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生まれてすぐ捨てられた王子の僕ですが、水神様に拾われたので結果的に幸せです。  作者: 日之影ソラ


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18.神の奇跡

 呪いと病の違いは、根本的には一点。

 原因が魔力にあるのかどうか。

 呪いという概念が広まったのは、神々が世界を造り、人と共に生きていた頃だ。

 人間にとって自身以外の魔力を取り込むことは、毒を飲むことに等しい。

 しかし当時の人間は、神々と近い距離で生きていた所為で、現代人より魔力が濃く異質だった。

 互いに影響し合い、相性によっては共にいるだけで毒になる。

 それが呪いの始まり。


「じゃあお母さんは、誰かの魔力に影響されて?」

「それはたぶん違う。現代でそれほどの影響力を持っているのは、たぶん僕だけじゃないかな」


 そうならないように、僕は魔術を学び力を制御している。

 僕を除けば母さんだけだが、母さんは湖から外へは出られない。

 

「答えは自分の魔力だ」

「自分の? 自分の魔力にあてられたっていうのか?」

「そう。魔力って精神や意識の影響を強く受けるんだ。疲労、負の感情、ストレス……そういう要因で、魔力の性質が変化してしまうことがある」


 異質に変化した魔力は、自分自身の身体にとって毒となる。

 全身に魔力という毒が循環し、様々な状態異常を引き起こしている。

 それが今、セラさんが置かれている状況だ。


 僕は彼女を背負い、三人を引き連れて湖の跡に向った。

 道中、異変を聞きつけた村の人たちも合流して、ほぼ全員で湖に到着する。

 人が増えてくれたのは好都合だ。

 目撃者が多いほど、母さんの力は強まるだろう。

 到着した僕は、セラさんをミラに預け空っぽになっている湖へ足を進める。


「セラさんをよろしく」

「な、何するんだよ」

「準備だよ。母さんを呼ぶには、依代となる場所が必要なんだ」


 水の女神である母さんは、水のある場所でこそ力を発揮する。

 信仰が弱まった現代で、肉体を保てるのは水の付近のみ。

 加えて水は穢れなく清らかでなくてはならない。


「大きさはうちの湖より小さいけど、僕の術式で生成した水なら一時的な依代としては十分のはず」


 僕は枯れた湖の前で力強く手を組む。

 

「水霊濡法水天――」


 上空に水の幕を生成。

 そこから大量の水を降り注ぐ。


大洪波(だいこうは)!」


 巨大な滝のように流れ落ちる水が、枯れた湖の地面に衝突する。

 流れは急速に渦を巻き、瞬く間に湖を潤していく。

 その光景を見る者たちは言葉を失い、ただただじっと流れる水に見入っていた。

 

 湖が水で満たされる。


「母さん……来て」

「――アクト」


 僕の声に、母さんが答える。

 湖が淡く水色の光を放ち始め、光は一点に集まり形を変える。

 眩しいほどに輝きを放ってから、目を開けた先には母さんが立っていた。

 村人たちが驚き声をあげる。


「お、女の人が現れたぞ?」

「一体何が起こっとるんじゃ!」

「……あの人が、アクトのお母さん……」


 ミラもぼそりと呟いた。

 その声に反応してか、セラさんがうっすらと目を開ける。

 僕はセラさんを確認してから、母さんに言う。


「突然呼び出してごめん、実はお願いがあって」

「大丈夫よ、わかっているから」

「ありがとう母さん」


 母さんはニコリと微笑む。

 そうして湖の水を踏みしめ、セラさんの前へと歩み寄る。


「……貴女……は……」

「わたしはウルネ。水の女神ウルネ」

「女神様……ああ、やっとお会いできました」


 セラさんは涙を流す。

 彼女は心の底から信じていた。

 神の存在を。

 どこかにいて、自分たちを見守ってくれていることを。

 今となっては数少ない、神への信仰を残す人。


「わたしも会えて嬉しい。貴女はわたしを、神を信じているのですね」

「はい……もちろんです」

「ありがとうございます」


 本当にありがとう。

 僕も心の中でそう呟く。

 彼女のように、神様を信じてくれる人がいたから母さんは存在している。

 もしもいなければ、僕は母さんを失っていただろう。

 そう思うと、感謝してもしたりないくらいだ。


「なら、私は貴方に問います。貴女はこれまで、多くの善行を成してきた。それに間違いはありませんか?」

「はい」


 彼女は答える。

 嘘偽りない言葉で。


「ならば応えましょう。貴女は報われるべき人です」


 母さんはそう言って、セラさんに右手をかざす。

 優しい光が彼女を包み込み、赤い痣がゆっくりと消えていく。

 水は流れ、消えていく。

 汚れを取り込み、綺麗にする。

 光が弱まる頃にはもう、セラさんを蝕む呪いは洗い流されていた。


「はい。これでも大丈夫です」

「ほ、本当に? お母さん?」

「身体が軽い。どこも痛くないわ」


 その瞬間、ミラが涙を流す。

 悲しみの冷たい波ではない。

 嬉しさからくる……温かくて優しい涙を。


「お母さん! お母さん!」


 泣きながら母親に抱き着く姿は子供みたいだった。

 張り詰めていた糸が緩んだのだろう。

 抑え込んでいた感情の波が、一気に押し寄せて来たとも言える。

 ミラは姉弟たちと一緒に、元気になった母親の胸で泣き続けた。

 そんな彼女たちを優しくあやしながら微笑むセラさんが、僕の母さんとも重なる。

 

「良かったな、ミラ」


 こうして、彼女と彼女の母親は救われた。

 奇跡に等しい光景を、多くの人が目撃した。

 おそらく初めて、僕以外の人間が神の存在を認知したのも……この時だろう。

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