問い掛けの裏側
ロザリアが部屋で自問自答をしている頃、部屋を辞したルーディスとフィードはそのまま謁見室へ向かっていた。
「兄様。姉様はどうしたのかな。メイドはともかく、今まで僕らが狩ってきた人間で文句も言わなかったのに。だって、姉様の半身の僕が選んだものが間違ってるはずないんだ!」
ロザリアの前で見せていた柔らかな笑みは何処に言ったのかというほど、不愉快さを前面に出して苛立つままそこにあっただけの美術品を壁に投げつける。音を聞き付け、怯えながら片付ける下働きの者に視線をくれることなく歩を進めた。
「そうだな。殊の外、自分の見つけた餌が美味かったのだろう。稀に極上の物は、ある」
フィードの苛立ちの言葉も軽く流しているが、そんな物ではないと表情が物語っていた。
鮮血の紅を持つ唇がその血の香りだけでなく、下賤な人間の外側の匂いも纏っていたのだから。
二人が謁見室の前に来れば、重厚な音を響かせて扉が開いた。ビロードの紅い道を進んで階段下で二人は膝を付いて頭を垂れた。
「顔を上げよ。愛しき我が子たち。その身に宿す高貴なる血脈に恥じないよう力を保てているか?ルーディス、そなたの伴侶に相応しいのはいたか?」
階段の上にはシンプルだが造りの精巧なデザインの椅子が妖艶な女性の肢体を受け止めて引き立てている。
まさに女王と言わんばかりの威厳を持ち、緩やかなウェーブの金の髪は腰を覆う程に長い。切れ長の目はまるで月の様に金に輝き、跪く我が子を射抜く。
「麗しき長様。その金の瞳に映して頂けた事、名を呼んで頂けた事。光栄にございます。ご心配を頂いております伴侶はまだこの身に劣る者しか居らず……申し訳ございません」
「良い。そなたは我が直系故、見つからぬのも無理はない。ロザリアが子を生したなら下賜するよう命じておく。あれならば相応しい子ができよう」
「礼を述べる言葉すら最上のものでも足りえない程、嬉しく思います」
藍色の髪が再び深く床に向かって垂れては直ぐに引き離された。長であるリディアナが手を差し出したからだ。
ルーディスは立ち上がり、そばまで行くと再び跪いて手を恭しく取り、指先に口付ける。ほんの一瞬で手を離すと下へ戻り脇に避けて直立する。
「我が子ながら硬い男よ。……フィード、そなたは些か落ち着きがないようだ。だが、力は悪くない。あの子に迫る力はそなたしか持ち得ないだろう。濁らせぬよう」
「はい、母様。この身に流れる気高き血脈は一点の曇り無く、姉様のために」
ロザリアに似た瞳はうっとりと蕩け、その身は半身に捧げると断言して呼ばれるままにリディアナのそばに行くと手の甲へ口付ける。
「そのままロザリアにも曇りがないよう、守るがいい。……兆しは見えたか?」
二人の子に問いかけるその瞳には柔らかさがなく真剣さを孕んでいた。