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Jのプロローグ

ショーの終わったサーカスのテントは暗く、頼りは月明りだけ…。そんなくらい場所をなれた足取りで歩く人がいる。青い目をし、暗いオレンジ色をした。長い髪を一つにまとめた男の子。そして、それを呼ぶ背の高い人、黄色っぽい目に暗い紫髪の女性のような人。今回はこの二人から始まる物語。

(中心人物だけど、今回の主役じゃないぞ。)

「Clownテント内のチェック手伝ってちょーだい!」

 それを耳にした少年はテントの方へと戻っていく。途中、彼を呼んだ人と合流しながら………


 テントへ入ると、全ての電気が消されており、暗くもの寂しい雰囲気がある。…すると、Clownが何かに気が付き、口を開いた。


「団長、あれは、………」


 彼らが入った入り口から一番遠いテントの端っこに人が座っていた。


「寝てるのかしら?」


……そういいながら団長は、謎の人間に近づいていく。


 顔をのぞいてみると少女のようだ。服はボロく、あまりご飯を食べれていないのだろうか、顔色や肉付きがよくない。縦に長い荷物が一つだけ。帰る場所がないのか、帰れない理由があるのか……。そう団長が考えていると、Clownが強引に起こそうとする。


「おい、ショーはもう終わっている。ここで寝ると風邪をひく、早く帰るんだな。」


 そういいながら、少女の肩を持ちゆさゆさと揺さぶる。やがて、目をこすりながら起きた少女は始め、Clownと団長の顔を見てあわあわと驚いた様子だったが、やがて落ち着いて何かを決めた顔をして、団長の方を見て口を開いた。


「私をここにおいてください。」


 これは長くなりそうだ…。そう思うClownだった。


……………………………………………………………………………………………


 暗いテント内に小さなランプの灯りが一つ、それを囲うように三人が椅子に座っている。Clownは乗り気ではないらしいが気にせず話を進める。


「今日はご飯は食べたかしら?おなかは空いてる?」


 少女は、おいてほしいと団長に頼んだ時の威勢が嘘のようにびくつきながら答える。


「た、たべました。お腹が空いてるかは、ごめんなさいわからないです。」


 団長は少し難しい顔をしながら訪ねる。


「なにをたべたのかしら?それはおいしかったかしら?」


 少女は首を強く横に振りながら答える。


「家にいる犬の餌。おばさんが飼ってるの。美味しくなんかない、食べたくもない。でも、食べなきゃ死んじゃう。冷蔵庫の食材は、おばさんたちが食べるものだから、私が食べたら殴られちゃう。本当はダメだけど、目を盗んで犬の餌を食べるしか方法がないの。」


「おばさん?」


 まだ面倒くさそうな顔だが、Clownが聞く。少女は何かに怯えるようにに周りを見回しながら答える。


「そう、おばさん。私の両親が事故で亡くなった後広い家に一人で住むなんて寂しいでしょ?って急に…。私は施設に行くために準備してて気にする暇もなかったの。そしたら、おばさん達、私をお手伝いにするために施設に行く手続きを勝手になしにしてしまったの。それからは、毎日やれ掃除だ、ご飯を作れだ、いろいろ言われて……それで…。」


 団長は、少女を強く抱きしめた。


「そう…。それは辛かったわね。私の名はLily、ストーリアサーカス団の団長よ!よろしくね。あなたの名前教えて頂戴。」


「私の名前は四月一日 美琴。…名前が周りと違うのは生まれがもっと東だから。」


「美琴。『ここにおいてほしい。』って言われても簡単に『そうですか』とは言えないわ!だから、テストをするわ!一週間、一週間で何か人前に見せれる技を身につけなさい。なんでもいいわ!自分を誇れるもので誰かを驚かせ笑顔にできる何か見つけなさい。」


 団長は少し考えいてから話を続ける。


「寝床は救護室があるからそこで寝て頂戴。ご飯は時間になったら持っていくわ!ほかの団員にもこのことは伝えておくから、いろんな人からコツを教わることね。そうね…まずは綱渡りやジャグリングとかからやってみたらどうかしら?」


