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出逢い

ページを開いて下さった読者様、ありがとうございます。

拙いかもしれませんが、気長に読んで頂ければ幸いです。

 紅い月……


 その色は彼らの牙に残滓が残るの“食事”の色と同じ……。

 人など、悠久とも言える月日を繰り返す吸血鬼にとっては食料でしかない。ましてや、吸血鬼たちの長にとってはそれが当然であり選び出された極上のものを城で得るのが当たり前のことだ。

 しかし、次期長である少女は一人の男に出逢ってしまった。




 白いフリルのドレスを風に靡かせ、宛もなく道を歩く少女。裾から覗く肌は陶器のように白く、花のような唇は紅を引いたかのよう。

 その様子はまるで茶会にでも行くような足取りで、所作は貴族のご令嬢。馬車でないことを不思議に思うことはあれども、不審なことは何もないーー夜であることを覗けば。


「あら?」


 つい、と視線が曲がり角に向けられて軽く鼻を引くつかせたかと思えば、少女は嬉しそうに壁へ寄りかかって踞る。

 足音が夜闇に響いて、少女へ近付く。


「あの、大丈夫、ですか? 具合が悪いなら医者を……ああ、だめだ。僕の家で良ければ休みますか?」


 おどおどとした若い男の声に少女がノロノロと顔を上げた。乱れた金の髪が冷や汗をかいているのか頬に張り付き、真っ白な血色の良くない肌を際立たせる。


「わ、私……貧血で……どうか、一時の間休ませて頂けませんか」

「それは大変だ! 少しの間触れますが、堪えて下さいね?」


 弱々しい声に慌てた男が、その細い腕に少女を抱き上げて軽々と歩き始める。

 余りにも鮮やかにされたせいで少女は少し戸惑い、そっとその胸に身を委ねた。

 一刻とも経たないうちに辿り着いた場所で下ろされそうになった時、ようやく見えた隙に小さな唇は本の少し開いて日焼けのある首筋へと白い牙を突き立てる。


「ぅあ……っ! ぁ、あっ」


 崩れ落ちることはないものの、僅かな痛みと酔うような甘い痺れが男の自我を翻弄していく。

 少女が更に赤く染めた唇を離して舌先で残ったモノを舐めとり、極上の食事を得た時のようにうっとりとその頬を染めて妖艶さをあらわにした。


「親切な人。貴方、気に入ったわ。また会いに来てあげてよ? うふふ、素敵なお顔ね。私はロザリア。今宵のことは二人の秘め事。よくて?」

「は、い」


 ボンヤリした返事も気にせずにロザリアは、軽やかに地へ降りると華奢な指先を男の胸元にやって衣類をはだけ鎖骨の下に唇で印を付けた。崩れ落ちる男を余所に、ロザリアはふわりと浮かび上がると山の上へと飛び去る。


 ご機嫌で城のロビーへ帰りついたロザリアを暗い藍色で長髪の男が不機嫌そうに迎える。


「ルーディスお兄様。ただいま戻りましたわ。可愛い妹が戻ったというのにそんな恐いお顔……何かありまして?」

「人間の匂いがする。よもや、食事をする以外に何かされたのか?」

「いいえ? ほんの少し抱き上げられただけですわ」


 彼女の言葉に柳眉がぴくりと跳ね上がり、しっかりとした腕の片方にその体を抱き上げて足早に深紅の絨毯を進む。豪奢な扉を躊躇いなく開けて、そっとロザリアをベッドに降ろすと衣装部屋から漆黒のドレスを選び出してイスに掛けた。

 ルーディスは部屋を動き回って濡れタオルと水を張った入れ物を用意して、足元に跪いて彼女の足を丁寧に拭き始める。


「お兄様ったら、これぐらい下の者にやらせればよろしいのに」

「だめだ。次の長であるお前に軽々しく触れさせるわけにはいかない。触れて良いのは、俺とフィードのみだ」

「まぁ。随分と過保護ですのね? では、着替えさせて頂けませんこと?」


 妖しく笑うロザリアの言葉へ答える代わりに白いドレスを無表情で脱がせて、彼女に相応しい黒のドレスを着付けていく。至極当然と言わんばかりに。

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