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最後の治療  作者: 朽木 花織
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今回の精神潜航ダイブの目的は、彼女の精神世界における顛末を見届けることでした。統合人格たる彼の英雄の論理性なら、彼女を説得し、自らに統合していくことが可能だと信じている。だから私は結果を見届けるだけで佳い————初めはそう考えていました。

「今回も力を借りたいのだけど、協力してくれるかしら? 知識を司る魔法使い」

私は、精神の流れに向けて呼びかけました。すると、彼の英雄の精神から、一人の人格が分離して、徐々に人の形を為しました。

「————統合人格たる彼の英雄より全面的に協力するように命令を受けております。魔法使い、状況を開始します」

と、半機械的な応答と共に、長杖を片手に一人の彼の英雄の似姿が現れる。彼女は私にも友好的な人格の一人。

「ただし、私は他の人格に対する攻撃権限を有しませんし、仮に攻撃したとしても人格を破壊する力はありません。私が可能なのは、他の人格からの指示により、彼の英雄が知る全ての情報、情動、過去に存在した事実及び、客観的真実を開示することです」

と、律儀に答えました。

「それがとても重要です。治療者にとって、患者の知る情報、情動を正確に理解することが最も困難な過程ですから。まず私自身が共感できるように精神と心を鍛えなくては私を正確な鏡として使うことが出来ないし、患者との間に信頼(ラポールを形成するコミュニケーション技術も得なくては為らない。患者自身が自らの心証を良くするために意図的に情報を隠されることもあるし、正直に心を教えてくれない可能性もある。上手く言語化されないこともあるし、そもそも客観的真実に対する認識が正確なのか正確でないのかを判断することも難しい。だから、正確に情報開示を行うことを保証する人格が居るだけでとても助かるわ」

「今の会話を記録に留めます」

と、魔法使いの彼女は答える。無駄の無い機械的な応答も、彼女に好感が持てる要素でした。彼の英雄の無駄のない人格構成の一つで、相手の立場を正確に慮れる人格でした。

「ところで、統合人格たる彼の英雄は今どこに居るの?」

と、私は質問する。

「現在、解離中の人格、仮称「聖処女」の精神世界に侵入、同世界内で聖処女と交戦中です」

(「聖処女」とは中々言い得ているわね。)

「ならば私達は、観戦するだけで大丈夫?時間が彼の英雄に勝利をもたらす?」

「現在の状況において、彼の英雄は自身の勝利確率を10%以下と試算しています」

「————はい?」

と、私思わず聞き返してしまいました。彼の英雄は論理的に最も強い人格である————はずだし、論理ロジックを無効化した他の人格と争っても彼の英雄の人格が勝利する————、と勝手に決めつけていました。ただ、ここにおいて、彼の英雄に限っては決してあり得ない、と考えていた一つの仮説が私の脳裏を過りました。

「今すぐ聖処女の精神世界に精神潜航ダイブを開始する。案内して」

「かしこまりました」

私は魔法使いの案内に従い、彼女の精神へとさらに深く潜航を開始しました————


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