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生まれてすぐ捨てられた王子の僕ですが、水神様に拾われたので結果的に幸せです。  作者: 日之影ソラ


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21.近づく距離

「一緒に暮らす?」


 僕は思わず聞き返してしまった。

 言葉の意味はちゃんと理解しているのに、その理由がわからなくて。

 すると彼女は、僕の拙い疑問に恥ずかしがりながら答える。


「そ、その、私たちってよそ者でしょ? 王都のこともよく知らないし、い、一緒にいたほうが安心できるかなって」

「安心……」

「い、嫌なら別に良いんだ。アクトは強いし何でも出来るから、一人でも平気かも……だもんな」


 尻つぼみになっていく声量。

 自信なさげに話す彼女に、僕は首を横に振る。


「平気じゃないよ」

「え?」

「一人でいるのは寂しい。誰かと話したり、一緒にいると安心できる。それが最近よくわかったんだ」

「アクト……」


 僕は夜空を見上げる。

 輝く星々の一つ一つは近く見えて遠い。

 一緒にいるようでそうじゃない。


「最初は全然平気だと思ってたんだ。友達がいなくても、一人で生きていく力はある。誰とも関わらなくたって死ぬわけじゃない。僕には母さんがいるからそれで良いって」


 だけど、実際に一人で旅をしてみて寂しさを感じた。

 孤独というものを知った。

 たった数日のことで、母さんに比べたら瞬きのような一瞬だったけど、僕は一人が寂しかった。

 いつも母さんのことを考えて、母さんの存在を思い浮かべることで、一人だという事実から意識を逸らそうとさえしていた。


「人は……大きくなれば一人でも生きていける。だけどそれは、一人で生きて何も感じないってことじゃなかった。母さんや大人の人たちは凄いよ。何年、何十年も孤独に耐えながら生きるなんて……僕には出来ない」


 どれだけ強くなっても、身体が大きくなっても、僕は寂しがりやな子供のままだ。

 情けないと笑われたって否定できない。


「……私も同じだよ」

「ミラ」


 そんな僕に彼女は同意する。

 小さく優しい声が僕の耳を揺らす。


「お母さんが倒れてから、私が頑張らなきゃって気合い入れてさ。試験だって勝手に決めて一人で家を飛び出したんだ。もう大人なんだし一人で大丈夫だって、そう思ってた。でも……」

「一人は寂しかった?」

「うん。お前と偶然会えた時は驚いたよ。当分は一人だと思ってたからさ」

「僕だってそうだよ」


 あんな場所に人がいて、しかも同じ場所を目指しているなんて偶然、早々ありはしないだろう。

 驚いたし、嬉しかった。

 彼女も同じ気持ちだったことを知る。

 だから僕は、最初の問いに答えることにした。


「出来るだけ広い部屋がいいよね」

「へ?」

「二人で使うなら、広々とした部屋じゃないと窮屈でしょ?」


 僕がそう言うと、彼女は意味を理解して表情を明るくする。

 と同時に恥ずかしそうに笑った。


「そうだな! 次行ったときに探してみようよ!」

「うん」


 正直に言うと、彼女が学園に通う気があると知ってホッとしていた。

 彼女の願いは母親の回復で、それを成し遂げた今、もう理由がないのではないかと思ったから。

 本当に彼女と出会えて良かったと思う。


  ◇◇◇


 二日後の朝。

 僕たちは玄関前に立ち、出発するミラを見送る。


「本当に送らなくて大丈夫なの?」

「うん。道はわかるし、王都までに比べたら大した距離じゃないからさ」

「それはそうだけど。僕は構わないんだよ?」

「良いんだって。ちゃんと身体も動かさないと鈍るしさ。それに学園に入学したら頻繁には帰ってこられなくなるんだぞ?」


 彼女なりの優しさを感じる。

 僕が母さんと過ごす時間を失わないようにという配慮。


「ありがとうミラ。合格発表は一緒に見よう。迎えに行くから」

「うん! 受かってると良いよな」

「受かってるさ。僕らなら」

「そうだな。じゃあまたな! 女神様も――」


 別れ際、僕たちは四人目の気配を感じ取る。

 奇しくも最初に気付いたのは僕らではなくミラだった。

 彼女の後ろに黒ずくめの何者かが立っていた。


「誰だあれ? アクトたちの知り合い?」

「いや、僕たちに知り合いは……」


 フードで隠れた顔。

 僅かに見える口の部分がニヤリと口角をあげる。


「おお、おお! なんと素晴らしい力か! 遠縁で見ても確かだったが、近くで見ると尚良い! やはり君は素晴らしい!」


 聞こえてきたのは男の声だった。

 妙に芝居がかったしゃべり方をしていて、両腕を広げ大袈裟に身振りをする。

 喜んでいるように見えるが、何を言っているのかはわからなかった。

 その疑問に答えるように、彼は指をさす。


「貴方ですよ、アクト君」

「僕?」

「そう、貴方です。貴方こそ新たなる神に相応しい!」

「神……だと?」


 予想外の一言に僕は大きく目を見開く。

 神という言葉を使って、指しているのは母さんではなく僕だった。


「……貴方は誰ですか?」

「おっと、自己紹介がまだでしたね?」


 そう言って彼はフードをとり、黒々とした髪と瞳を露にする。

 整った顔立ちに白い肌。

 一見して女性にもとれる容姿だった。


「我々は【神の代行者】、新たなる神の器を持つ者……私は【影神(えいしん)】のシャドウと申します」

「神の……代行者だと?」


 新たなる神の器とも彼は言った。

 僕はその意味がわからず、母さんの顔を見る。

 その時、母さんは悲しそうな表情を見せていた。


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