嫉妬
「あっ凛ちゃんだー!最近よく会うね〜」
「藤井さん⋯!あー、そうかもね」
トイレに入ると、鏡の前で髪型を直す藤井さんがいた。
(女子だな⋯)
ストレートなロングヘアに、軽く巻いた前髪。きれいな髪で、きっと家でもケアを頑張ってるんだろうなっていうのが見て取れる。
そんな頑張らなくても元から十分可愛いのに。それに比べて私は、と鏡を見て軽く絶望する。
アホ毛も出てるし、前髪は伸びすぎたせいで、分け目が変なところについてしまってる。
悔しい。私もこのくらいのレベルの容姿だったらもっと自分に自信を持って、恋にも積極的になれるのに────。
「ねっ、そういえば凛ちゃんテストどーだった?できた?」
「んー、割とできた、かな。藤井さんは?」
「⋯明日数学の再試受けるんだよぉ」
(えっ再試!?藤井さんってそんなに頭よくはないのか)
いや別に勝ったとか思ってないけど⋯!
(何でもできそうなのに、意外)
「え、でも今日じゃないの?数学の再試って」
すずちゃんもそう言ってたはず。私の質問に、藤井さんは「あー、今日は数1でしょ?私が受けるのは数Aの方」と笑って返してきた。
「そういえば、今回の1位、蒼なんだってね!知ってた?」
「知ってる」
(⋯わ、待って今の絶対私感じ悪かった)
知ってる、なんて言っておいて、知ったのはついさっきなのに。こんなことで対抗しようとするなんてアレかもしれないけど、藤井さんが松谷くんのことを名前呼びするのが、何だか悔しくて、羨ましくて⋯。
「すごいよねぇ、頭半分くらい分けてほしいぃ〜〜」
私の心の中の葛藤に気づくわけもなく、藤井さんは笑顔でそう言った。
(⋯ごめんなさい、勝手に妬んだりして)
松谷くんのことを好きになってから、私は本当に嫌な人だ。大して何も行動してないくせに、頑張ってる人に対して卑屈になって、嫉妬だけは一丁前で、本当にかっこ悪い。
とりあえず、と私は心の中で決意する。
とりあえず明日は、ちょっとだけ髪型に気合いを入れてみよう。藤井さんには劣るだろうけど、ちょっとでも、嫉妬しないですむくらいには、私も頑張らなくちゃ。
「ね、凛ちゃん」




