第一話「淘汰宣言」
合流都市ゲン・ガンにて。魔国エレボスより輸入された品が人々の憩いの広場に設置された。見た目は丸みを帯びた水晶であるが、エレボスには宝石をあしらったものは殆ど生産されず、代わりに魔力を帯びた鉱石が発掘されるため、その水晶も魔鋼で創られたものであることが分かる。ゲン・ガンに住まう人々は物珍しそうに眺める。
「ゲン・ガンに住まう、または商う人々よ!これなるは魔国で秘密裏に開発されてきた通信装置である!」
声高々に荒げるのは銀髪碧眼のエルフ、アレソン。魔国エレボスにて魔導機械科に所属する重鎮の一人。
「一方的ではあるが、宙にとある場所の絵が映し出される。しかと、見届けるように。」
アレソンが指示を出して、兵士の一人が装置に魔力を送り始める。すると、魔鋼に魔力が纏われ一点から光が射出され、空中に長方形の板を出現させた。板はザァーザァーと鳴った後、ある場所を二つ映し出した。
「あ、あれって……カイル王か?」
「ヤマル王もいるぞ!それに重鎮達や四方騎士まで!まさか、あの噂って……。」
人々がどよめく中、制作に携わったアレソンはふふん、と鼻を鳴らして一人勝ち誇るのだった。
魔国エレボスの玉座の間、王位継承したヤマル王はエイレーネのカイル王へとある話を持ち掛けた。それぞれが思う国の在り方とその先を。
「(通信装置の感度は良好のようだ。これも、エイレーネに対しての牽制のつもりだけど、流石にカイルも分かっているはずだろうね)」
通信技術を開発したということは戦場でもかなり有利に事を運ぶことが可能になり、作戦内容なども詳らか説明できるようになる。が、この状況を理解しているのかは分からないが、画面越しのカイル王は平然とした出で立ちでヤマルを見つめている。
開口一番、カイル王が言葉を発する。
「久し振りの会合快く思う、ヤマル・ヘイルダム・エレボス5世。」
「久し振りだね。ヤマル・エルガー・エイレーネ5世。早速だけど、単刀直入に言わせてもらう。」
甲冑に身を包んだ褐色肌のアマゾネス、リベリアが前に出て羊皮紙を縦に広げる。カイル達に分かる様、羊皮紙にズームアップされる。
「エイレーネには降伏宣言をしてもらいたい。此方としても兵士達の命は惜しくてね。ここに記載されている内容に相違なければ……。」
笑顔を絶やさずに流暢に話すヤマルは細めを開いてカイルの表情を見やるが、羊皮紙に書いている内容を見ようとはせずに此方をずっと監視しているようにも思える。
「(ふぅん、意外と血気盛んな所があるのかな)納得してくれたかい?」
「……ふぅ。」
ふと息を吐くと、手を上げて誰かに合図をする。すると、カイルの後ろから迸る紫の雷が一閃が走る。
「っ!」
リベリアは殺気を感じ、すぐさま羊皮紙を手放す。放した瞬間、紫電の剣閃が羊皮紙を凪いだ。紙はチリチリと悲鳴を漏らして屑へと変わった。ヤマルの表情が一変、腹に冷えた何かが通り過ぎる。
「降伏はしない。隷属もしない。であれば、双方に得がある方向で解決したい。」
「ははっ、流石というべきか。四方騎士、紫閃の剣姫。通信装置の魔力を辿ってここまで届かせるか……!」
リベリアは冷や汗と共に口角を僅かにつり上げる。ヤマルは動じずに足を組む。
「停戦がしたいような雰囲気ではないね。君は何が望みだ。」
「私だけの望みではない。それは君も同じだろう。道化師。」
周りがどよめく。王を道化師と貶す事自体、不敬に当たる。ましてや、それが王自らが言うのであれば、そういう事だ。
「……裡なる望みが同じだと?それが僕と同じ……。」
小声で吐き漏らすヤマルは次第に表情が暗くなる。ハイプラントのリーベスが心配そうに見つめる。
「狂言も大概にしてくれ。ここに通信装置が来た時点で、我等は既に決しているのだ。」
カイルの顔からズームアウトされ、全体を映し出した。身を甲冑に着込んだ兵士達、魔導兵器を携えた者、馬に騎乗した者、それは最早、この会合自体が狼煙の合図でもあるかのような出で立ち。隅には通信装置を設置した者達が拘束されているのが見える。
「宣戦布告をさせてもらう、魔国エレボスよ。これまで我等の同胞を無碍にしたことを後悔させてくれよう!」
「はっ!実験には犠牲は付き物さ。まぁ、今更それを謝罪することはしないさ。あぁ!受けてやるさ!そして、貴様ら全員を我が国の実験材料としてくれる!」
目を見開き、声高々に叫ぶヤマルをズームアウトし、エレボス側の全体が映し出される。ハイプラント思しき小さく無数の者、魔鋼の甲冑に身を包んだ物言わぬ兵士、沢山の魔導兵器とそれを御する魔導士達。此方も臨戦態勢は整っていたようだ。
「「ここに宣言する!戦争をせん……」」
