第四話(b)再戦、色欲のアシッド
ジェン・ヨウ率いるノーグが宣戦布告した後、貿易都市ゲン・ガンで起きた暴動の後、エイレーネ地方では大量のスライムの襲撃が始まった。エイレーネ軍はこれを迎撃。その際、第三師団の紫閃の剣姫が神格化した魔女、リン・シューリンギアと対峙する。激戦の合間をぬってカイル達は山へと向かっていった。
「将軍、ここは私と第三が対応し、第一、第二はダークエルフの対処に専念して、少数精鋭で山へ行って。」
紫閃の剣姫がゲラルド達の前に立ち剣を構える。構えたと同時にリン・シューリンギアの得物が剣に被さり火花を散らした。
「ふぅん?あのちいちゃいハーフリングよりかは骨がありそうじゃん。楽しもうじゃん!」
剣姫が振り払うと同時に電撃を一閃。剣姫の視界に収まるダークエルフやリンに横凪ぎの電撃が走り、ダークエルフ達は悲鳴と共に黒焦げになって絶命する。リンは黒い靄で受け流して電撃のダメージをものともしていないようだった。
「今。」
「……第一、第二師団!これより剣姫様の指揮の元、ダークエルフ達の迎撃にあたる!かかれぇ!」
師団の真ん中に点在する中隊長らしき人物達が号令をする。兵士達はダークエルフ達へと突き進む。
「剣姫、無理をするんじゃないぞ!」
リンと対峙しながら左手で親指を立てる剣姫。カイル王とアレク、シグ、ゲラルドは開けたダークエルフ達の間をすり抜けて山へと向かっていった。
「……。」
「ん?何よ。」
「意図的に見逃した?」
「ん、ん~そうね。ジェン・ヨウがそう仕向けたと思えばいいよ。ってことで、楽しませてよね!」
第三師団と神格化した者が衝突する中、後方は未だに地面から無限に湧き出ているスライムとの攻防を繰り広げていた。襲い掛かるスライムが宙を舞う瞬間に魔導士達が氷魔法を使用し、ゲル状の体を凍てつかせ、核ごと得物で切り伏せるといった応酬が至る所で発生し、エイレーネ側が優勢となりつつあった。山脈に近づきつつあるカイルが率いる隊は神格化した者との衝突を避けて突き進み始める。道中に湧いて出たスライムをアレクは熱気を纏った長剣を振り回して核ごとスライム達を薙ぎ払い、シグは冷気を周囲に展開し、スライムが飛び掛かる内に核の芯まで凍り付き、勝手に地面に落ちて砕けていく。
「二人はそのまま敵を王に近づけさせるな。カイル王、そのまま進み続けてくだされ。」
「だが、」
「カイル!気にすることないぜ、どうせすぐ追いつくからよ!」
「敵はあの少女だけじゃないのはわかっている。僕たちは追手が追加される前に山に入ってた方がいい。」
「アレク、シグ。カイル王の護衛は任せたぞ。」
戦線を抜けた先、崩壊した村を通り過ぎ、漸く夢幻山脈の麓へと辿り着いた。カイル達が生まれる遥か前からこの大陸にあり、誰もが必ず目に留める荘厳な印象がある山脈。人によっては雄大で感嘆を漏らしてしまう者がいるが、山を訪れたことのある者は度々こう嘯く。
「山に呑まれる、というのは嘘ではなさそうだ……。」
麓から見上げる山脈は一部だけでもエイレーネ地方にあるヘパイストスの火事場の山と比較にならない程大きい。城の蔵書にある山脈の情報によれば、巨大な山に関わらず、活火山ではないという。溶岩が冷えて固まったという説に異を唱える根拠というのは地質的に鉱物が火山に出土するものが見受けられず、全ての鉱物は高純度な魔鉱石で形成されているのである。というのも遥か昔、エレボスとエイレーネの土地は分裂していた。神話に連なる竜神と冥神の対立によって地表は荒れ、神に眷属する者たち以外は生きていけない土地であった。そこに、両者の間に割って顕れたのは女神であった。女神は両者の神を諫め、大陸同士をぶつけ合った。競り上がったエレボスの土地は山脈を形成された後、大きな空洞が形成された。持ち堪えたエイレーネの土地は引き換えに激しい熱を後方へと逃がした。それが後に呼称されるヘパイストスの火事場と大空洞アレポトリパである。