 そう団長がいうと、Clownが鼻で笑いながら言う。


「こんな奴は道化師になったところで面白くねーからジャグリングは俺は教えねーからな。俺じゃなくてあいつなら教えてくれるかもなw。…じゃあ俺わ寝る。おやすみ。」


 ひらひらと手を振りながらClownは月明かりに向かって歩いて行った。


「少し気難しいところはあるけどあなたのその考えを否定してるって訳じゃないわ!無駄な時間を使わせないためにやることを省いてるんだとおもうの。彼なりのやさしさなんだと思うわ!」


 困った顔で笑いながら団長は言う。そして立ち上がり少女を連れて月明かりに歩いて行った。


…………………………………………………………………………………………………


 朝。いつぶりだろうか、誰かの手作りの温かいご飯は涙が出るほどおいしかった。

気分が落ち着き、綱渡りの練習は誰に教えてもらうべきかと考えていると。コンコンとノックがあり、ギギという固い音が鳴り扉が開く。扉に目をやると、団長が何かを抱えてやってきた。


「あなたの服すごくボロボロだから、いったんこれを着なさい。古いものだけど保存の状態は悪くなかったから、まだ着れるはずよ。私たちはこういう服を着てショーをしているわ!…その服着終わったら元着てた服貸してちょうだいホツレや穴をどうにか修復して寝巻にするから。」


 そういって服を渡すと部屋を出ていく。着てみると昔東の国にいたころの服に似ていたが、コルセットでスカートを止めなければならずかなり窮屈だ。それに、動きづらい。そういえば団長もClownも形は違うが似た服を着ていたな

、よくこれで動けるものだ。と思う美琴であった。


……………………………………………………………………………………………


 テントへ向かう美琴は途中、聞いたことのある声に話しかけられる。振り返ると、ニコニコと笑うClownがいた。昨日のことを考えるといささか不自然に思える。よく見ると、昨日はなかったハートのフェイスペイントがあるし、目の色が違うように感じる。…双子かなと思っていると。


「かわいい子にまじまじと見られると僕恥ずかしいんだけどどうしたの?Clownに似てるから双子だと思った?」


 口元も目元も笑顔なのにどこか煽りを感じる。美琴は少しむっとしたが、ジャックは美琴に喋らせないかのように続ける。


「だけど、その答えはNOさ!僕も、Clownも同じ器ではあるからね!」


ぱちんとウィンクをかますとさらに続ける。


「僕の名前はJack Jester!好きに読んでくれればいいよ。僕は司会進行や解説をしているんだ。昨日君が会ったClownは、夜の部のショーで道化師をしているよ。僕に比べ暗い性格だけど、根は真面目で優しいやつなんだ。言い方が鼻につくときはあるだろうけど。悪い奴じゃないのをわかってやってほしい。あともう一人。この場所では、夜の部が多いから会うことは少ないかもしれないけど、Jack Pierrotがいるんだ。彼は、昼の部を担当しているんだ!彼は、喋らないのか喋れないのか、言葉を発さないから、ジェスチャーや、筆記で伝えてくる子だよ。僕よりも無邪気で能天気なやつさ。なんとなくわかったかな?」


 手話の拍手をしながら、ニコニコした顔でこちらを見る。


「ちょっと難しいや。」


 Jackは、困った笑顔を見せながら。


「う~ん。ほとんどの人は、僕のことをJackって呼ぶんだ。理由は一番出てる時間が長いから。見た目は、僕は赤目のハート。Clownは青めのペイントなし。pierrotは黄色いの目に涙のペイントだよ。pierrotと僕は似てるとこもあるから頑張って見分けてね。」


クスクスとjackは笑うと何かを見つけたようで、走り出す。その先には、ピンク色の髪をして、ゴシックな服を着た人形のような顔立ちの少女がいた。


「#Letty__レティー__#!おはよう。今日も綺麗だね!」


 Lettyと呼ばれた女の子は何か言いたげだが、気にせずJackは満面の笑みで紹介を始める。


「美琴ちゃん!彼女はLetizia Hexe綱渡りと一輪車をパフォーマンスの中心においている子だよ。そして、今から君に綱渡りをレクチャーしてくれる人さ!それで、Letty!この子が団長の言ってた入団希望者の美琴ちゃん!」


