約破棄をして、ローズ様をお選びになると思っていたわ」
「私の予想では、二人の仲を取り持ったのはローズ様よ。少し前にローズ様とルイス様が二人、薔薇庭園で寄り添い合っていたもの。きっと婚約者を大切にして欲しいと身を引いたのかもしれないわね」
一週間も経てば、そんな噂が駆け巡る。それは流行り病のような広がり方だった。男子生徒も女子生徒も恍惚とした表情で、ルイスとアリシアのことを喜々として熱く語る。それを聞いた生徒たちは、また別の生徒へとその話を広めていく。
その話題はあまりにも生徒たちの関心を惹き過ぎた。
その中で一人だけ、その光景を面白くなさそうに見ている人物がいる。
ローズ・マインベルク伯爵令嬢だ。
「何なのよ、これは……。私は二人の仲を引き裂こうとしているのに、外野如きが好き勝手なこと言わないで欲しいわ。絶対に引き裂いてやるんだから」
ローズはギリッと爪を噛むと、時間を告げる鐘の音に背を向けて、旧講堂へと消えていった。
はるか遠く、その目線の先にあった陽が頭上を照らす頃、鐘の音と共に生徒たちは思い思いの場所へと赴く。薔薇庭園でアリシアと昼食を摂る約束をしていたルイスも、用事を済ませるとその場所へと向かう。
先生との話は思いがけず長引いてしまったが、ルイスはそれを埋め合わせるようにひた走った。途中、いつも感じる外野の視線に妙な気配が混ざっていると感じていたが、噂のせいだろうと特には気にしなかった。
「すまない、遅くなった」
「私も今さっき来たところです」
「一人で待っている間、怪我はしていないか?」
「……はい、大丈夫です。一人の時、勝負は中断しますが、実を言うと不安でした……。今までずっと一人で対処してきたのに、おかしいですよね。早く魔法のコントロールをどうにかしないと……」
一人で待っていたにも関わらず、アリシアの制服は綺麗なままだ。それを見て、ルイスは安心した。
「私もだいぶ成長したから、今日の昼食はゆっくり食べられそうだ」
「……と仰いますが、ルイス様はまた楽しむつもりでは?」
「確かに、毎日スリルを味わえるのは退屈しないが、楽しいのはアリシアが一緒にいるからだ」
「……え?」
ルイスとアリシアは見つめ合った。薔薇の中に閉じ込められたような場所で、互いが送るその視線にお互い胸を高鳴らせている。愛の告白をしてキスをするような甘い雰囲気が、どことなく漂い始めていた。
しかし、そうさせてはくれない存在がいる。
「……全く、空気を読まないな。このハプニングは」
「あ……!」
ひんやりとした空気が足元に流れてくると、庭園の薔薇に付いた朝露が氷の粒に変わった。異変を感じたルイスは、咄嗟に頭上を見上げる。その瞬間、先の尖った氷の槍が降ってきた。
ルイスは素早く魔法で迎撃し、氷の槍を粉々に砕いた。
「魔法の暴発? 誰かの事故でしょうか?」
「いや、これも貴女を狙ったハプニングだ。ただ、質の悪いものだが……」
「え……? ですが、今までこんな激しい攻撃は一度だって起きませんでしたが……?」
アリシアは青ざめた顔で疑問を口にする。
ルイスは粉々に砕いた氷を踏み鳴らしながら、キラキラ輝く虚空の中で黙っていた。
◆
気を抜けば大怪我をするようなハプニングが、頻繁に起こるようになって数日。
悪戯のような小さいハプニングが、可愛らしいものに感じるようになった。比べて、程度の大きい事象は、アリシアだけを狙っていて厄介だ。前触れもなく起こるそれは、ルイスに多大な負担をかけ、精神的にアリシアを苦しめた。
ハプニングの特徴として、そのいずれもが溺れさせたり、凍らせたりする水・氷結魔法だった。