と、そこで互いの画面が急に暗くなる。双方とゲン・ガンには先程の啖呵のどよめきより小さなざわつきが静寂を呑み込む。暫くした後、画面には映像が映し出されるが、それはエイレーネでもエレボスでもない別の場所を映していた。
夢幻山脈・中腹。忌み嫌われる者達の村にて、村長とその幹部らが座しては偵察要員の蜻蛉に魔鋼水晶を抱えさせて二国の映像を見ていた。天狗であるガウはイライラした表情で見やり、終鬼より鬼道道場を引き継いだ朱色の鬼、豪鬼は腕組みをして目を閉じ、ライが率いていた獣人集団を引き継いだブチ豹のレオンが目を細めて二国の兵力を観察する。奥に鎮座する長、鞍馬天狗のチウニウは無精ひげを一つに纏めるように梳いている。
「ヨウがこの塊を持ってきたかと思えば、下はこうも面白い事をしているようだなぁ。」
「して、長よ。これをどうみる。」
獣族の狒々は朗らかに呟き、多足族の長、蜈蚣の戸愚呂が口元をパクパクしながらチウニウに尋ねる。
「儂らには傍観者であるように務めるようにと言ってくれるのじゃろう。」
「ははっ、ここには血が騒いで仕方のない若衆もおる。ちと、端は齧っても良いだろう、のぅ?土竜。」
幹部たちが座する間の外側にて、灯りの影で土蜘蛛の土竜が前足二本で敬礼する。
「ははっ!しかし、我等は同胞の血を見るのをあまり好みません。畏れながら長である戸愚呂様の方針を受け入れるには難しい状況ではあります!」
「はぁ~、いつからこいつは頑固になったものか。」
「まぁまぁ、ここからヨウが面白い事を我等に魅せるのだろう?我等の手を汚すよりも己の手で汚す方がましだと思うのは長だった時も変わらないのよぉ、あの坊は。」
「それ、ヨウのお出ましだ。」
魔鋼水晶が映した映像が一瞬暗転し、再び映し始めるとそこには嘗ての村長であったジェン・ヨウの姿が在ったのだった。
「この魔鋼水晶ってどう創られているのでしょうか?私でも分からないことがまだこの世界にはあるのですねぇ。」
蜻蛉が持っている魔鋼水晶を物珍し気に見るテスティア。周りをグルグルと廻られていると流石の蜻蛉も冷や汗を流すしかない。一応、この大陸の全能を司る神様である。
「テスティア。あまり蜻蛉を困らせるものじゃないぞ?」
神託者であるジェン・ジンがたしなめる。むぅ、と頬を膨らませるテスティアに苦笑を浮かべながら選定者であるジェン・ヨウが姿を現す。
「そろそろ魔力傍受をするからティアは姿を見せないようにね。一応、この大陸の神様何だからね。」
「一応なんてひどいですよヨウ兄ちゃん!」><
ポカポカとヨウのお腹を叩くティアをなだめつつ、強烈な力で叩かれるものだからヨウも少しダメージをくらう。神様故。
「俺らはまだ出なくていいんだな?」
後ろ髪をポリポリと掻きながらのそのそと歩く黒い鬼、終鬼。その後ろに獅子の獣人のライと雪女のくノ一フロンが立っている。
「そうだね、謂えばこれは大陸に位置する二国間に第三勢力を加えての矯正措置と思ってくれればいいだけだからね。まぁ、後から蜻蛉が僕から距離を取って皆を映すから堂々としてくれていればいいよ。」
「う~何だか緊張します。」
「あら、リンさん。あんなちゃらんぽらんになるのに緊張しちゃってらっしゃるんです?なら、私印の花粉でも嗅いで激しいトリップしてキめた状態でいますか?ほれほれ。」
「や、やめてくださいイルドさん!埃がっ!」
「あぁん?私の貴重で最高品質な花粉を埃扱いだぁ?上等だぁ、そこに跪けや直に呑ませてやんよ!」
「うざい。」
「あん♪」
魔女のリンは咳き込み、ハイプラントのイルドはウザがられた巫によって頭を燃やされた。めんどくさそうにその光景を舌打ちしながらスライムのシドが呟く。
「さっさと終わらせてくんねぇか。俺はミアの所に早く戻りてぇんだ。」
「そう凄んでくれたら直ぐ終わるよ。それに、シドが望んだ事が出来るんだからこらえてね。」
「お……?ははっ!なんだよ、そんなんだったらさっさと啖呵切っちまえよ。」
「言われなくてもね……。そろそろ始めようか。」
魔鋼水晶に手を添えて、妖力と神力を加える。ザァザァと音を立てながら波長があったと思うと、二国の王が唖然とした表情を浮かべていた。
「やぁ、二国の王。それに大陸の皆、僕はジェン・ヨウ。この大陸を淘汰すべく選ばれた者だ。」
第一話を読んで下さりありがとうございます。初めましての方は初めまして、作者のKANです。
いつもよりも少しお早めの更新に私も驚きではあります(自画自賛)
更新定期はこうでありたいと思いますが、不定期で貫きますので悪しからず。
いやはや、オールスターを描くのは結構大変ですねぇ。それに、まだエイレーネの連中でまだ登場していないキャラもいますから乞うご期待下さい。
では、次回のお話のあとがきでお会いしましょう。ではノシ