 言いたいことが全部言えたのか、満足そうにするJackと言いたいことを遮られたのか少し不服そうにするLetizia。LetiziaはJackに対して一瞬そっけない態度をとった後、何事もなかったかのように話を進める。


「初めましてLetiziaよ!練習してもらって、見込みがあるかどうかを見極めさせてもらうわね。」


……………………………………………………………………………………………………


      結果惨敗…


 教えるのが下手なわけじゃないただ平坦なところを歩む人生だった美琴にとって、細い道を歩くのは至難であった。


「申し訳ないけどあまり見込みがあるとはおもえないわ…。でも、高いところは大丈夫みたいだから空中ブランコとか大車輪なら大丈夫かもしれないわね。」


 盛大に落ち込む美琴に対して、元気づけるようにLetiziaは言う。


「お昼の時間だからご飯にしましょ。食堂は私たちしか使えないから、今日はサンドイッチ作ってきたの。一緒に食べましょ。」


 ランチボックスを開けるLetizia。中にはきれいに並べられた美味しそうなサンドイッチ。食べながら、談笑していると、Jack が後ろからサンドイッチを一つ取り、頬張り、満足そうに話しかける。


「横失礼。美琴ちゃん、どうだった?」


「難しいです。テントに入るすき間風が、ひもを思わぬところに揺らして、うまく歩けませんでした。」


 悔しそうに美琴が言うと、二人は、確かにというようにうなずく。


「あれは、僕もずっといってるんだけどね。みんなそれに慣れてしまって。もう誰も気にしてないどころか、いまは、その風がないとやりにくい始末さ。pierrotはともかく、Clownはどうにかしてくれってよく言ってるね。」


「pierrotさんとClownさんとで芸風が違うんですか?」


 美琴がぽろっと疑問をこぼす。


「そうだなぁ…。Clownやpierrotは間をつなぐための道化師ってところは同じかな…。Clownは結構クールに芸をするね…。pierrotはとぼけた芸が得意だ。もともと喋らないのもあるが、pierrotという名にあった芸だね。」


「Jester、Clown、pierrotって同じ道化師じゃないの?」


「そうだねぇ…。Jesterは、喋る道化師さ!本来は、宮廷とかに専属でいたりするんだ。他の道化とは違って、雇い主に無礼な発言をしてもある程度は許されるのさ!Clownは、間をつなぐためにショーをする道化師で、pierrotも一緒なんだけど、Clownより馬鹿にされるショーをするよ。Clownとpierrotは似てるけど涙のメイクで見分けるんだ。」


 黙々とサンドイッチを食べていたLetiziaがツンツンとしたいい方で割り込む。


「まあ、JackがJesterなのは、おしゃべりで交渉術に長けていてさらっと交渉相手を煽りつつ言い負かすから。ClownがClownなのは、一番外に出てくる時間が少なくて、ショーをするときか、Jesterとpierrotが出てきたくないときしか出てこないから。pierrotは…。みたほうがわかるわ。あれはpierrot以外いい名前が思い浮かばないのよ。」


 話に乗ってくれたのが嬉しかったのかJackは、嬉しそうにもぐもぐとサンドイッチを食べている。


「傍から見ると見分けがつかないものせめて名前くらい付けなきゃ大変よ。最近なんかJackがpierrotのマネするんだもの、もっと大変だわ。」


「でもLettyいつも僕だって気づくよね。」


「4,5年一緒にいるのよ、嫌でも解るわ。」


 まるで夫婦の痴話喧嘩だなと美琴は思いながら、残り少ないサンドイッチを頬張っていると、何かに気が付いたのか、さっきまで美琴の隣にいたJackがLetiziaの後ろに隠れる。すると、大柄であごに短いひげを生やしたおじさんと人間らしくない顔立ちをした水色の髪色をした女の人がテントに入ってきた。そして、こちらに寄ってきて話しかける。


