久しぶりの声
「西澤」
「⋯えっ?」
声をかけられたことに驚いて、勢いよく隣を向く。⋯今、私のこと呼んだよね?
「あっははは、何驚いてんの?」
あまりに普通な様子に、面食らう。え、え、避けてたんじゃないの⋯?
(こっちは悩んでたのに!)
「ど⋯どうもしてないけど。何?」
「や、なんか辛そうな顔してたからさぁ、話しかけてみただけなんだけど」
辛そうな顔⋯
してただろうか?
「別に何もないけど⋯」
「ふーん、まぁいいけど」
言うなり、松谷くんは席をたった。手元を見ると⋯え!?食べるの速すぎない?!
遠ざかる松谷くんの背中を見つめる。
さっきまでのモヤモヤがすこし軽くなった気がする。⋯あれ?
突然、私の中で何かが繋がったみたいにピンときた。
(私、松谷くんと仲良くなりたいんだ)
突き放した自分を正当化して言い訳ばっかりするのは。
嫌われちゃったんじゃないかって不安になるのは。
目を反らされて傷つくのは。
気づかないうちに辛い顔をしちゃうのは。
(もう松谷くんの存在が心にあるからなんだ)
「⋯松谷くん!」
松谷くんの背中に向かって呼び掛ける。
今言えなかったら、たぶん一生言えない。
「⋯何?」
「あのっごめんなさい!」
突然の謝罪に、松谷くんは顔に大きなはてなマークを浮かべる。
「私、松谷くんが話しかけてくれるの、嬉しかったの。嬉しかったんだけど⋯私みたいな地味な人は、松谷くんみたいな人気者の人と仲良くなるべきじゃないって勝手に線引いてて⋯でも、距離置かれるようになって、分かったの」
「⋯」
「今さらこんなこと言うのもなんだけど⋯これからも普通に⋯は、話しかけてほしい」
言い終わってから自分の言ったことに気づき、はっとする。何か、とんでもないこと言っちゃった気がする⋯
(恥ずかしい⋯!)
これで拒否されたらどうしよう⋯という私の心配をよそに、松谷くんは言った。