学院に入学したばかりの生徒たちが魔法の暴発を起こしたり、不安定な感情に魔法を乗せてしまい、コントロールできなくなることはよくあることだ。しかし、アリシアに降りかかる災難はその類ではない。
その違いに気付いたルイスは、怒りの色を瞳に映したままアリシアを守り続けた。
「顔色が悪いです、ルイス様」
「……大丈夫だ。寝れば魔力は戻る」
「ですが、ここ数日、全回復はしていないようですよ。勝負はひとまずやめて、身体をしっかり休めましょう」
アリシアはそんな提案をしたが、ルイスは頑なに首を振った。
ルイス自身、限界が近いことはよく知っていた。申し分ない魔力量を持っていても、ルイスの魔力はすぐに枯渇する状態にある。回復が間に合わない理由は理解していても、ルイスはそれを理由にアリシアから離れることはしたくなかった。
今は、アリシアの傍にいなくてはいけない大事な時期だ。ルイスの中で勝負に勝つよりも、アリシアを守ることの方が大きくなっていた。
「ルイス様……、そこにいらしたのね」
ルイスがいつものように薔薇庭園で花とアリシアを愛でていると、甘く媚びるような声が聞こえてきた。思わず身体が反射的に拒絶したが、無視をする訳にもいかず、ルイスは仕方なく振り返る。
ローズがいた。
絶妙な角度で潤んだ瞳をルイスに向け、いじらしく水色の髪を指先で触っている。タイミングを見計らっているのか、徐々に近付いては会話に混ざる。気付けば、ローズはその身をルイスとアリシアの間に滑り込ませ、豊満な胸をルイスの腕に押し付けていた。
ルイスの表情が歪んでも、ローズは気にせずに話し続ける。
「ところで、ルイス様。ご相談した件ですが、どうでしたか?」
「……。ずっと一緒にいた私の判断では、アリシアは何も悪くない。魔法のコントロールがうまくできなくて、ハプニングはとめどなく起こるそうだが」
「そう……。でも、本当にそうかしら……?」
ローズは可愛く小首を曲げて、疑問符を頭に浮かべる。それから、隣にいるアリシアを一瞥すると、嫌悪感を露にした。ローズの苛立ちに気付いたアリシアがおずおずと話し始める。
「ごめんなさい、ローズ。貴女を巻き込んだ覚えはないけれど、私が知らないところで貴女に被害が及んでいたのなら……」
「きゃああ!」
突然、ローズが悲鳴を上げた。彼女の手の甲には、薄っすら血が流れていて、足元には血の付いた氷の槍が突き刺さっている。
「アリシア様、あんまりですわ。私とルイス様の仲を羨んで、こんな仕打ちをするなんて!」
「誤解です。そんなこと私は……」
アリシアとローズのやり取りを余所に、ルイスは原因を探り始めた。気配もなく現れた槍に触ろうとした直後、タイミングよくまた空から桁違いの大きさの氷の槍が降ってくる。変わらずアリシアを狙っているようだった。アリシアは有効な火炎魔法を放つが、氷全てを溶かすことはできなかった。
「……永久の別れ!」
祈るように手を組み、ぎゅっと目を瞑ったアリシアの前に、ルイスが立つ。唱えた魔法は、混沌魔法。ほとんど魔力が枯渇していたルイスだったが、とびきり大きな混沌魔法が放たれて、氷の槍を貫いた。砕かれた氷塊は粒子レベルの大きさとなり、空気中に散らばっていく。
キラキラと雨のように降り注ぐそれを浴びながら、ローズは唖然と口を開き、アリシアはほっと胸を撫で下ろした。
「ありがとうございます、ルイス様。それにしても、いつ魔力は回復したのでしょう……?」
「差し迫った危機を前にすると、底力が発揮されるらしい」
「そ、そういう、ものでしょうか?」
「ああ……」
「……ふふ、ルイス様が冗談を言う人だとは、知りませんでした」
真面目にすっ呆けるルイスの姿を見ていたアリシアの顔にも、自然と笑みが零れている。