「やあ!Letizia、Jack!それから…。君が美琴ちゃんだね!僕は、Chris Trapezeていうんだ!よろしくね!それから…」


「私はNova Pianetaヨロシクネ!」


美琴は小さく頭を下げる。すると、chrisがJackの方をむく。


「Jack!昼ごはんは食べたかい?一緒に食べたかったのに、全然来ないから心配してたんだ!」


Letiziaの後ろに隠れていたJackが少しだけ顔を出し煽る。


「お生憎様だけど、僕はLettyのサンドイッチを貰ったからね。あー。一緒に食べれなくて残念だ。ほんと残念。」


しかし、chrisは、煽られてることに気がついてないらしい。ニヤニヤと笑うJackに対して、嬉しそうに言う。


「今日の夜は空いているかい?残念と言ってくれるのは嬉しいからね!一緒に食べよう!」


煽ることに失敗したJackは、うげぇと嫌そうな顔と、悔しい顔とが混ざった顔をしたまま、これ以上長くなるのを止めるかのように、話に割り込む。


「そこのふたりが、午後から君に空中ブランコをレクチャーする人だよ!Novaも、悔しいけどあのおっさんも、空中ブランコはかなり上手いから、大丈夫なはずさ!さぁ!Lettyロビーで一緒にお茶しようか!」


「お断りするわ。」


「つれないなぁ……」


そんな会話をしながらJackとLetiziaは、テントから出ていく。そして、声高らかに元気よく、chrisの声が響く。



「さぁ!始めようか!」


…………………………………………………………………………


結果…惨敗。


頭では平気なのに体が追いついてくれない。何故か手が離せない…。


2人からもごめんねと言われた。次の日もその次の日も、結局自分に合う芸は見つからず…。残り2日。


その夜、残り時間が僅かなこと、情けなさ、悔しさ、色々な思いから、美琴は寝れないでいた。外の空気を吸おうと外に出る。街の外れに拠点を構えるこのテント周辺は、街灯がほとんどなく、月は満月に近いにもかかわらず、かなりの量の星が見える。そんな星を眺めながらぼーっとしていると、後ろから声をかけられる。


「おい!夜練か?精が出るな」


鼻につく言い方。振り向くとCrownがいた。


「全滅らしいな。他のやつは言わねーから俺が変わりに言ってやる。お前はサーカスは向いてない。裏方にまわる。それか…」


思っても言わなかった、言ったら負けだと思ってた。美琴は、我慢してた感情が、涙が溢れ出す。


「そうよ!私は何やってもできない子だわ!不器用だし、愛嬌はないし、スタイルも顔も、話術も、何に長てない。人に反論もできない。自分の進みたい夢に進む勇気もない。」


「おい!別にそこまで言ってな…」


「頑張って出した勇気も、精々入れて欲しいと頼むくらい。恐怖に勝てないダメ人間なのよ!」


「おい!落ち着け!そこまで言ってねぇよ!それに……、やりたいって頼むって勇気も相当なハードルだろ。自分を下げすぎるんじゃねぇ。……。」


Crownは少し考えてから話す。


「俺の言い方が悪かったな。俺が言いたかったのは、お前は王道なサーカス演目は向いてないってことだ!最悪裏方にまわればいいって話をだな……。はぁ。」


高ぶった感情を抑え、冷静に話す。


「お前最初会った時、縦長の大きめの荷物持ってたろ。あん中に何かないのか?」


美琴はハッとして、走り出す。その時の顔は、期待と、希望に満ちた顔をしていた。


「おい!」


…Crownはホッと息を吐き美琴を追いかける。



………………………………………………………………


美琴は勢いよく救護室の扉を開く。かなり勢いが良かったのか、救護室の札が取れ地面に落ちる。美琴が取りだしたのは弓矢だ。


「おいそれ…。アーチェリーか?にしては簡素だな」


追いかける形で走ったCrownは、かなり疲れ気味だ。


「弓術よ。サイズはそこまで変わらないはず、そっちのは見たことないから知らないけどね。」


「キュージュツ?…あー。東の国の武術のひとつか。」


「知ってるの?」


「名前だけな。」


Crownは息を整え、下に落ちた救護室の札を拾いながら続ける



「それで何が出来る?」


「分からない。集中力を鍛えるためにやってたから、人を驚かせるものがあるかはわからない。それに、しっかりと習ったわけじゃない。でも少しやってみたいことがあるから、用意して欲しいものがあるの。」


