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第四話(c)神格化した者達の翳り

色欲のアシッドと三人がぶつかりあうことで、戦況にも変化が生じる。ヒュージスライム達の動きが鈍り始め、通常のスライムは形を保てずに核だけを残して地面へと吸収されていく。司令塔である色欲のアシッドが自身の力を行使する度に幾多のスライム達が消滅していくようだ。これを好機とみた各師団の中隊長達は兵士達を鼓舞し、奮起させていく。

 「ようやっと佳境といったとこかねぇ。こっちも無尽蔵に魔力使えるわけじゃぁないんでちゃっちゃと倒しちゃって。」

 気だるげに魔法陣から土の塊をヒュージスライムやダークエルフの方へ放つオーキッド。魔法を放った後へ兵士達が別々の魔法を使って核を攻撃する。横目で甲高い剣戟が響きあうとこを見ながら。

 オーキッドが生み出した起伏が激しい地形を利用しながら紫閃の剣姫とリン・シューリンギアは互いの得物でかちあう。剣姫が着地した部分にリンが澱みで形成した針山を出現させるが、いち早く気付いた剣姫が最小限で避け、針山を板剣で一蹴する。

 「そんな薄い剣でよくあたしと斬り合えるわねぇ!」

 鋏の形状をするリンの得物は剣姫の板剣を寸断せんと接近する。が、剣姫の周囲が歪曲するほどの紫の雷が漂い始める為、リンも仕方なく後退する。

 「隙があれば雷が自衛機能を保つとか。とんだ化け物ね。あなた。」

 澱みを針へと形成して剣姫へとぶつける。剣姫は針を切り落としながらリンへ幾つもの斬撃を繰り返す。冷や汗一つ、リンも鋏を双剣に切り替えながら応戦する。剣同士が触れる度に僅かな電気が伝わるのか、リンの筋肉が若干の痙攣、得物の持ち手部分の軽い火傷が増えていく。

 「くぅ……。結構相性悪いのか。あたし。」

 表情を一切変えずにただ、目の前の敵を屠る剣姫の瞳は更に輝きを増している。逆にリンの表情は愉快な表情から徐々に瞳孔から光が失いつつある。

 「……。」

 剣姫は生死を賭けた闘いだというのに、内心このぶつかりあいに高揚感を覚えていた。兵士たちの訓練でもここまで剣戟を交じり続けていられるのは義父でもあるゲラルドぐらいであるし、容姿は自分と近い年齢の女の子だ。初めて全力をぶつけれる同等の相手なのかもしれないと、期待の眼差しをしながら板剣を振るい続ける。そんな期待に満ち満ちた剣姫とは裏腹に、リンは内心めんどくさくなってきたと感じ始めた。電気の所為で筋肉が痙攣を起こすので、澱みを消費して筋肉を縛り、持ち手の火傷を修復する為に澱みで形成した皮膚をくっつけるのを繰り返す。剣を受ける度に澱みを貫いて電気を浴びるのでこれの繰り返し。ジリ貧なのは間違いない。まぁ、少なくとも時間稼ぎにはなっているはずなので後はアシッドに丸投げしちゃって丸焦げしろ、とも考える。妖精樹林で掬い取った澱みにも限りがある。故に、次の一手でここを離散するべきと判断し、澱みを纏った鋏で板剣を受け止めて、剣姫の横っ腹に思い切り蹴りを放つ。思いもよらない攻撃に剣姫も対応が遅れ、もろに蹴りを食らい隆起した土壁に激突して土煙を上げた。

 「はぁ……はぁ、これでおわす!」

 閉じた鋏を掲げ、身体に纏わりつく澱みを一点に集中させて黒い球体を形成し、身体を思い切り回旋して、球体を剣姫へと放つ。リンから離れた球体は膨張を始め、周囲の土壁を削げ落としながら接近し始める。