ローズだけは口をひん曲げて、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「……ない。有り得ないわ! 魔法に限ってそんなこと……! 魔力は身体を休めなければ、回復しない。どんなに優れた者でも、それは変わらない道理だと習ったわ」
「ああ、そうだ。そんなこと、私もアリシアも分かっている。ローズ、魔力が枯渇しかかっている私がなぜ、魔力消費の激しい混沌魔法を使えたと思う?」
「そ、それは……」
「予め、準備をしていたからだ。魔力が枯渇しかかると同時に発動する、仕掛け魔法をな」
「仕掛け魔法……? ど、どうしてそんなことをする必要が……」
「それはお前がよく知っていると思うが……? 魔力が枯渇しかかるタイミングを狙い、私とアリシアに近付いただろう。なぁ、ローズ。私を騙せると思ったか?」
「……ひぃっ! び、吃驚させるようなことを仰らないで欲しいわ、ルイス様。証拠でもあるのかしら?」
すぐに落ち着きを取り戻したローズがルイスに尋ねる。不敬罪を恐れている素振りはない。ローズは学院独自の規則を盾にして、証拠の提示を求めた。
ルイスは一点を見つめて黙っていたが、視線をアリシアに移す。
「……アリシア。貴女は魔法のコントロールが上手くできなくて、ハプニングに見舞われているんじゃない」
「……え?」
アリシアが声を上げた。驚きに満ちた表情を浮かべた後、暴かれたくないものを隠すようにルイスから視線を背ける。
「ローズ、お前はアリシアに呪いをかけたな。私の魔力の回復が遅いのは、呪いがかかっているアリシアの近くにいたせいだ」
「……なんのことだか、分かりませんわ」
「発現した呪いは全て、氷結魔法だった。つまり、水属性だ。呪いは、呪いを与えた者と同じ特性を持つ。ローズ、お前が得意とする魔法は水や氷結魔法だったな。氷結魔法まで覚えている人間は、この学院内には数人しかいない。私と私の従者や親友を除けば、お前だけだ」
「……ッ!」
「お前の愚策は、私とアリシアが今までのように距離を置いた関係でなければ、成功しない。いや、たとえ距離を置いていたとしても、失敗していただろうな。なぜだか分かるか?」
追い詰められても、ローズはただアリシアを睨むばかり。ルイスを慕う歪んだ感情は憎しみへと形を変えて、全てアリシアへと向けられる。が、ルイスはそれを許さない。名前を呼び、ローズの顔を自分へ向けさせた。
「お前から相談を受けた時、雨が降った」
「ええ。感情が不安定になり、コントロールできませんでしたわ。よくあることだと……」
それでもまだローズは、毅然とした態度で答える。
「……あの時、私が貸したハンカチを手に持ちながら、魔法を使ったな」
「アリシア様に虐げられていた私は、不本意ながらもルイス様の前で、大泣きしてしまいましたわ。その時に、ルイス様はハンカチを貸してくださいました。感情が不安定になると、自分の意志とは無関係に魔法が暴走することは、新入生にはよくあることですわね。そのために、雨が降ることも。魔法を使いたくて使ったのでは……」
「ああ、大事なのはそこじゃない。問題はその後だ。白虹を見た後に返してもらったハンカチには、魔力の痕跡が残っていた。それは、この砕けた氷の槍から感じる魔力痕跡と同じものだ」
ローズは目を見開いた。
アリシアに虐められていると相談した時、客観的に見ても、ルイスとローズは確かに良い雰囲気で、寄り添っていたはずだ。ルイスはローズの話に耳を傾け、ポロポロと止まらない涙を拭うためのハンカチを差し出して――――。
「まさか、その時から私は疑いの目を持たれていたというの? ハンカチを洗って返すと言ったのに、構わないと仰った理由がそれだったのですか?」
ルイスは口の端に笑みを乗せながらも、黙っている。
