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最後の治療  作者: 朽木 花織
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「・・・・・・キスする度に、一々噛みつくの止めていただけませんか?」

と、私は彼女に文句をつける。

一方で、彼女は蕩けた表情のまま、放心し、涙を流していました。

「レイプ魔。人でなし」

と彼女は泣きながら小声で文句を言うが、私は、

「こんなんでも貴女は弱るんですね。でもね、時間が最も不足しているんです。このまま放置すると彼の英雄の身体は目的を果たすこともなく死にます。私はそれを看過できないんです。いい加減にその事実を解って下さい」

と、私は自己正当化する。胸で呼吸をしていた彼女がやっと口を開き、

「貴女は、滅茶苦茶です。理解不能です」

と、胸を上下させる。それが少しだけ扇情的でした。

「しかし、私は私自身の非合理性と、向き合います。だから、これ以上乱暴しないで下さい。貴女に対する殺意がこれ以上制御出来なくなる」

「それはそれで願ったり叶ったりの展開です。人でなしが一人死に、世界に平和が訪れますから」

落ち行きを取り戻した彼女は、

「私は其女のそういう所が大嫌いです。呼吸するように他者を追い詰め、其女自身に都合の良い意思決定に誘導する。一見、相手に選択を委ねているように見えて、その実、どちらを選んでも其女の望む結果となるように仕組まれている。そして全ては仕方のない事だと、私も、其女自身さえも納得させてみせる。その悪辣な合理化と誘導こそが其女が人でなしの思考を有している証左です」

と言い放ちました。私は、

「貴女の御託は結構です。私はこの人でなし故の思考で自身の心身も、貴女を含めた旅の仲間達を守護しました。そして王国を、帝国を、そして世界を救済したと自負しています。これで聞き納めになるかも知れませんが、私の人でなし特有の悪辣な質問を貴女にします。ここで、治療を終了しますか? それとも治療を続けますか? 前者を選んだ場合、貴女のパスの修復は中止します。彼の英雄の旅はきっと失敗に終わることでしょう。それは貴女という人格が彼の英雄を殺す決断をしたことを意味します。後者を選んだ場合、私の質問に正直に答えてもらうことを意味します。また、多少痛みと不快な行為に身を委ねてもらいます。それが最終的に彼の英雄の身体を延命し、旅を完遂する可能性を改善します。貴女の決断により、彼の英雄が目的を達成する可能性を高めることに繋がるのです。どちらを選択するかの選択は最終的には貴女にあります」

と、私は心底意地の悪い質問する。彼の英雄の使命を人質に取り、間の回答のない悪辣な誘導を仕掛けているのですから。でも、今はその覚悟を持って治療に応じて貰わなければ為らない————

「本当に、貴女は人でなしで、ろくでなしです。自由を得たら真っ先に殺します。本当に貴女の事は大っ嫌い」

(最後の言葉が一番傷つくわね。)

「私の治療を続けて下さい。私という論理ロジックを破り、防御機構セキュリティを無効化し、私を分析して下さい。私に答えられることであれば、可能な限り正直に回答します」

「今のところはそれで十分です」

「首尾良く私の防御機構セキュリティを破ることが出来たのなら、今晩だけは、貴女の恋人に為ります。これは、統合人格たる彼の英雄の意思です。しかし論理ロジックを壊せなければそれもありません」

(ここに来て大きく出ましたね。でもこれなら届くかも知れない。)

と内心感心しつつ、

「その約束、違えないで下さい」

「二言はありません」

落ち着きを取り戻した彼女は精悍に答えました。

(私にも報酬があると、やる気が出るものね。元から本気だけど)

私は内心ほくそ笑む。

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