いくつかの用意するものを書留め、Crownに渡す。


「少し待ってろ。それから、もしそれが及第点以上なら、次はどこからそれを見せるかだ。俺はそれが苦手だから、Jesterと交代してくる。あいつはそういうの苦手ではないだろうからな。先にテントに行っててくれ。」


そういうと、部屋を出ていく。


…………………………………………………………………………………………………


 テントで少し待っているとJackがやってきた。急いできたのかハートのペイントを書き忘れ目の色が赤ということだけしか判断材料がない。夜空をバックに目が赤く光る。


「頼まれたもの持ってきたよ!普通の紙とリンゴ……なにするの?」


 わくわくした口調で話す。


「リンゴの方は簡単なので、先リンゴからやりましょう。昔見に行ったサーカスだと、投げナイフでやってたんですが、たぶん弓でも…。」


「まさか…。」


 頭にリンゴを乗せるJack。笑顔が多少引きつっている。

すると、合図もなしに矢が頭上を走る。


「久しぶりに射たけど、全然いけますね」


 楽しそうに美琴は言う。


「ちょ…、久しいってどのくらい。」


「一年とちょっと」


「美琴ちゃん…。久しぶりで人に矢を向けるのはさすがに…。僕以上に狂ってるよそれは。」


「え…。だって、Clownさんが、伝えとくから気にせずやれって。…!伝わってなかったんですか?!ごめんなさい!!」


「だとしても、合図くらいは欲しかったなぁ」


Jackはその場にへたれこむ。


「モう、でてきてイイかい?」


テントの布をあげる影がある。狐の獣人のようだ。見た目は12、3歳位の男の子。Jackより明るく薄目のオレンジの髪の毛をしている。


「初めまして!僕はTracy Blueamber裏方デ、音響や、部隊設営、ラいトの整備をしてィるんだ!トても面白そうだね!さぁ色々整備を考えよう!」


………………………………………………………………………………


 多くの設定が決まり、少しの希望を感じウキウキしながら救護室へと向かう美琴。


「やっと見つけたわ。美琴」


 横から声をかけられる。耳をつんざくような甲高い声、鼻がばかになりそうなほどきつい香水、アクセサリーを多く身にまとった華やかな服装。見知った顔の二人が、美琴にじりじりとよる。


「家のクローゼットにこの写真が挟まっていたわ。」


 そういってサーカスのテントを背景に撮った美琴にとっての最後の家族写真を見せる。


「いなくなったと知って、部屋中探し回ってたら…まだこんなものを隠し持っていたのね。家族のものは全て捨てたはずなんだけどねぇ…。」


 おばさんは、見せていた写真をびりびりと破りパラパラと捨てる。バラバラになった写真が風に運ばれていく。

見つかってしまった。逃げたいのに足が動かない。二人が美琴の腕をつかみ、連れ帰ろうと強く引っ張る。


「や、ヤメテ…。ヤメテクダサイ。」


 拒否しようにも、助けを呼ぼうにも、声が出ない。

すると後ろから声がする。


「美琴ちゃん、まダ起きてタンだね!ヨかッタ、少し訂正ガ…。」


 Tracyが持っていた紙束をぼろぼろと落とし、どこかに走っていく。

見捨てられた。美琴はそうおもう。あんな小さい子にとって、この二人の見た目はまるで悪魔だ。

そして、団員に走り去られたことをいいことにおばさんはさらに強く引っ張る。


「あんたのいい買い手が見つかったんだ。ここまで我慢してあんたを家に置いておいた甲斐があったってものよ。さあ、おとなしく帰るんだ。見ただろあんたを捨てて逃げたのを!あんたはここでもいらない子なんだよ、だからさっさとこっちに来て私たちのお金の足しになってくれよ。」