少しも気付かなかったローズは、悔しくて唇を噛んだ。
「……そ。う、嘘よ! そんなの嘘だわ!」
「真実だ。私はローズに配慮したのではなく、マインベルク伯爵に配慮して優しく接したまでだ。彼は優秀で失いたくない人物だからな。たとえ、その娘が愚かな令嬢だとしても、それを表立って口にしてしまえば、失って欲しくない人材まで失いかねない」
「……あ、ああ。どうして、どうして私の企みに気付いたのよ。ずっとお二人は距離を置いていたわよねぇ。ルイス様もアリシア様も、互いに“情”はない関係だとばかり……。それなのに、いつまで経っても婚約を破棄しないなんて! ねぇ、アリシア様。婚約者として、ルイス様にそんな振る舞いをするなら、私にその座をくれたって良いわよねぇ……?」
ローズの悲痛な叫びを聞いたアリシアは顔に苦渋の表情を浮かべるが、何も言い返さずに俯いただけだった。
はぁ。とルイスの溜め息が一つ、アリシアの代わりに牙を向く。
「ローズ、非難できる立場じゃないだろう? 禁呪指定されている呪いをアリシアにかけたんだ。お前を許すことはできない」
「それならどうぞ、私を呪えばいいですわ。私に向けるその憎悪さえ、ルイス様が私に関心がある証拠です。それに、呪いをかけられたアリシア様は、どう考えても婚約者の資格はない。だって『欠陥品』なのよ?」
「アリシアをこれ以上、愚弄するのはやめろ」
「ルイス様のお願いでも、それは難しいわ。だって、この国には前例があるんですもの! 王太子たる者に欠陥品は相応しくないという前例が!」
「黙れ! アリシアは欠陥品じゃない。俺は確かにアリシアには近付かなかったが、遠くから見守っていた。だからあの日、お前から相談を聞いて吐き気がした。アリシアは誰かを虐げる人間じゃないと知っていたからな!」
声を荒げると、ローズの肩が小さく震えた。しかし、諦めの悪そうな表情はそのままだ。ルイスは確実にローズの急所を狙うため、奥底に隠した獣の本性を曝け出した。
「相談を受けた『あの日』のことをどう思っていたのか、話してやろう。私の許可なく隣に座ったことも、私の隣は婚約者であるアリシアだけの場所だと知りながら、座ったことも。アリシアに配慮しないその行いも。全部、虫唾が走った」
それが全てだとルイスが言い放つと、ローズの顔が初めて強張った。
肩が触れそうで触れない。そんな距離で、人目も憚らずに泣くローズにハンカチを差し出すルイス。完璧なシチュエーションだったとローズは振り返る。しかし、ルイスが抱いていた感情はその真逆だったのだ。
それだけではない。二人がベンチで座っているのを見かけた生徒たちの好き勝手な想像さえ、ルイスは否定した。
ローズの心は今、空っぽだ。
「ローズ・マインベルク伯爵令嬢、お前をこの学院から追放して、牢獄行きを命じる。捕らえろ!」
ルイスの一声で、従者二人が瞬時にルイスの両隣に控えた。ローズはその者らの魔法により、身柄を拘束される。
「罪を償ってこい。時間をかけて、その罪に向き合え」
「…………」
ローズは何も言い返さない。アリシアに視線を向けても、感情を荒立てることはしなかった。しかし、去り際に、ゆっくり頭を下げて意味深な言葉を残す。
「アリシア様の呪いが全て解けるといいですわね」
最後にそう足掻いて、従者たちと共に消えた。
◆
「ルイス様……、色々とありがとうございました」
ルイスに呼ばれた呪術師により、ローズがアリシアにかけた呪いは早々に解けた。その顛末がローズの耳に入れば、精神的ダメージを受けそうなことが起こった訳だが、アリシアの顔は何一つ晴れていない。
ルイスは、何とも形容しがたい溜め息を吐いた。なぜなら、ローズの件が前菜で、メインディッシュはあくまでもアリシアなのだ。気合を入れ直して、ルイスはアリシアに向き合う。
