ワガママ
「はい、じゃあ自由に2人組作ってー」
(えっ)
これは体育の時間のことである。
もちろん先生に悪気はないんだろうけど…!
(うちのクラスの女子の人数が奇数なこと忘れてません?)
どうしよう。どこに入れてもらったらいいんだろう。気を使わせちゃうのもやだしな…
「西澤さん、私たちのとこおいでよ。3人でやろ!」
「あっありがとう!!」
声をかけてくれたのが藤井さん───かわいくて男女問わず人気の───だったから、びっくりした。
(人気の理由が分かるなぁ⋯)
長い手足に小さな顔、大きな目。人のよさそうな笑顔。誰に対しても分け隔てのない態度。
きっとそれら全てが、彼女の人気につながっているのだと思う。
「え⋯と、陽葵って西澤さんと仲良いの?」
山本さんがおずおずとそう口にする。
そりゃそうだと思う。だって私はいつも1人だから。
「私はクラスみんなと友だちのつもりなんだけどなぁ?」
藤井さんは笑ってそうかわした。
やっぱり、そういうとこが私とかとは違うんだろうな⋯
*
【友だちと食べに行くから夕食いらない】
ラインが届いていたので、誰かと思ったら海翔だった。そんなに仲良い友だちがいるんだ…いいな。
そのとき、背後に気配を感じた。
振り向くまでもなく、松谷くんだろう。
「双子でラブラブかよ」
そんなキモいこと言わないでよ!ていうか何で海翔だって分かるの?!
「違うからやめて。てか海翔からだなんて言ってない」
「だって西澤の連絡先、家族以外俺しかいなくね?」
「そんな言い方しないでくれる?しかも松谷くんの連絡先は業務用だし」
「で海翔は何て?彼女できたー、とか?」
海翔に彼女なんて想像できないし、仮にできたとしても絶対教えてくれないと思う。
「⋯友だちと食べに行くから夕飯いらないんだって」
それだけ言うと私はさっさと帰ろうとした
───が。
「西澤って何で話してる最中で逃げんの?」
あなたのことを好きな女の子がいるだろうから───なんてそんなことは言えるはずもなく。
「逃げてなんかないよ」
「いや逃げてるだろ」
「⋯逃げてない」
「⋯あっそ。じゃ、俺帰るわ」
(!)
彼が、ふざけてるいつものノリではなく、これまで見たことないような冷めた顔をしていたから目を離せなかった。
帰っていく松谷くんの後ろ姿をそっと見送る。
───ムカつくけど、別に松谷くんのことが嫌いなわけじゃない。ただ、話しかけられるのが困るだけだ。
(⋯申し訳ないことしたかも)
自分から距離取ろうとしたくせに、離れていくと何か気になるだなんて、ただのワガママだよね⋯