プロローグ 語り手、終と始を語る
お話は間もなく終焉を迎えようとしている。どうも、最初にお話を語った語り手だ。次いで継いだ語りもこれで終わりという事。だが、それは彼等にとっては始まりに過ぎない。終わりの始まり、結果どう転んでも未来は続いていくのだからそこで終わることはない。語り手達が歩んだ様々な事象が交差する時、このお話の舞台、アーク大陸の伝説は大衆に永遠に語り継がれ、また新たな来訪者にも紡がれることだろう。
では、ここで一服。白亜の城を象った聖杯に満たすは清い水。だが、清い水とて水底に溜まる埃には目を瞑らなければ。して、此方の黒みを帯びた聖杯に満たすは搾取と発酵を重ねた赤赤しい果実酒。手に取った栄華は虚構を夢見た王の末路。腹を下す覚悟を以て喉元へと下すしかない。飾りつけは、上品とは似つかわしい粉が降り積もる大きな大きな山。さてさて、片方の聖杯を以てして、この大きな山を瓦解させて大陸を統治することが出来るのだろうか。いや、出来ない。どうやっても溶かすには足りない。溶かせないし、そのまま混ざることなく周りに水溜まりを残すことになるやもしれない。粉といっても、それは見た目だけに過ぎない。本当はそう錯覚させるように出来た滑らかな三角錐かもしれないからだ。
喉の潤いが調った所で、このお話を語るとしよう。聖国エイレーネ、魔国エレボスそれぞれの王位継承の儀が完了した数か月後の出来事を……。