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「では、彼の英雄の魔術世界の世界が滅びそうなので、私と恋人に為れますか」
と、私はあえて朗らかに提案する。あくまでそれは振りに過ぎないのだが。
「・・・・・・其女は異常です。頭がおかしいのではありませんか」
(大国一つを滅ぼした貴女にだけは言われたくないわよ!)
と、内心盛大に反論したくなる衝動を抑え、
「まあ、客観的に、私は異常でしょうね。魔法使いですし、ろくでなしで人でなしですし、女の子しか愛せない女ですから。私は私自身をどう言い繕おうとも、異常者だと思います。でもそれが何だと言うのですか? 私が異常者であることが、貴女に恋をして、恋人に為りたいと欲し、貴女の心身に触れたいと希求する意思決定に何の影響を及ぼすのですか?」
私は彼女の胸を強く握り、掌で乳首を愛撫してあげる。
「・・・・・・何故、私なのですか?」
と、彼女が尋ねる。
(この聞き方は前にも、聞いたわね)
幾度となく彼の英雄が尋ねる言葉。きっと、彼女にとっても、彼の英雄にとっても重要な意味を持つ言葉。
私はその言葉を記憶にタグ付けし、
「私としては、好意を抱くのは、各々の人の勝手な嗜好に過ぎない、と考えています。つまり趣味です。だから、貴女を好きに為る人も居れば、嫌いになる人も居る。全く関心を示さない人も居ると思います。性愛対象として貴女を見做す人も居れば、そうでない人も居る。私は偶々、貴女を好きに為り、性愛対象として見做しているだけです」
私は彼の英雄の乳房を少し強く愛撫してあげる。彼女は、んっ、と喘ぎました。
(こう言う反応が普段から出来れば可愛いのに)
「では、何故、其女は私が好きなのですか?」
「理由を挙げればきりはありませんが、少なくとも、私の魔術で手足の自由を奪われ、乳房を揉んであげただけで感じる貴女はとても可愛いです」
彼女は私が乳房を愛撫する都度に、苦しそうに喘ぐ。その声が私には心地良い。
「可愛いから、好きに為る。好きに為ったから、恋人に為りたい。もっと貴女のことを知りたいし、治療ではない性行為だってしたい。仮に技術的に可能なら、貴女と子作りして、子供を産ませたいし、私も貴女の子を産みたい。私の論理におかしな点はありますか?」
私は一度愛撫を止めて、彼女の答えを待つ。彼女は胸を上下させて呼吸したまま、何も答えませんでした。
「————それとも、貴女はこう言いたかったのですか? 『一般的に、私を女の子として、恋愛対象として、性愛対象として私を見做すのは間違っている』、と」
「そう、です」
と、彼女は息も絶え絶えに答え始める。
「私は、一般的に、魅力的な女性とは言い難いです。暴力的で、愛想もない。容姿だって優れている訳ではありません。しかもまもなく死にます。それに私は女として期待される役割を果たせない。だから、誰も私とは恋愛しないし、するべきではない。其女を含め、私以上に恋愛対象としても性愛対象としても魅力的な女性が沢山居るのだから」
(はああああああああああああああああああああ!?)
私は、彼女の認知的欠陥を今すぐ罵倒したい衝動に駆られたが、それを寸前のところで押さえ付けた。
右手で頭を抱えると、血管が破裂しそうになっていた。
————私と、貴女の弟子と、全世界の女性全てに今すぐ謝罪して下さい————
と、言いそうになるのを何とかこらえる。
「客観的事実を申し上げると、貴女は容姿も身体も、まあ性格は少しどころか相当難ありかも知れませんが、少なくとも外見だけなら、間違いなく最上級に魅力的ですよ。というか少なくとも、旅の最中に貴女以上に魅力的な方と出逢ったことなんて一度も無かったでしょう。少なくとも私はそう思いますが」
と、私は何とか言葉を捻り出すが、血管が破裂しそうだった。そして心臓の鼓動が早くなった。
(どういう自己評価したら、自分が魅力的でない、という結論に至るのよ! もっと詳しく知りたく為ったじゃないの!)
と、私の恋がより高まる気配を感じた。この期に及んで、彼の英雄の無意識は私を飽きさせないし、より好きにさせてくれる。解体すればするほど、魅力が無限に溢れ出す無限の泉みたい、と思いました。
「それは、其女が私に恋をしているからです。その恋心が貴女の認知を狂わせている可能性の方が高い」
と、恋愛に関する至極真っ当な事実を指摘する。
「否定はしませんが、一方で私がかなり選り好み激しい上に、浮気性なのもご存知でしょう。一途に一人の女の子を愛し続けることなんてほとんど無かったのは貴女も見てきた通りです。そんな私がずっと恋心を喪わずに一途になれるのは今のところ貴女だけです。この事実だけでも、貴女は十分に魅力的だと判断できませんか」
彼女は言葉を詰まらせ、黙考する。
「まあ、誰が、何と言おうとも、少なくとも私だけは、貴女の事が可愛くて、綺麗な人だと思っています。とても魅力的で興味を惹かれます。最初に出逢った時からそうお伝えしてきましたし、今だってその思いに変わりはありませんよ。だから、一般的に、貴女が魅力的ではない、という貴女の論理は私という反例一つで覆ります」
と、私は指摘する。
「それは、其女が異常だからです。例外の一つを以て私が女の子として、恋愛対象として、性愛対象として十分に魅力的である、という結論を下す訳にはいきません」
と、彼女は反論するが、私は、
「では、一つだけ約束しましょう。私は異常者なので、例外として処理するのも良いですが、貴女が王宮を出るまでに、貴女に好意を伝え、女の子として、恋愛対象として、性愛対象として魅力的であるという告白を受けたら、貴女の『一般的に、私を女の子として、恋愛対象として、性愛対象として私を見做すのは間違っている』という論理は放棄していただけますか?」
と、尋ねる。彼女は暫く黙考した後、
「分かりました。誰かが私に好意を伝え、女の子として、恋愛対象として、性愛対象として魅力的であるという旨の告白を受けた場合には、『私を女の子として、恋愛対象として、性愛対象として私を見做すのは間違っている』、という論理を放棄します。最も、私がこの城を出るまでに出逢う方は片手で数えられる程ですので、その内に私に好意を寄せている方がいらっしゃるとは思いませんし、この約束が成就することはないと思います」
と、答えました。
「約束、違えないで下さいね」
(本当に、哀れな子。魔法使いの約束なんて、発生確率無視して大体ろくでもない運命を引き寄せるというのに。)
と内心これから起きる出来事の結果を不憫に思いながら、一方で、論理の破綻は時間の問題であると確信した。仕込みはすでに完了しているし、準備も整っているから私の出番はない。
この防御機構にはもう用はない。時が解決する。