 「……。」

 土煙の中、剣姫は板剣を懐に収めて構える。黒い球体が迫るにつれ周囲に暴風が吹き荒れる。紫の髪が振り乱れるが、剣姫は目を逸らさずに球体を見つめる。傍から見れば目に土が入れば痛いじゃすまなそうな様子だが、土が剣姫に触れる前に周囲の電気が弾くので集中していられるのだ。球体が目の前に迫る。その寸で、板剣を引き抜く。黒い球体に一閃、剣姫を避けるようにして切り開かれた球体は風に撒かれた霧のように散り散りとなっていった。その始まりと終わりを一瞥したリンは達観してしまい、鋏に寄りかかって溜息を吐いた。

 「はぁ……、神格化してなくてもこんな化け物じみたやつはごろっごろいるんだなぁ。勉強になったよ。」

 この機を逃さずに剣姫は距離を縮めて横凪ぎを繰り出す。が、リンの身体に触れる寸前に鋏と一緒に黒い靄へと変化して、剣風に搔き消された。リンの声が風の中に響く。

 「次はもっと万全にして挑むからな!それまで誰かにやられるんじゃないよ!!」

 黒い粒子は剣姫を通り過ぎて、空へと立ち上っていった。

 「……。」

 髪に絡まった埃を梳き、板剣を懐へと収めて踵を返した。いつもと変わらない無表情な剣姫だったが、再戦を望む敵に期待を込めて僅かに頬を上気させた。


 「おらぁ!!」

 甲高い銃声が響き渡る無限山脈の麓。色欲のアシッドこと、シドが三人に向けて多くの銃弾をばら撒く。だが、それは相手に対して致命傷を負わせるような狙いではなく、地面へと打ち続けている。足に当たらないようにゲラルド、アレク、シグは止まらないように拡散する。

 「アレク!」

 「おうよ!てめぇの狙いは読めてるぜ!おおおおらあああああ!!」

 熱操作にて地面の温度を各段に上げて、撃ち込まれた弾丸に熱を浸透させる。すると、撃ち込まれた弾丸がゲル状へと変化し、やがて地面へと吸収されていった。弾丸はシドの一部が変化したものであり、トラップとしての役割をしていたようだ。

 「むん!」

 ゲラルドは急接近して大剣の刀身をぶつける。派手に水が弾ける音と金属音が響くが、シドはひるまずに銃口をゲラルドに向ける。そこへシグが二人の間へ氷の壁を形成する。ゲラルドは距離を置き、シドの拳銃は氷に奪われた。舌打ちをし、ゲル状の鎌で氷を割き、そのままシグを覆うように粘膜の網を頭上へ拡げた。細剣を構えたシグは剣先に冷気を集めて粘膜の網へと放ち、網を凍らせた。更に、アレクが熱操作で生み出しておいた熱球をぶつける。急激な温度変化に辺り一面に爆発が起き、アレクとシグは腕を構えて耐え、ゲラルドは爆風の中を搔い潜り、シドへと追撃をする。爆風に呑まれたシドは耐えれはするも、ゲラルドの姿を視認した為、地面へと姿を沈み込ませた。

 「隠れはせぬぞ!!」

 大剣を大きく振りかざし、地面へと叩きつける。爆風にも劣らない衝撃波が地下深くまで伝播し、ここら一帯の地面に亀裂を生みだした。

 「とんだ馬鹿力だなぁおい。」

 「それでこそ四方騎士の団長でもある。」

 地面の亀裂から無数の棘が生み出され始める。三人を的確に狙ったものであり、三人とも得物で回避し続ける。

 「いい加減くたばっちまえや!!」

 地面からシドが現れ、アレクへと純水の飛沫を繰り出す。脳内を掠めたあの時の攻撃。体中の水分を瞬時に奪われた攻撃に身震いが起きて、目を閉じてしまった。

 「(しまった!)」

 もろに食らってしまったのではと感じたアレクだったが、ゆっくりと目を開けると目の前には龍種の波紋ドラゴニック・ドライブを発動したシグがいた。純水の飛沫が空中で冷気に当てられて氷の玉となって地面に転がる。

