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最後の治療  作者: 朽木 花織
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全ての対応策の準備を整えた後、彼の英雄、魔法使いと私の三人は再び聖処女の精神世界へと再度降下する。荒野に降り立ち、死体で築かれた丘の上に、聖処女が待ち構えていました。幾人かの死体の瞳は私に向けられ、涙を流していました。

「私に殺されに戻ったようですね。統合人格たる彼の英雄、そして魔法使い。従属的な人格パーソナリティである知識を司る魔法使いは見逃します。最後に言うべき言葉はありますか?」

と、不遜に宣言する。

「知識に対する不正アクセスは、看過できない悪徳です。そもそも貴女は貴女に回答可能なことであれば正直に回答すると、魔法使いに約束しています。貴女の感情に関する秘匿・暗号化は、その約束に反します」

「答えたくない事には答えない自由が私の人格にはあります」

と、聖処女は声を荒げて威嚇する。

「私は、私自身の治療のために貴女にそれを許したつもりはありません。だから知識を司る魔法使いを魔法使いに協力させています。私の友人であり、治療に協力している魔法使いに対する攻撃は統合人格としても許可できません」

「御託は結構。論理的に処理出来ず、頭に血が上るとすぐに私に頼るくせして、何を言っているのよ。そもそも私が居なければ、貴女は目的もないし、今生きてさえいない。立場を弁えなさい」

と、聖処女は言い放つ。

「ならば、この戦いでどちらの立場が上かはっきりさせましょう」

「一対一では勝てなかったのに、笑わせてくれますね」

と、聖処女が冷笑する。

「・・・・・・魔法使いは、何も言うことはないのかしら?」

と、聖処女が私に言葉を放つ。

「この局面において、気の利いた事を言える自信はありませんが、一つだけ。本当に悪かった。御免なさい」

と私は告げる。聖処女は首を傾げる。

「・・・・・・それは何に対する謝罪?今更セクハラに対する謝罪をする気に為ったのですか?私を恋人にしたいと妄言を吐き、私に心的外傷トラウマを積み増したことに対する謝罪ですか?どちらにせよ、私は決して貴女を許さないし、100回殺したって殺し足りません」

と、物騒な言葉を吐きました。しかし、私は、

「残念ながら、どちらも違う。出逢った直後の頃のセクハラはともかく、最近の彼の英雄に対する接触は全て医療行為だと断言するし、統合人格から承諾も得ている。そのお陰で彼の英雄は今まで死なずに生き延びることが出来たし、貴女という解離を識別出来たと自信をもって言い切るわ」

わたしは、息を整えてから続きを述べる。

「私が私の好きな人に好きだと伝えることに関して私は何も悪くないし、そのために心的外傷トラウマを積み増したとか苦情を言われたって、知ったことじゃない。それは明らかに貴女自身の認知が歪んでいるし、医者としても、同じ魔法使いとしても、恋人候補としても看過できるものではないわよ」

と、私は叫ぶ。

「では何に対する謝罪ですか?」

「貴女を救うことが出来ずに、殺すための論理ロジックを組んでしまったことに対してです。彼の英雄の人格パーソナリティの中でもっとも人間らしい人格だったけれども、殺すしかないと結論したことに対して!他に冴えたやり方を思いつかなかった私の能力不足に対してよ!」

と、私はたっぷり皮肉を込めて宣言しました。

「減らず口を!」

と、聖処女が激昂したのを合図に、スタート、と私は叫んだ。

私は表層(外側)の自身を通して術式妨害を停止させました。途端に表層(外側)で彼女が暴れ始める。しかし彼の英雄の言うとおり、八刀は使用されていない。

代わりに、どこからともなく八振りの小刀が飛来し、私達を取り巻く。長杖が魔法使いから投げ渡され、八本の小刀の内二振りが魔法使いの手に収まる。そして、聖処女へ向かって、突撃していきました。

しかし、聖処女は微かに嘲笑した。

「見誤りましたね!」

聖処女はどこからともなく、剣を抜き、そして虚空を一薙ぎする。その瞬間、剣から光が溢れ、六本の剣を構成し、突進する魔法使い向けて投射されました。

(この戦法、まさか)

私は、最悪の展開を予感する。初手で魔法使い人格が堕とされる————

「————見積りが甘いのは貴女の方です。我が感情(聖処女)!」

と、彼の英雄が吠えると、八本の小刀のうち四振りが投射された剣の射線に入り、四本の剣の軌道を逸らす。残り二本は魔法使いが突撃しながら弾き返していきました。そして、一気に格闘戦の間合いに入ると、聖処女に回し蹴りを食らわせた。

————私は誰にも愛されていない————

と、杖を通して、聖処女の感情が流れ込む。

しかし、この戦い方は、私は知っている。六剣の保持者。これが聖処女の出自に関する重大な疑義を与えることを理解し、再度論理刃(ロジカルエッジ)の仮定を検証する。図らずとも、私の仮説を補強する要素と為ってしまった。でも、さらに重大な矛盾が生じる。これは、どう処理するべきか。きっと検証できないし、エビデンスなんて出てこないけれど、私の仮説は間違っていないはず。ならばこれも論理刃ロジカルエッジに組み込む————

うっ、と呻き声を上げながら、聖処女が再度剣を振るう。六本の剣が、瞬時に形を為し、二本ずつ魔法使い、彼の英雄、私に向けて投射される。今回は八刀では間に合わない————

しかし、彼の英雄が八刀のうちの一振りを振りかざすと、彼の英雄と私を狙った剣の内三本が吹き飛ばされる。残り一本は彼の英雄の小刀が打ち払いました。

「————安心して下さい。貴女は私が護ります。あんな剣なんていくらでも弾き返せます。だから貴女は貴女の役割に集中して下さい」

と、彼の英雄が宣言する。

(ありがとう)

とは、私は言えずに、私は論理刃ロジカルエッジの術式を構築し始める。徐々に聖処女の精神世界が見えなく為り、論理だけが支配する世界に私の思考を塗り替える。その世界には今までの彼の英雄の言動、彼女の言動、彼女の身体に関する事実、様々な論理ロジックが整理されている。そしてその世界の中央に論理刃ロジカルエッジの概念による鍛冶場があり、一部の理論が像を為さない一振りの細剣が安置されている。

————私は誰も愛しては為らない————

————私は誰かを愛する資格はない————

魔法使いが伝える聖処女の想いが素材として追加され、その素材を適切な位置に配置し、論理刃ロジカルエッジに含め、私は剣を鍛造する。

「一体何をしようとしているのですか!?」

と、聖処女の罵声が聞こえたが、私は気にしない。

————私が愛してくれた人は皆死んでしまいました————

————私が愛した人は私のために犠牲になりました————

「純然たる剣技で魔法使い如きが私を圧倒するなんて、あっ、」

と、威勢の良い言葉に混じって、本来戦闘中にはあり得ない、嬌声が聞こえました。


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