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悪役令嬢は不在から始まるシリーズ

このルートの悪役令嬢は不在のようです

作者: 桃井夏流

この世界には魔法とは別に『祝福』と言われる力がある。魔法はこの世界の人間なら能力の差こそあるけれど、基本誰でも扱える。

しかし祝福は違う。祝福を持って生まれる人間は常に数が一定数なのだ。

誰かが亡くなる、もしくは祝福がなんらかの理由で欠損すると、新しく祝福を持つ者が現れる。

祝福の能力は様々だ。世界を救う様な大きな力から、人よりちょっと生きるのに楽が出来るくらいのものまで、多種多様。

今更なんでこんな事を思い出しているのかと言うと、私……メルトリーナ・ラランドが、先程、祝福の能力保持者になったから。


そしてその能力が『異界の巫女』と言う、特殊なものだったから。

要するにざっくり言おう。私の前世が日本と言う異界の国の住人だった事を、祝福を受けた事で思い出してしまった。

更に酷い事に、私はその日本でこの世界に酷似している乙女ゲームをプレイしていた事まで思い出した。タイトルは『神々のギフト〜聖なる乙女の祝福〜』そしてメルトリーナのポジションは悪役令嬢だ。


「詰んだ」


いや、私は嫌いじゃなかったよ?メルトリーナ。メインヒーローの王太子の婚約者、所謂一番のざまぁポジション。でもメルトリーナは別にヒロインを虐める訳でもなかった。ただ妃教育の賜物か、礼儀やマナーにうるさくて、そのせいで王太子の心が少しずつヒロインに傾いて行って、結局王太子ルートでは婚約破棄されちゃう。私はちょっと可哀想だと思ったな。だけどそれとこれとは別!と言うか可哀想だからこそなりたくなんてない!!


「お嬢様、先程から百面相なさってますが如何されました?」


思わずギクリと肩を揺らしてしまった。

私は小さく息を吐き、メルトリーナの笑顔を浮かべた。花咲く様な笑顔ではないけれど、模範的な令嬢の笑みで。


「少し祝福が馴染むのに時間がかかっているみたい。心配しなくて大丈夫よ」

「…頑なに祝福の名を教えて下さらないお嬢様を心配しない程忠義の薄い男ではないつもりですが」


その言葉に少し胸が痛む。忠義ね、そうよね、カイルはお父様の事を随分と尊敬していて、だから私の護衛なんてやっているのだもの。最早護衛と言う域ではなくて、侍従の様に、何でもこなしてしまうのだけど。

それもそのはずよね、カイル、神ギフの隠しキャラクターだもの。職業確か暗殺者な筈なんだけど、何でラランド侯爵家で働いているのかしら?バグ?


「お嬢様、せめて何か反応して下さい」

「………カイルなんて、ずっと私の心配をしてくれていたら良いんだわ」


そのくらいの意地悪はしてもいいじゃない?私は子供の頃からこの男が好きだった訳だし。と言うか前世から推しだった訳だし。

でも侯爵家の娘として誰かに嫁がないといけない事は理解してる。娘溺愛系お父様のおかげでまだ婚約はしていないものの、年齢的にそろそろ限界だろう。


「ねぇカイル、私が居なくなったら、シルをよろしくね」


シルヴィはラランド侯爵家のたった一人の後継者だ。私の可愛い弟。お母様はシルヴィを産んで1年も経たずに帰らぬ人になってしまったから、私が8つ歳下のシルヴィの母代わりで、より、可愛く見えるのかもしれない。


「嫌ですけど」

「…え、」

「だから、嫌です。私はお嬢様が覚悟を決めて下さるまでお待ちしていたのですが」

「かくご」


なんの?少し首を傾げてカイルを見上げると、カイルはすっごく大きな声溜め息を吐いた。


「知ってます?知らないだろうからもう吐いちゃいますが、メルトリーナはいずれ王太子様の婚約者に選ばれます、十中八九破棄されちゃいますけど」


思わず目を見開いた。なんでその事をカイルが知ってるの?


「なので、俺は待っていた訳です。連れて逃げてとか、連れ去ってとか、そういうお願いをされるのを」

「…私そんな無責任な人間ではないわ。それに万が一そんな気持ちになってもカイルに迷惑をかけるつもりなんて」


「馬鹿だなぁメル?好きな女に迷惑かけられて嫌がる様な小者に見えてた?俺」


ゾクリとした。胸がザワザワする。ドキドキなんて生易しい感じじゃない。心臓握りしめられた様な気分。


「すき…?」

「好きでもない女の世話をする程酔狂な真似は俺には出来ないね。よくもったものだと褒めてくれて良いよ?」

「ん?う、ん、ありがとう?」

「どういたしまして。それで、いつ逃げる?今?今夜?」

「えぇ!?ま、待って、まだシルも幼いし、」

「口説いている男の前で別の男の名前を出すの止めようか?」

「ごめんなさい…」


殺気が、殺気が!やっぱりこの人暗殺者だった!絶対そうだった!!


「ねぇ、好きだよ、愛しい人。どうか俺に言って?私を連れ去って、と」


心がぐらぐらする。甘い毒の様な言葉だ。だって私の未来はゲーム通りに進められたら、わりと悲惨で。

目の前の私が好きな人が、私を好きだと、言っている。ずっとずっと好きだった人が。


「もし」

「うん?」

「私が、カイルを好きじゃなかったら、どうするつもりなの」

「愛の逃避行がただの人攫いになる」

「………連れて行って」


そのはにかむような顔が可愛いと思った事なんて内緒だけれど。


悪役令嬢不在のゲームは、進行するのかしら?

 


「ねぇ、なんで私の未来知っていたの?」

「俺の祝福『破滅の道標』なんだよね。破滅しそうな人の未来がほんの少しばかり見える」

「ふぅん。なんか人生嫌になりそうな祝福ね」

「そうでもない。メルと初めて会った時、破滅の方はよく見えたんだけど、分岐点以降が眩しくて見えなくてさ。興味わいて傍に居たら普通に可愛いから俺の物にしたい欲抑えられなくなっちゃったんだよね」

「ワァ、光栄だわ」

「それで?メルの祝福はなんだったの?」


怖い笑顔で顔を近付けてくるカイルの頬を手で挟んで、微かに触れるくらいのキスをした。

カイルがこんなにびっくりしてるところを見たのは初めてで、なんか凄く嬉しい。


「カイルが好きよ。一緒に居たいわ」

「………だから聞くなって?」

「あんまり良くない物なの。お墓まで持っていこうかしらと思うくらい」


頭に異界と付いていても、『巫女』と名の付く祝福は厄介だったりする。下手をすると神殿に一生仕えるなんて事もあり得る。それこそ婚約破棄の後とかにね。


「じゃあお墓に入ったら教えて」

「あら、一緒に入ってくれるの?」

「え、入らないとか言われたら逆に殺意が芽生えるレベルだけど」


愛がいちいち鋭くて怖い。

でも、嫌じゃない私も結構おかしいのかもしれない。


(このルートの悪役令嬢は不在のようです)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 2人とも特別なギフト持ちだけど、自分の好きな事にだけ猪突猛進というか、このお話の中ではお互いをきちんと尊重しながらヤンデレってるところが好きです。 相手を尊重しないヤンデレは苦手なので。 …
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