新しい友だち
「凛、帰ろ」
いつものように松谷くんが私に声をかけてくる。対して私は、目もろくに合わせられずに小さい声で答えた。
「あ⋯えっと⋯⋯今日は友だちと帰る!の、で⋯」
(あぁ──何でもっと上手い嘘つけないんだろ)
ついこないだまで他に友だちのいなかった私が、突然友だちと帰るだなんて、嘘っぽすぎたかもしれない。でも言ってしまったものは仕方ない。
「へー、よかったじゃん?じゃ行くわ」
意外にも松谷くんはあっさりそう言ってくれたので、私はほっと息をつく。
そのとき、後ろから両手で肩をぽん、と叩かれた。
振り返ると、渡辺さんと松浦さんがいた。
「凛ちゃんっ」
「⋯!」
松谷くん以外から名前呼びされるのは、クラスで初めてで、嬉しさのあまりつい口元が緩む。
「すず、ちゃん」
「よかったら一緒帰ろーよ!」
(!)
「うん!あ、ありがとう!」
何で声をかけてくれたんだろうとか、何で誘ってくれたんだろうとか、色々とびっくりする。
衝撃の急展開に頭がついていけないけど、とりあえず前よりは仲良くなれたってことでいい、よね⋯?
*
「あれ⋯?」
「凛ちゃん?どうかしたー?」
「あ、ううん、何でも」
一瞬、反対側の道路に松谷くんがいた気がした。
(⋯あ、気のせいか。よく見たら制服違うし)
「てかさぁ聞いてよ!昨日私がいない間に蓮がうち来て、勝手に人の部屋、てか女子高生の部屋に入ってたんだよ!で今日、『漫画散らけすぎじゃね?』とか言ってさぁ⋯余計なお世話だって感じだよね!!」
渡辺さんが怒りながらそう愚痴ってくる。どことなく惚気に聞こえるのは、たぶん私だけじゃないと思う。
「はいはい、すずは本当、橋本のこと好きだよねー」
「はぁっ?!好きなわけないじゃん、あんな奴!話聞いてた!?」
「だってすず、橋本の話ばっかするし。何だかんだで絡まれるの嬉しいんだもんねー?」
「好きじゃないよ!!そりゃ⋯一緒にいるのは楽だし?でもそれは友だちとしてだもん!」
───友だちと、して。
私の気持ちは、友だちとしてなんだろうか?
「⋯あのさ」
「んー?」
「⋯友情の好きと恋の好きってどう違うの?」
私の言葉に、2人は目を丸くした後、「えぇぇぇぇ!」と同時に叫んだ。