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第三話(a)「始まりの警笛」

 交易都市ゲン・ガンに言い渡された二国からの書状が都市長へと届いた。恐る恐るまず目を通したのはエレボスからであった。内容はゲン・ガンから武器商人の斡旋であった。魔鋼を鍛造する人物を兼用する商人は幾らかいるようで既にリストアップされており、抜け目がないことが分かる。エイレーネの書状には斡旋のような内容は記載されておらず、代わりに国を離れる避難民への融通を利かせて欲しいというものであった。詰まる所、エレボスから避難民への配慮をせずに優先して保護を求めている、ということと解釈した。溜め息を一つ吐き、スピゼスティーを一口煽り、目の前の要人たちに声を掛ける。

 「魔導技術科代理顧問アレソン氏。これらの内容は重鎮達は無論、王も理解があっての話ですかな。」

 「僕はただゲン・ガンにあの魔鋼装置を運んできただけであって、この件には関与していないから分からないよ。」

 フランクに突き放して黒革ソファに深々と座る。ここは、ゲン・ガンの中枢にあるギルドの一室であり、都市長はここの総合組合長グランドギルドマスターでもあった。とはいっても都市長室は要人を迎える用のソファを二つと間を挟む長机、そして都市長が座る机があるだけの簡素な部屋であった。そのソファに座るアレソンの向こうには煉と弄が座っていた。

 「ふぅむ……。それで、煉は何故このタイミングでギルドに戻って来た。」

 「選定者ジェン・ヨウのお達し、とだけ応えさせていただきます。」

 浅く座り両手を組む煉。見据えるは不遜な態度を取るアレソンにだった。気になったアレソンも口を開く。

 「君……煉とか言ったっけ。あの映像では君達もいたような気がするんだけど、瞬間移動みたいな能力でも持ってんの?」

 「いや、ジェン・ヨウが映像に映してたのは幻覚に過ぎない。」

 「ふぅん……そっか、でだよ?そっちの女の子は?」

 ローパーに頼んでおいたフレンチトーストとスピゼスティ―を楽しんでいた弄が、初めてアレソンに目を向けた。ギラギラと光る紅い瞳に僅かに動揺するアレソンの顔が映っている。獲物を見据えるような視線を向けられれば多少の感情が揺れ動くの致し方ないが、アレソンが感じた物はそれ以上にこの少女に敵意を見せてはならないという恐怖であった。煉ははぁと一息吐いて弄の視線を一瞬逸らす。すると、アレソンの恐怖が嘘のように消えた。

 「お嬢様、威嚇する行為は止めてください。」

 「なんじゃ、わしの食事を邪魔したエルフを庇うつもりか。」

 「そうではありません。お嬢様の気が触れれば忽ちこの場が荒れてしまうので止めたまでです。何れ訪れた時にお願いいたします。」

 「ふん……そこのエルフ。命拾いしたの。」

 「あ、あぁ……。」

 「(相変わらず煉は苦労していそうだな……はぁ、にしても訪れた時というのが妙に引っ掛かるが……)」

 と、扉をノックする音が聴こえたので入室の許可をする都市長。失礼と一言述べて入って来たのはローパーであった。

 「都市長、都内で争いが起きているようですぜ。」

 「何故急いで報告しない。」

 「たった今入った情報なんですよ。なんでも、テスティア教を騙る犯罪集団だとか……これは、俺も許せない案件ですぜ。」

 ローパーの能力はテスティアを信仰しての力であり、信仰対象を穢されては怒り心頭であろう。握りしめる拳が更に引き締まる。しかし、都合が良すぎる。都市長は険しい顔をしてソファに座る要人に尋ねる。

 「このままではエレボス側の要望を応えるのも難しくなるだろう。アレソン氏、力を貸していただけないだろうか。煉とそこのお嬢さんも。」

 「んぐっ……。恐らくあるじはこれを予期してここに遣わしたのであろうな。貴様に言われるまでもないが、協力しようではないか。この神狼の魔女、弄がの。」

 口元に付いたバターを拭って意気揚々と弄は立ち上がり、部屋から颯爽と飛び出し、後を追うように煉も立ち上がり、三人に一礼をする。

 「……じゃあ、私もいかせてもらうよ。今の騒ぎがエレボスにも影響するかもしれないからさ。」

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