馬車の陰から声がする。


「いくらで売られたの?美琴ちゃんは。」


「白金貨12枚よ!!良い値でしょう!!…………。誰よあんた。」


「僕はここのサーカス団の団員だよ!やっほ!美琴ちゃん!大変そうだね!」


 Jackが赤く目を光らせながら近づく。


「この子はうちの子だよ!あんたらには関係ないだろ?」


 Jackの口は笑っているのに目が笑っていない


「おばさんにとって美琴ちゃんはただのお金引換券としか思ってないんだろ?そんな人が美琴ちゃんの保護者面しないでくれ。」


すると、馬車の陰からさらに二人出てくる。団長とTracyだ。


「どちらにせよ、美琴の意見はしっかり聞いてあげるべきなんじゃないかねぇ。ねぇ美琴、あなたはどうしたいの?」


「私は…」


「もちろん私たちの方に来るわよね?今まっでい…」


「あなたたちは黙ってなさい。この子が考えることよ?美琴、あなたの意見をあなたの口から教えて頂戴。もちろん私たちは歓迎するしわ。もし、おばさんの方がいいならしっかり家までおくるわね。」


 美琴はおばさんたちを視界に入れないように上を向きそして、大きく息をすっていう。


「私、サーカス団がいい!!!」


 美琴にとって精一杯の言葉。でも十分すぎる言葉だ。


「白金貨12枚だったかしら?じゃあ投資と、手切れ金込みで白金貨25…いや、30枚即金で支払ってあげる。だから、この子から離れなさい。」


「白金貨30枚?」


「えぇ。あなたたちが取引しようとしてたところの二倍以上よ。」


「わかったわ。もうあんたは必要ないわ!消えて頂戴。」 


「決まりね!さあ美琴こっちへおいで。」


 美琴は、手を振りほどき、団長の後ろに隠れる。


「ごめんなさいね美琴。お金のやり取りとか、あんまり見せたくないんだけど、あなたをあの人たちからいちはやく離れさせたくて。」


 団長は申し訳なさそうに言う。いつの間にかJackはいなくなっている。そして、逃げたはずのTracyが冷えるだろうと肩にローブをかけてくれる。


「美琴ちゃん。ごめンなさい。僕一人ジャ対処できないと思って、団長を呼ビに行ったんだ。」


 美琴から遠いところで、おばさんたちが何かを書いている。たぶん団長とお金のやり取りをしているんだろう。


「Tracyさんありがとう。走り去られたときは怖かったけど、団長さんを呼んでくれなかったらこうなっていなかったと思うの。」


 美琴は肩にかけてあるローブをぎゅと握る。まだ体が震えている。


「でも団長は、私の演技まだ見てないのに投資してくれたんだろう。」


「そんなの決まってるでしょう。Tracyがあなたのために走って起こしに来たのよ?Tracyがあなたと関わったってことは、誰かがあなたの演技を認めてTracyを紹介したってことでしょう?」


 手に巻物のようなものを持った団長がよくやったといわんばかりにTracyの頭をなでる。


「それに、別にパフォーマンスが完成しなくてもあなたを裏方に回して、料理や洗濯を手伝ってもらおうと思っていたわ。あなたはここにいていいのよ美琴。」


 そういってTracyをなでていた手を美琴の頭に乗せる。


「さあ今日は遅いから寝ましょう。明日の本番がたのしみだわ!」


…………………………………………………………………………


レトロでジャズ調の音楽がなる中、テントの中が明るくなり、ショーが始まる。中心にいるのは、Jack.jester


「Ladies &Gentleman !!!皆さんこんにちは、本日司会進行を努めます。Jack.と申します。どうぞよろしく。」


いつものノリとは違い、礼儀正しく綺麗にお辞儀をする。


「本日は少し内容を変更し、途中演目を追加いたします。少々時間は伸びますのでご了承ください。まずは…」


演目が開始される


 Letiziaの演目【綱渡り】片手に傘を持ちまるで地面を歩くかのように優雅に歩く。裏方にいるJackが、凄い身振りで応援しているが、Letiziaは極力見ないようにしているらしく、全く届いていない 

裏方にいるTracyは空中に映し出された情報を駆使しながら、音声や照明を操作している。


 周りを見ながら、手に人を書いては飲んでいる美琴に団長が声をかける。


「緊張してるみたいね。大丈夫よ、最初はみんなそんなものよ!…そうそうあなたの芸名を考えたの。」


「芸名ですか?もしかしてほかの人も芸名なんですか?」


「えぇそうよ!本名を使っている人はいないわ。…それでね、あなたの名前はJuju Dandelion !Jujuは魔除け、東の国には、魔を破る弓矢があるって聞いたからね。Dandelionはお花の名前で、花言葉に『幸福』『誠実』っていう意味があるの。あなたにピッタリだと思わない?」