「ローズの呪いが解けても、貴女は勝負を続けるのか?」
「……はい、そのつもりです」
「そうか、それなら続けよう」
ルイスの身体には、勝負を続ける余力は残っていない。魔力は使えず、役には立たない。一方、呪いは解けたが、アリシアはもう一つ大きな問題を抱えていた。
それは、水・氷結魔法以外のハプニングは、ローズがかけた呪いのせいで起こったものではないということだ。
「ふぅ、本当は、こんな卑怯なことはしたくないのだが……」
「はい……?」
「私は貴女のことをよく知っている。たとえば、呪いを受ける前から、不幸体質に悩まされていたことも」
「え……!?」
「そして、その不幸体質が貴女の家族から受けた呪いによるものだということも。厄介なことに、呪術師でもその呪いを解くことができなかった訳だが……」
顔は青褪めていくアリシアだが、声だけはなんとか絞り出して答えた。
「……ル、ルイス様とローズの会話を聞いて、もしかしたらと思っていました。全部、私の事情を知っていたのですね。いつ知ったのですか?」
「知ったのは最近だが、貴女のことはずっと気にしていた」
「そう、でしたか」
「アリシア、家族から受けた呪いによって不幸体質になった貴女は、『欠陥品』として婚約破棄をされるのを怖れて、私と距離を置いたのか?」
「はい、その通りです」
「辛かったな。これからは、私を頼っていい」
ルイスはアリシアの肩をポンと優しく叩いた。
(アリシアの家族構成は、父と母、妹か。血は繋がっているにも関わらず、この仕打ち。さて、メロディアス公爵家にどう挨拶をするべきか……)
ルイスの頭の中にはもう仕返しの案がポンポン浮かんでくる。考えれば考えるほど、ルイスの顔は妖しくも美しい笑みを浮かべた。
「今回の件を前向きに捉えるなら、アリシアと話すきっかけが掴めなかった私は、ローズのおかげで貴女に近付けたということか」
「ルイス様?」
「それに、もう距離を置かなくていいし、貴女に遠慮する必要もない」
「ですが、パーソナルスペースが確保できなくなるのは、困ります……」
「家族から受けたその呪いが解けるまで、私は貴女を守ろう。その小さなハプニングから。もちろん、全てがきっちり片付いても、離れる気はないが」
「あの、ルイス様。聞いていますか? なんか楽しんでいません?」
「もちろん聞いている。不謹慎かもしれないが、私はアリシアと一緒にいられるのなら、どんなことでも嬉しくて仕方がない」
困り顔のアリシアだったが、ルイスの笑顔に不覚にも絆されてしまった。そんな二人の間をまたハプニングが襲う。
「ルイス様、魔力がもうないのですから、講堂まで逃げましょう」
「……勝負は?」
「も、もう勝負は私の負けでいいですからっ! 私の事情を全て知った時点で、ルイス様の勝ちに決まっています」
突如として現れた毒蜂の大群を見て、アリシアは可愛らしい台詞を口にしながら、ルイスの手を掴んで走る。
ルイスはその繋がれた手を嬉しそうに見つめながら、ハプニングから逃れるため、一緒に走った。
お・し・ま・い。
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こっちの短編(タイトル変えました)☞「不遇の令嬢がタイムリープで幸せを掴むまで」も見ていただけると嬉しいです( https://ncode.syosetu.com/n6129hp/)。他の作品もあわせて呼んでくれると尚嬉しい。
近々、短編とは全く違う話を投稿するので、良かったらぽちっとお気に入りユーザーして読んでやってください。腹踊りするくらい、それが一番嬉しい(*ノωノ)