 「ビビるとか、お前らしくもない。」

 「う、うっせ!トラウマものなんだよ!」

 「ちぃ……。ぐっ!」

 シドが舌打ちをすると同時にゲラルドが後ろから斬りかかり、シドの核へ疵を付けた。確実なダメージを受けたシドが口から体液を零し、身体からアサルトライフルを乱射する。

 「ああああああ!うざってええ!!とっとと死んでわびろやごらぁああ!!」

 乱射された弾丸は地面、樹木へと突き刺さり、形状を変えて物質を溶かし始めていく。すぐさまアレクも龍種の波紋を展開して熱操作で蒸発させようと試みる。が、熱操作で拡大させた範囲よりも広範囲に乱射された為に全てを消すことが出来ない。

 「範囲が広すぎる!」

 「これは流石に目の前では凍らせられない。」

 アレクとシグが見たのは黒い液体が山や地面を削り取り、うねりを持った巨大な波であった。

 「アシッドウェポン……『硫波アシッドウェイヴ』!!」

 黒い波が四方八方から三人を吞み込まんとひっ迫する。流石のアレクとシグもたじろぐがゲラルドだけは違っていた。明らかに自身を容易く呑み、己の糧とする為、怨恨を晴らすために放たれたスライムという魔法生物…………の攻撃であった。となれば、やることは一つ。己のオリジナル魔法で攻撃を防ぐだけであった。地面に大剣を突き刺して、白い魔法陣を展開した。

 「はーっはっはっは!血迷ったか!そんな魔法陣程度で俺が倒せる訳ねぇえだろうが!」

 「あらゆる事象を遮断し、我らを危機から隔絶せよ。」

 「死ねええええええ!!」

 「エリア・キャンセル」

 一陣の風が上空へと舞い上がると同時にゲラルドは黒い波に吞まれていった。ほくそ笑みながらシドはホルダーに身体の一部を詰め込み始める。が、甲高い音が響くと、シドの表情は一変した。黒い波は幾重にも重なってゲラルド達を食らい続ける肉食魚のようになっているが、ある程度になると勢いを無くした波が蒸発していっている。よく目を見張ると、黒い波の中に干渉していない透明な円柱が聳え立っていた。その中心には青筋を立てているゲラルドがおり、他の二人も無傷でいた。更に、二人は龍種の波紋を展開して、次の一撃を構えていた。

 「一瞬で決めるぞ!シグ!合わせろや!」

 「黙って集中してろ。これで、決める!」

 「合図かましてんじゃねえぞ!」

 アレクは拳を突き出し、シグは氷の矢を放つ。極められた二つの魔力が重なり、一閃の熱線と化す頃には、シドにぶつかり、身体が崩壊していった。

 「がっ、がああああ!?」

 逃げる術を考えることなく完膚なきまでにシドは圧倒されて姿を消した。リボルバーや身体に隠していた銃器も同様に銃身が破壊され、熱線が引いた後にバラバラになっていた。

 魔法陣の展開が終わり、ゲラルドの身体に食い込んだ魔石が光を瞬かせる。

 「すっげーっすわ!隊長!」

 「あの機転がなければ我々は負けてしまっていたかもしれません。感謝いたします。」

 「ふふ、わしはこれだけでしかできんからな。お前たちも、龍種の波紋をそこまで極めていたのだな。」

 「ったりまえじゃないっすか!あいつには苦汁を飲まされたんすから。いや、吸われたの間違いか?」

 「不服ですが、あの時の僕は環境に適応出来ていなかっただけですから、決してやつに劣ってはいなかったですよ。」

 互いを謙虚しつつも誇る二人の成長を首肯しながら戦う前に姿を消した王の消息を心配するゲラルドだったのだ。

第四話(c)を読んでくださりありがとうございます。作者のKANです。

更新定期といいつつも、約5か月ぶりの更新ということで、頭の中のものをPCに移す時間が遠のいていきスランプに陥りつつもあるのかなぁと感じています。

 さて、一旦エイレーネのお話は区切らせてもらい、次はエレボスのお話となります。今後のお話の展開に期待しつつお待ちください。

 最近の悩みですが、新しいノートパソコンを買ったはいいものの残像が多すぎて書こうにもイライラしております。画面の点滅もあるためか手が伸びないというのが悩みです。まぁ、修理に出せばいいだけなのですがね。

 では、次回のあとがきでおあいしましょう。ではでは...

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