生まれ変わり
「まだ、見えません。ですが、片鱗は確かに」
「そう。さっき届いたのはあの子の……まだ、猶予はあるが短い。早急に覚醒させよ」
ーーその輝きが穢れを含む前に。
言葉にしない言葉が鋭くなった眼光に宿り、二人を見下ろす。
長は女でなくてはならない。子を産めることと身に秘める力は、先祖を宿す程の力は女を選ぶ。稀に近しい力を持つ男はいるものの、必ず女にそれを上回る力を持つものが現れた。
今もそう。ロザリアが力を持ち、次ぐのはフィードだが先祖の力を宿すのはロザリアだ。
リディアナがロザリアを産み落とした時に一瞬感じた、屈服しそうになる圧力。それはまさに純血種にとっての敬うべき力。いずれ自分さえも頭を垂れ、守るべき至宝。
「一つ、懸念が」
「言うがいい」
「ロザリアは今、人間の男に夢中になっています。それ以外の餌を求めない。自覚はありませんが」
ルーディスの言葉にリディアナの表情が曇る。同時に溢れ出す力が二人に重くのし掛かり、風のない室内でカーテンが煩く舞い上がる。
煌く金の輝きが鋭利な気配を増長させて室内を支配すれば立っている事すらままならず、二人は膝だけでなく手を地に付けて圧に耐えていた。
「ルーディス」
「は……、何なり、と」
「その人間、調べて報告せよ。血の薄くなった血族なら自覚のない者もいないわけではない。そうであれば不本意ではあるが、小間使いくらいには迎えてやっても構わない。その際にはそなたの血を与えよ」
「仰せの、通りに」
話すのも苦しくなる中、勅命が下されたのなら反応しないわけにはいかない。ルーディスの応えを聞いたリディアナが力を緩めるまで立つことも出来なかったが、直ぐ身を起こして一礼するなり命令を実行しに出て行った。
「母様、僕は……」
「何故もっとロザリアのそばにいない?そなたの代わりのない半身だろう?あの子の心を占めるのはそなたでなくてはならない。我が一族に再び汚点を残すつもりか?」
凍りそうな眼差しを受けて震えが止まらないフィードは白い肌を更に白くさせて唇を噛む。
「月の姫様の嘆きをその血が知らぬ筈がないな。次を継ぐ予定だった我が子が人を選び曇らせたあの嘆きを」
コクリと頷くしか出来ない我が子に歩み寄り、膝を折ってリディアナはフィードを抱き締めた。
「繰り返してはならぬ。ロザリアは水月の姫と同じにしてはならぬ。あの子は……水月の姫の生まれ変わり」
「そん、な……」
「だからこそ、フィード。そなたが止めよ」
弾かれたように顔を上げたフィードの頬をリディアナの細い手が撫でて、幼子に言うように言い聞かせる。
「覚醒前ならばーー」
次いで響いた言葉は風に掻き消され、聞こえたのはフィードのみ。