本来エレボス地方の地下に眠る高純度な魔鉱石が宿る山脈の地質なだけに、強力な魔物の出現や自然現象が度々発生するが、魔物に関する被害はカイルが生まれてから成人と呼ばれる年齢に達するまではピタリと止んでいた。以前発生した強力なスライムの出現を除いては。
「ん……?」
と、一行が入山しようとした瞬間、近くの樹林にキラリと何かが煌めいた。次の瞬間。
ドンッっと音を立てて地面に拳ほどの穴が空いた。ゲラルドがカイルの前に立ち、大剣を構える。
樹から誰かが降りてくる音と金属音がガチャリと立ち、陰から現れた人物というのは件の魔物であった。
「……おう、邪魔するぜ。」
神格化したスライム、エレボス地方にある監獄バスティーユの監獄獣であった色欲のアシッド。枝垂れかかる長髪の隙間からギラリと光る双眸。漸く出番かと、待機に焦がれた獰猛な番犬のようなしたり顔にこもった声で呟く。
「やはり、お前だったのか。色欲のアシッド。」
「あぁ?俺はてめぇを知らねぇがどっかのお偉いやつだってのは見てくれでわかるわ。てめぇだけは通せってあいつに言われてんだわ。」
「……。」
アシッドがカイルに言われた事を思考する。最初から目的はカイルだけであり、他は眼中にないということ。自分だけが目的という根拠は幾つもの案が浮かんだが、大陸中を敵に回すほどの宣誓をしたのだ。エレボスに有利な条件での降伏か?はたまた助力の申し込みか?いずれにしろ、アシッドが従っているということはその通りにして通るべきだろう。仲間を置いていくことに後ろめたいことがあるわけだが。
「行ってくだされ、王よ。我らはここで帰還をお待ちしております故。」
「いってこいカイル。なぁに、あの時みたいなヘマはしねぇって!」
「はぁ……。カイル王、あなたの帰還をお待ちしています。」
三人に後押しされ、小さく頷きを返す。ゲラルドの横を通り過ぎ、アシッドの前まで近付く。
「わかった。その言葉を信じよう。」
「おう。」
素っ気ない態度をするアシッドを横目に進み始めるカイル。すると、アシッドを通り過ぎた暫く後に、光が瞬くとカイルの姿が消えてしまった。
「さぁて!」
どこからか取り出した拳銃とアサルトライフルを両手に携え、三人の方へ銃口を交差して向ける。
「あいつは気に食わねぇが、てめぇらをぶっ殺したら後ろの奴らもぶっ殺していいって言われてんだわ。そこだけは認めてやる。」
アシッドの周囲をどす黒いオーラが溢れ始める。既に臨戦態勢を整えた三人もそれぞれの魔法特有のオーラが溢れる。
「これはてめぇらに対する感謝でもある。あの日の復讐を成就させてくれるんだからよ。なぁああ!!」
第四話(b)を読んでくださりありがとうございます。作者のKANです。初めましての方は初めまして。
明けましておめでとうございます。今年もゆるぅくよろしくお願いします。新年の挨拶が大分遅れてしまったのは申し訳ありません。まぁ、いろいろあるのですよ、ええ。
さて、今現在私はというと年が一つ増えましてアラサー(仮)という所までに至りました。これからもゆるくやっていきますので、更新頻度も然程長くはならないかと思いたいです。ほんとに。
あと、今現在更新しているこちらのお話。シリーズを通して大分続いている作品でもありますが、この作品の他にも新たな試みということで新規の物語を考えていこうと思います。その作品はなろうとは別のサイトに載せようかなと思いますがそちらもよろしくお願いしていただけると嬉しいです。嘗てのサイトでは結構勢いで書いていたものですが、0から始める小説世界の構築というのは難儀なもので、つくづく著名な作家様達の世界構築に凄いの一言ですよ。そして、ネタ的なものは結構何番煎じ的なニュアンスも多いのがあるのも事実。私もあやかる所はあやかりますので。やっぱチート能力って一長は考えやすく一短は考えづらいですね。考えさせられます。
では、今回はここまで。また次のお話のあとがきで、ではではノシ