喜びと謝罪
「何?」
「あの、言いにくいんだけどね⋯」
藤井さんは目を泳がせつつ、ほんのりと赤みのさした頬をそっとおさえた。
「突然なんだけど⋯⋯代わってもらえないかな?学級委員」
頭が、真っ白になった。
「こんなこと凛ちゃんに頼むのもどうかと思うんだけど、お願い!⋯ダメ?」
「えっ、と⋯何で?」
だめ、と言いたいのが本音だった。でも、そんなこと言えるはずがない。第一、推薦されて決まっただけの学級委員の私が拒否するなんて、それこそ変に決まってる。
「ちょっとあの⋯仲良くなりたい人がいて」
やっぱり─────。
それでも、ずるくても何でも、行動できるだけ藤井さんはすごいと思う。立場に甘んじてる私とは違う。
「⋯⋯⋯⋯うん⋯いいよ」
そう言うしかないと思った。
後悔してもしょうがない。委員会が離れても仲良くなくなるわけじゃないし、そうだよ。他のところで頑張ればいいんだ。
いくら言い聞かせても気持ちは晴れないままだったけれど、藤井さんが笑顔で「本当に!?ありがとうー!!」と言うのを見て、何とか笑顔を作った。
*
「え!?凛ちゃん委員代わっちゃったの!?」
追試が終わり、カフェですずちゃんたちに事情を説明した。案の定2人は驚いて、1拍おいて申し訳なさそうな顔をした。
「そっかー⋯悲しいね」
「まぁ藤井さん系の人に言われたら断れない感じあるよね」
藤井さん系、というからには、たぶん山本さん、小林さん、三木さんを含めた4人のことを指しているのだろう。
「うん⋯でも結局自分で決めたことだし。色々言ってもしょうがないよ!」
せっかくの寄り道なのに空気を悪くしてはいけない、と思ってあえて軽く飛ばしてみたものの、2人は「てか陽葵ちゃんって松谷くんのこと好きだったんだ?」「そりゃそーでしょ、だってこないだわざわざ勉強会に入ってきてたしさ」とそこから抜け出せない様子だった。
「すず、藤井さんと中学一緒だよね?」
「そーそー、でも中学のときはそんなに目立つ感じじゃなかったよ。女子力高めな感じはあったけど、大人しめ?だったし」
藤井さんが、大人しめ⋯だったのか。
想像できないようで、想像できる気もする。学級委員のことで勝手にモヤモヤする気持ちはあるけれど、2人組の時混ぜてくれたこともあったし、悪い人じゃないんだろうなっていうのは、何となく分かっているつもりだ。
「2人とも、話聞いてくれてありがとね!ちょっとスッキリした」