 いい名前でしょと言わんばかりにいい笑顔で話す団長。緊張をほぐそうと話しているうちに自分の番になる。

行ってらっしゃいと団長が美琴の背中を押す。


 ランダムに動くスポットライト。中央に立つJack。


「さて皆さま今日が初出演の演者!弓を使い次から次へと的に当てていきます。その名も、Juju Dandelion!…まず初めにこぶし大の小さな的これを僕の顔の真横に持ちます。」


 さあ!の合図とともに集中の妨げにならない程度のドラムロールが鳴る。


 なり終わるとほぼ同時に、矢を射る。的のど真ん中に命中しJackがそれを観客に見せる。一瞬の静寂の後、歓声と拍手が起こる。笑顔でJujuの方を見るJack。裏方の方にいるほかの団員も笑顔だ。歓声を鎮めるようにJackが声を上げる。


「これはまだまだ序の口。面白いのはこれから!さて皆さまの中にお手伝いをしてくださる方はいませんか。」


 すると、Jack君は手を挙げている人からいない人まで、さまざまに紙飛行機を渡していく。紙飛行機には、番号が振り分けられており、順番に投げるように指示する。Juju側にはどの番号が誰に渡されたかは見ることができない。


「さあ!投げていただきましょう!」


 その声と同時に最初の紙飛行機が投げられる。Jujuは空中を飛ぶ紙飛行機に矢を次々に当てていく。途中、二個同時に投げられることもあったが、そんな時でも変わらず当てていく。当たるたびに歓声が上がる。そして最後の一戸も見事に当てた。当てた矢は全てテントの端っこの方まで飛んでいる。


「本日の演目はこれで終了となります。」


 心地よい歓声とともにショーが終わった。

 テントの裏。団長がお疲れ様と今日の振り返りの言葉を話す。やっぱりショーが終わったあとのテントの周りは、暗く月明かりだけが頼りだった。満月より少し欠けた月が…サーカス団員達を見下ろしている。


「改めて、みんなに紹介するわ!今日から正式に団員の仲間になったJuju dandelionよ。Jujuこれからあなたの住む家まで案内するけど、私たち以外に口外禁止。そして、驚いてもいいけど怯えないでちょうだいね。」


そういうと団長はJujuの手を引き、荷物置き用の馬車にある鏡の前に立つ。


「さあ、この鏡の中に入ってちょーだい。私たちの家はこの先、Hollowと呼ばれる次元の狭間の中のHomeっていうところなの」


後ろから、少し口論になりつつJackとChrisが鏡にに入ろうとしている。Jackが鏡に入るのを少し躊躇っているJujuを見つけると、Letiziaの元まで走っていき、なにか耳打ちをしている。その後また、Chrisと口論をしながら、鏡に入っていった。


 Jujuが意を決して鏡に手を突っ込むと、まるで水の中に入るかのようにぴちゃんという音が小さく鳴りがらするすると手が入っていく。中に入ると目の前には生活感のあるソファーやテーブル、観葉植物が置かれたちょっとしたスペースと木のテーブルセットとカウンターのある食堂、一人、または二人の部屋がいくつもあり宿を思い浮かべるつくりになっていた。


 ほかのストーリアサーカス団のメンバーの紹介やほかのサーカス団の紹介もあるがそれはまた別のお話

 (詳しくは、次のショート回で)


 メンバーたちの紹介が終わり部屋に戻ろうとするJujuの後ろから赤い目をしたJackが声をかける。


「Jujuちゃんのおばさんが破った写真、破れ目はぼくとLettyでほとんど消えたんだけど破れた紙がいくつか回収できなくて、少し虫食いぽくなっちゃった。ごめんね」


 もうどうしようもないとあきらめていたJujuにとってはとてもうれしいものだった。


 Homeの窓から見える月はふたつ。これが今まで自分が住んでいた場所じゃないことを物語っていた。様々な場所に行っていろんな人に会って、トラブルに巻き込まれるけどこれはまた別のお話。

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